警戒感を高めるヨーロッパ、「第三次世界大戦」への備えを進める

大戦に対する警戒感の高まり
「戦争の準備をしつつある」
ポーランド大統領の発言
いまは「戦前」
フランスのマクロン大統領
イギリスの姿勢
国防費の増大
もしトランプ氏が勝てば……
NATOやアメリカに頼らずとも
平和主義の長い伝統
思考様式を転換するとき?
大衆を説得するための言説にすぎない?
大戦に対する警戒感の高まり

ヨーロッパのバルカン半島は第一次世界大戦のきっかけとなるサラエボ事件の起きた場所だ。さらに21世紀を目前にした1999年には、悲惨なコソボ紛争が勃発した。現在、ヨーロッパ東部のウクライナそして中東で戦争が続くなか、欧州諸国は差し迫りつつある第三次世界大戦の気配に警戒感を高めている。

 

「戦争の準備をしつつある」

ベルギー・ブリュッセルに本拠を置く政治ニュースメディア『POLITICO Europe』のビャルケ・スミス=マイヤー(Bjarke Smith-Meyer)記者は、2024年2月掲載の記事をきっぱりとした調子で始めている。「ヨーロッパは戦争の準備をしつつある。そのことはもう明白だ」

写真は1999年のコソボ。

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ポーランド大統領の発言

その指摘を裏付ける内容の発言を、ポーランド大統領のドナルド・トゥスク氏(写真)もドイツ紙『ディ・ベルト』のインタビュー(2024年3月に掲載)でおこなっている。「戦争はもはや過去に属する概念ではありません。それは現実のものであり、すでに2年も前から始まっています」。そしていま最も気がかりなのは、文字どおりどんなことでも起こりうる、という先行きの読めなさであるとし、「我々は1945年以来初めての状況におかれているのです」と、述べている。

いまは「戦前」

ポーランド大統領のドナルド・トゥスク氏は、同インタビューで続けて次のように述べている。「とりわけ若い世代にとって、これはむろん気の滅入ることではあります。それでも我々は、新しい時代がすでに始まったのだという認識に体を慣らしていかねばなりません。そう、今は戦前の時代なのです」

フランスのマクロン大統領

現在のヨーロッパが「戦前」にあるとするポーランド大統領の見解は、欧州主要国で高まりつつある徴兵制復活の議論と響きあっている。ベルリンの壁崩壊以降、大多数の西欧諸国が義務的兵役の制度を廃止してきた。しかし最近の指導者のなかには、フランスのマクロン大統領のように、兵役の再導入を掲げる者もいる。実際フランスでは2018年、普遍的国民役務というフランス国民の義務のなかに、軍隊訓練への参加義務を盛り込む計画があったのだ(そのときは結局、兵役の導入は避けられた)。

イギリスの姿勢

イギリス当局も市民に向けて発信している。BBC放送によれば、グラント・シャップス国防相は次のような声明を出したという。「我々は戦後の世界から戦前の世界へとすでに移行している」。また、イギリス陸軍大将パトリック・サンダース(写真)は1月、「国民を動員する」ことについて自説を展開し、職業軍人たちを一種の「市民軍」によって補強するという構想を語っていた。

国防費の増大

根強い反対はあるにしても、欧州の指導者はその大多数が国防費の増大を目指している。もしアメリカ大統領選でトランプ氏が勝利したら(それはいかにも起こりそうなことなのだが)、国防費の増大はさらに喫緊の課題となってくる。

もしトランプ氏が勝てば……

トランプ氏は他国の戦争について軍事介入を嫌う非介入主義者であり、そのうえプーチン大統領とも気が合う。また、米国がNATOにおける主導的な役目を担うべきとも考えていない。なによりトランプ氏はことあるごとに、他国の防衛のために米国の予算を使うことはしたくないと語っている。したがって、もしトランプ氏が大統領選に勝つことになれば、米国が欧州の方針に背を向ける可能性もありうるのだ。

NATOやアメリカに頼らずとも

したがって欧州の権力中枢にある人々は、国防費の増大を実現すべく動いている。国防費を増やし、兵士と武器を増やすことで、NATOや米国に頼らずとも自分たちの力で自分たちの領土を守れるように、というのがその目的だ。

 

平和主義の長い伝統

とはいえ、欧州の左派の人々は、戦争を憎む平和主義者としての長い伝統を持っており、軍事費を増やすようなことはなんであれ反対しないわけにはいかない。

思考様式を転換するとき?

しかしアナリストの中には、左派陣営が思考様式を転換するときが今まさに来ていると指摘するものもいる。なにしろ戦争の脅威は日に日にリアルなものになっているのだから、と。たとえば政治学者のカス・ミュデが、『ガーディアン』紙でこう論じている。「平和主義と軍国主義のあわいに存在する民主主義的な地点を拠り所として欧州の軍隊を組織する。そのようなプランを打ちたてること、そしてそのプランを守り抜くことは、ひとえに(中道)左派の手腕にかかっています」

写真:Egor Myznik / Unsplash

大衆を説得するための言説にすぎない?

その一方で、平和主義者や強硬な左派の中には、政治家やメディアが欧州における戦争の可能性についてしきりに警鐘を鳴らしていることをいぶかしむ者もいる。彼らの基本的方針はどこまでも戦争に抗うことであり、戦争は避けられないと開き直ることではないからだ。彼らが危惧するのは、人々がやかましい警鐘を耳にして浮き足立ち、なんとなく好戦的な方向へと引っ張られていってしまうことである。

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