「パーティー・ゲート」で批判の的に:ボリス・ジョンソン英首相の辞任
50人を超える保守党議員たち(ジェームズ・カートリッジ司法省政務次官、ビジネス・エネルギー・産業戦略省政務次官を務めるジョージ・フリーマン、リシ・スナック財務相、ミシェル・ドネラン教育相など)が相次いで辞任する中、ボリス・ジョンソン英首相はついに辞任を決断したと発表した。
7月7日の朝、ボリス・ジョンソン首相は保守党議員委員会の長グラハム・ブレイディ卿との会合を持った。『ガーディアン』紙は首相官邸関係者の話として、この会談を経てジョンソン首相は辞任に同意したと伝えている。
クリス・ピンチャー院内副幹事長のスキャンダルに伴って、ジョンソン内閣は6月に不信任決議案を突き付けられており、なんとかこれを切り抜けたところだった。しかし「パーティー・ゲート」事件の調査をはじめ、ここ1ヶ月の不祥事でボリス・ジョンソン首相のリーダーシップを疑問視する人は増え続けていた。ここで首相辞任までの流れを追ってゆこう。
コロナウイルス対策を無視して首相官邸で行われたとされるパーティーについて、スー・グレイによる最終的な調査報告がようやく発表されたのは5月だった。
報告書の公表が遅れたのは、警察が調査中だったため発表を見合わせていたためだ。調査の結果、合計126人に罰金が科されることとなった。
有罪とされたジョンソン首相にも他のパーティー参加者と同様に罰金が科され、テレビで公式に謝罪することとなった。
コロナウイルスによるロックダウン中に、首相官邸でグラスを片手に人々に囲まれるジョンソン首相の写真がリークされたことで、疑惑はさらに深まっていた。もはや、ごまかし続けることはできなくなっていたのだ。
「パーティーゲート」事件の調査が始まってからというもの、ジョンソン首相はより差し迫った問題に注目を集めることでスキャンダルから人々の目を逸らそうとしていた。
『インデペンデント』紙によれば、重要参考人への聞き取り調査を開始したロンドン警視庁は、「ロックダウン中に行われたとされる『集会』について調査するため、首相官邸スタッフや政府関係者に向けて100通を超える調査票を送った」という。
『インデペンデント』紙によれば、ロンドン警視庁の広報担当者は調査に時間がかかったことについて次のように説明しているという:「100通を超える調査票を配布し回答を個別に評価するなど、かなりのリソースを割く必要があった。我々はできる限り迅速に調査を進めた」
一体、調査はどのように行われ、事態はどのように進展したのだろうか?ここで詳しく振り返ってみよう。
事の発端は、ジョンソン首相が「スタッフに感謝するため」2020年に行われたガーデンパーティに「およそ25分間」顔を出したとして、国民や同僚から批判を浴びたことだ。しかし、首相は「仕事に関するイベントだと認識していた」と弁解した。
首相は当時「後から思えば、参加者全員を建物の中に入れるべきだった。他の方法で彼らに感謝の意を表すこともできたはずだ。これはガイドラインの問題であると言えるかもしれないが、このような説明では納得しない人々が非常にたくさんいることも認めざるを得ない」と述べた。
写真:YouTube / 英国議会
しかし、ITV放送が独占的に入手した告発メールによって、仕事に関するイベントであるという首相の説明とは裏腹に、同僚を招いて行われたパーティだったことが判明。しかも、2020年5月のロックダウン中の出来事だというのだ。
英国では複数の人が屋外で集まることが禁止されていたにもかかわらず、首相の秘書から2020年5月20日に行われる「素晴らしいひととき」への招待メッセージが「首相顧問やスピーチライター、コンシェルジュなど、官邸に努める100人以上のスタッフ」に対して送られていたのだ。
2019年10月から今年までジョンソン首相のオフィスを運営していたレイノルズ氏が出したメールには次のように書かれていたという:「皆さんこんにちは。お忙しい毎日をお過ごしかと存じます。このたびは素晴らしいひとときをお楽しみいただくため、首相官邸の庭でパーティを開催させていただくこととなりました。本日午後6時から、お飲み物をご持参の上ご参加ください」
BBC放送によれば、レイノルズ氏は後日、特別顧問に送ったメッセージの中でこう書いたとされる:「幸運を祈る。これはただの噂ではないのだから。しかし、我々の飲み会に注目されるよりはましだ(どうやら逃げ切ったようだが)」
2021年末『ミラー』紙が英国民はバカにされていると報道。というのも、ジョンソン首相は当時のコロナウイルス対策を無視して、首相官邸でクリスマス・クイズ大会を開催したというのだ。これに対し、アルコール類は出されなかったため「パーティー」には当たらないと反論する人物が現れる。
