50人に1人が「ひきこもり」の日本社会:回復率と対処法は?
「ひきこもり」が大きな問題となって久しい。「ひきこもり」は必ずしも家に閉じこもっているわけではなく、外出はするものの家族以外の他人との交流がない状態も含まれ、意外に身近な問題なのだ。
現在、学校や仕事に行けず、家族以外との交流もない「ひきこもり」の人は日本に約145万人以上いるとされる。この数字は人口の約2%、つまり50人に1人がひきこもりの状態にあることになる。
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一方、状況が深刻であれば部屋からまったく出てこない、家族と顔を合わせず食事も自室でひとりでとる、家族は手紙を差し入れてコミュニケーションをはかる、ということもある。
厚生労働省は「ひきこもり」を次のように定義している:「様々な要因の結果として社会的参加を回避し、原則的には6カ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態を指す現象概念」
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また、兵庫県精神保健福祉センターによれば、ひきこもりにともなう行動や状態として次のものが挙げられるという:昼夜逆転、抑うつ状態、家庭内暴力(攻撃的な言動を含む)、幼児的なふるまい、対人恐怖、脅迫行動。
90年代には若者の問題行動のひとつとされていたが、最近は大人のひきこもり人口も増加していることがわかってきた。
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2022年に内閣府が行った調査では、若者と中高年におけるひきこもり人口の割合はほぼ同じ2%余りとなっている。
ひきこもりのきっかけには不登校や退職、「人間関係がうまくいかなかった」などがあり、最近では新型コロナウィルスの流行も挙げられている。
ところで、「ひきこもり」という言葉はいつから使われるようになったのだろう。これは1990年に発表された内閣府『青少年白書』で使用され、精神科医の斎藤環氏が1998年に著した『社会的ひきこもり』で一般的になったとされる。
この現象は海外でも「Hikikomori」として知られるようになった。2022年に米国精神医学会が診断基準書に「Hikikomori(ひきこもり)」として紹介(英訳はSocial withdrawal)したほか、アジアや欧州などでも事例報告が増えているという。
こうした状態は、いったいどのくらい続くのだろうか。2023年に内閣府が公表した報告によれば、ひきこもりを体験した人の50%余りは3年以内にその状態から抜け出している。一方、3年から7年かかった人の割合は約25%、7年以上の歳月を要した人は約22%だ。
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一度、ひきこもりになってしまうと、他人や社会との接点がなくなってしまう。前出の精神科医斎藤環氏はNHKに対し、「この状態のまずいところは、すごく安定性が高いこと。一旦こうなってしまうと、元に戻すのはむずかしい」と指摘している。
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NHKがウェブサイトを通じて紹介した例によれば、就職活動でつまづいたある男性は「外に出たいと思いながらも出られず、夜中に時おりコンビニに出かける以外は自宅にひきこもる生活」になったという。
この男性は6年間にわたるひきこもりを経験したのち、地元にある専門クリニックを訪ねた。そこで勧められて同じ悩みを持つ人々との交流会に参加するようになり、少しずつ社会参加に向かっていったという。
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斎藤環氏はこの男性の体験から、「他人からの承認、とくに家族ではない同世代の他人から承認してもらうこと」が本人の自信につながり、回復への力になるとしている。
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長期化に加え、ひきこもりには高齢化の問題もある。これは「8050問題」とも呼ばれ、80歳を超えた親が、ひきこもりになった50歳以上の子を抱えることで発生する問題を指す。だが、どうすればこうしたひきこもり状態から回復することができるのだろうか。
前出の兵庫県精神保健福祉センターの資料には次のようにある:「ひきこもってしばらくは、低下した心のエネルギーを蓄える必要があります。本人が安心できる環境で、十分な休息を取ることが大切です。家庭が本人にとって唯一の居場所なので、まずはゆっくりと休ませてあげましょう」
「心のエネルギーがたまってくると、少しずつ何かに興味や関心を示し始めます。(中略)社会参加を始めても、疲れてしばらく休みたくなることもあります。こういうときは無理をせず休むことも大切です。このように行ったり来たりを繰り返しながら、少しずつ社会に関わる自信をつけて、ゆっくりと回復していきます」
そのためには本人が安心できる環境を確保しつつ、サポートする家族も気持ちを安定させること、本人と家族が適度な距離を取ることが大切だという。気長に構えて伴走することが、遠回りに見えても近道なようだ。