「人類に残された時間は90秒」:世界終末時計が警鐘を鳴らす
2024年の「世界終末時計」が発表された。人類滅亡までの残り時間を象徴的に示したもので、2023年に残り90秒という過去最短を記録したが、2年連続で90秒となった。戦争、核の脅威、気候危機など、人類がこれほど滅亡の可能性を意識する時代は過去になかった。
米国の科学誌『原子力科学者会報』は、科学的根拠に基づいて人類滅亡までの残り時間を予測し、年に一度発表している。残された時間を象徴的に表すのが雑誌の表紙に描かれる「世界終末時計」で、午前0時を人類滅亡の時刻としている。
2024年1月、『原子力科学者会報』誌が「世界終末時計」を更新。それによれば、人類滅亡の時は昨年と同じく「90秒後」に迫っているという。
同誌によれば、ウクライナ戦争、制御不能な人工知能(AI)の可能性、気候危機をはじめとするた「地球規模の大惨事」により、人類に残された時間は90秒になるという。
さらに同誌は、「各国の政府や市民社会は緊急に行動を起こす必要がある」と呼びかけている。
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「世界終末時計」が誕生したのは1947年、核兵器という脅威を前に人類に迫るリスクについて視覚的に伝えたのがきっかけだ。現在では核兵器のほかに、気候変動やパンデミックといった脅威もリスク計算の対象になっている。
「世界終末時計」を考案したのは、いわゆるマンハッタン計画(第二次世界大戦中に行われた米国の原発開発計画)に携わった科学者たちだ。広島と長崎に投下された原爆の威力を目の当たりにしたメンバーだ。
「世界終末時計」が初めて発表された年は1947年、時計の時刻は「午前0時まで7分」となっていた。
ベルリンの壁が崩壊した1991年、「時間」を測定する原子力科学者たちは明るい兆しを前に、時計を真夜中の17分前とした。この最長記録は現在まで更新されていない。しかしこの年はジョージ・W・ブッシュが米大統領の座にあり、やがてイラクや旧ユーゴスラビアで戦争が勃発したことから世界平和の夢は消え去ってしまった。
英国圏のポップカルチャーには、真夜中に世界の終わりを告げる「世界終末時計」を取り上げた作品が多い。イングランド出身のヘヴィメタル・バンドのアイアン・メイデンの曲「悪魔の最終兵器(Two minutes to midnight)」もそのひとつだ。
冷戦が続いていた1985年に流行したスティングの曲「ラシアンズ」のミュージック・ビデオにも、冒頭に「世界終末時計」が登場している。
「世界終末時計」を支持する人々の中には、悲観的な意見を持つ者が少なくない。ケンブリッジ大学の研究者S.J.ビアードは2022年、「世界終末時計には、人類の危機対応能力がこれまで以上に悪化していることが示されているのかもしれない」とBBCに寄稿している。
そこから、「世界終末時計」のようなツールは意識を高めるというよりも、むしろモチベーションを下げると考える人もいる。破滅が避けられないのなら、考えない方がいいというわけだ。
画像:Elisa Ventur / Unsplash
ウィキペディアの「世界終末時計」の項目には、マイクロソフトのオンライン誌『Slate』のアレックス・バラシュによる興味深い指摘が引用されている。それは「人類を厳戒態勢に置き続けることは、政治や科学に関して言えば役に立たない」というものだ。
画像:Sincerely Media / Unsplash
21世紀の人類は、疾病、気候変動、大規模な武力紛争などさまざまな脅威にさらされている。そのことが今再び「世界終末時計」が注目を集めている理由となっているのかもしれない。
「世界終末時計」が目指しているのは平和な社会の実現と非核化、そして気候変動との闘いだ。
画像:Alexandru Vicol / Unsplash
昨年に続き、今年も「世界終末時計」の時刻は残り90秒となり、世界は危機的状態にあると言える。だがしかし、人類が未来に向けて努力する可能性はまだ絶たれていない。
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