トランプ氏勝利でもウクライナ支援は安泰? NATO主導の大型支援プログラムとは
米大統領選でトランプ氏が再選を決め、ウクライナの安全保障は先行きが見えなくなってきている。だが、これを見越してというべきか、すでにNATOを主体としたウクライナ支援案が提案されていた。
トランプ元大統領が再選を決めるはるか以前に、NATO諸国はウクライナ支援の主導権をNATOが握るための案を練っていたのだ。
大統領選挙の結果が出る以前、2024年初頭の時点で、NATOでは仮にトランプ元大統領が再選を決めた場合ウクライナ支援が阻害される恐れがあるとして対策を練り始めていたという。ロイター通信が報じている。
NATOが検討していたプランは「Mission for Ukraine」という名前で、NATOの管理の下、ウクライナに1,000億ドル規模の支援を行うというものだ。
その1,000億ドルの支援パッケージをNATOが管理するというのがポイントで、トランプ元大統領が再選してウクライナへの支援を切ろうとしても、NATOの権限で継続できる、というのが狙いだ。
この「Mission for Ukraine」はNATOのストルテンベルグ事務総長が提案したもので、32カ国のNATO加盟国が資金を拠出し、NATOが調整することになるという。『テレグラフ』紙が報じている。
同紙のヘンリー・フォイはこう説明している:「もしそのプランが承認されれば、NATOはいままでアメリカが中心となって行われていたラムシュタイン空軍基地会議の主導権を握ることになり、ロシアが2022年に全面侵攻を開始して以来初めて、ウクライナへの殺傷兵器供与を直接管理できるようになる」
このプランの説明を受けたというある匿名の関係者によると、ストルテンベルグ事務総長は同案を「加速する政治的変化の風から機構を守る」ものとして打ち出したという。4月3日の会合以降、このプランは前向きに検討がつづけられてきたという。
今年4月、NATO加盟国の外相らがブリュッセルで2日間にわたる会合を開き、NATOの設立75周年を祝うとともに、7月にワシントンで開かれたNATO首脳会議に向けての調整を行っていた。
ストルテンベルグ事務総長によると、各国外相は同氏が提案した1,000億ドル規模の援助プランの可能性について協議した結果、同案はウクライナ支援に対するNATOの主体性を増すものだとして前向きに検討していくことで合意したという。
NATOが主導権を得ることで多額の資金や武器の供与がコントロール可能になるだけでなく、ウクライナの安全保障支援や軍事指導、長期的な支援などにおいても主要な役割を担うようになる。
プレスリリースによると、ストルテンベルグ事務総長は会合の後でこう語ったという:「ウクライナ国民は戦意を喪失してはいない。ただ弾が足りないだけだ。我々の支援を将来的にもっと強固で堅実なものにするためにはどうすればよいのかを話し合った」
ストルテンベルグ事務総長はプランの詳細はこれから数週間かけて詰めると述べ、さらにこう付け加えた:「ウクライナにはNATOの支援を頼ってほしい。それも長期的に」だが、そもそもなぜこのようなプランが提案されたのだろうか。
複数のメディアが指摘しているように、このような提案がなされた背景には2024年のアメリカ大統領選挙でトランプ元大統領が再選した場合、ウクライナへの軍事支援が停止されるかもしれないという不安があったようだ。そして、その懸念は現実のものとなった。
しかし、ある匿名のEU高官は、トランプ元大統領がもたらし得るリスク以上に、ウクライナで厳しい戦闘が続いているという現実こそがNATO諸国の危機感を高めているのだとも指摘している。
その人物は当時、こう語っている:「これは『もしトラ』が現実的にささやかれるようになる以前から起きていた動きです。トランプ元大統領再選の可能性が高まったことでその動きは加速し、欧州が独自の防衛力を確保することの重要性も強調されるようになりました」
NATOがウクライナ支援への関与を深めようとしている真の理由がなんであれ、この動きでロシアとの関係がますます悪化し、同盟の性質そのものも変化を被ることは避けられないだろう。
『テレグラフ』紙によると、ある外交官はこう語ったという:「賽は投げられたのです。NATOはウクライナへの武器供与の調整役を担うことになります。すでに同意は形成されつつあります。7月のサミットに向かう頃には形になっていることでしょう」
ただし、「Mission for Ukraine」が実現するためには全NATO加盟国の支持が必要なため、そこが足かせとなる可能性はある。交渉は今後数ヶ月にわたって続くとみられ、最終的にプログラムは大幅に縮小されるかもしれないと指摘する外交官も複数存在する。
たとえば、ハンガリーのシーヤールトー・ペーテル外務大臣は5月8日、ハンガリーとしてはNATOによるウクライナ支援案には参加しないと繰り返し言明している。ロイター通信が報じている。
シーヤールトー外務大臣はこう述べている:「ハンガリーは、いかなる圧力を受けようとも、NATOの気の違ったような案には参加しない」また、4月にはハンガリー政府広報のゾルターン・コヴァーチ氏がX上で同案の不支持を表明、その理由として、支援案は「NATOを戦争に引き込みかねず、防衛同盟に攻撃的な性格をもたらし得る」と述べている。
結局、2024年6月、ストルテンベルク事務総長は1,000億ドル規模のウクライナ支援案は放棄したと述べた。NATO加盟国からの反対が強かったためだという。ブルームバーグ・ニュースが伝えている。
当初案に変わって提示されたのが、同じくNATO主導でウクライナに400億ユーロ規模の殺傷・非殺傷兵器支援を行うというものだ。これは、それまでNATOがウクライナに対して行ってきた支援と規模感も大きく違わないものとなっている。
ストルテンベルク事務総長は当時、こう語っている:「我々はすでに毎年400億ユーロほどを(ウクライナ支援に)使ってきた。これを、今後もお願いしたいというのが今回の提案だ。ウクライナが必要としている限り、最低限この規模の支援は毎年継続する必要がある」
「ブルームバーグ」によると、新たな提案はNATO諸国からも幅広く支持を得ているという。ただし、ハンガリーの姿勢は明らかになっていないとも指摘されている。また、NATOが今回の紛争への関与を深めようとしていると取られかねないとしてトルコが反対した、とも伝えられている。