『インデペンデント』紙によれば、事件当時ワクチン担当大臣を務めていたナディム・ザハウィが、集会には「アルコールがなかったのでパーティーとは呼べない」と首相を擁護したというのだ。しかし、大半の人々はこのような苦しい言い訳を受け入れず、不適切な行動をとった首相の辞任を求め続けた。
ジョンソン首相を以前から批判していた労働党のキア・スターマー党首が、彼について「最悪のタイミングで現れた最悪のリーダー」であり、自分自身で権威を貶めたとツイッターで述べたのは当然と言える。さらに、首相が所属する保守党からも事実を明らかにするよう求める圧力があったという。
首相官邸の高官たちがクリスマス・パーティーについて冗談を言う姿を捉えた映像が公になると、ジョンソン首相は嘘つきの烙印を押されることとなった。しかし、首相官邸は一貫してクリスマス・パーティーなど行われていないと主張。
ジョンソン首相と側近たちは、昨年12月に首相官邸スタッフのために開催されたとされるイベントについて、コロナウイルス対策に違反していないばかりか、そもそも開催されていないと繰り返した。しかし、英国民はクリスマス・パーティーに関する「冗談」について説明するよう求めた。
ITV放送が入手、公開した映像には、非公開にされるはずだった2020年の会話が記録されていた。ある首相顧問とアレグラ・ストラットン報道官が「金曜日の夜に首相官邸で行われたクリスマス・パーティー」について冗談を言う姿が写されていたのだ。
映像が撮影されたのは2020年12月22日。複数の情報筋によると、12月18日の金曜日にコロナウイルス対策を無視して首相官邸でスタッフ向けパーティーが行われたとされている。情報提供者は『ガーディアン』紙や『ミラー』紙、BBC放送などに対し、現場は数十人の参加者で混雑しており、飲み物と食べ物(ワインとチーズ)が出されたほか、ゲームや「シークレット・サンタ」によるプレゼント交換が行われたと証言した。
『フィナンシャル・タイムズ』紙の政治部記者のローラ・ヒューズは、パーティに関する情報をリークした官僚についてツイート。彼は『フィナンシャル・タイムズ』紙に対して、40~50人ほどが参加しており「本当に良くない」状況だったと述べたという。
ワクチン担当大臣を務めたマギー・スループはBBC放送の質問に対し、しどろもどろな回答:「ガイドラインはいつも通り守られていたと言ったではないですか。イベントがどうであれ、ガイドラインは守られていました。噂に過ぎません」
2021年、BBC放送のアンドルー・マールが司会を務める番組で、パーティの開催は「間違い」だったと述べたドミニク・ラーブ副首相だが、すぐに「根拠のない」情報だと否定。
しかし、副首相はパーティーが開催された事実そのものを否定したのだろうか?それとも、ソーシャル・ディスタンスの問題にのみ焦点を当てたのだろうか?番組の中で副首相は「首相の立場は明確です:規則は厳守されていたということです。私自身はその場におりませんでした」とコメントしたが、次期首相の座への野望がちらついて見えなくもない。
『フィナンシャル・タイムズ』紙のローラ・ヒューズ記者は、前述の情報提供者が以前に行われた他のパーティーにも言及しているとツイッターで報告。ジョンソン首相の協力者、リー・ケイン元広報部長の退任パーティーだったという。
その後、12月9には『タイムズ』紙がさらに別のパーティーについて報道。こちらは2020年12月14日に行われたとされる。
多くの英国民が家に閉じ込められていた2020年のクリスマスの時期に、首相官邸ではパーティーが行われていたという事実は、SNSやテレビ、マスコミを通して国民の怒りを掻き立てることとなった。
『インデペンデント』紙は情報筋の話として、首相官邸のクリスマス・パーティーについてジョンソン首相が「恥知らずな嘘」を吐くのを目の当たりにした保守党議員が、怒りに駆られて離党したと伝えている。
また、アレグラ・ストラットン報道官も辞任。BBC放送によれば、涙を流しながら「私は今後ずっと、あのことを後悔し続けるでしょう」と述べたという。
労働党のキア・スターマー党首は「パーティー・ゲート」事件の混乱を非難、規則を遵守していた市民に対する侮辱だとした。また、下院では首相について「国民をバカにしている」と発言している。
疑惑の調査を請け負ったスー・グレイは2月に最初の調査報告を行い、5月には最終的な報告がなされた。その結果、ジョンソン首相は内閣および国民の信頼を失い、辞任を与儀なくされてしまった。