『ハリー・ポッター』聖地のかかえる厄介な問題:ファンの捧げものが聖地を破壊......
ウェールズ南西部ペンブルックシャー州の海岸沿いは、一帯が国立公園に指定されており、草原と岩場と砂浜からなる美しい景観が広がっている。その広大な公園の一部をなしているのが、フレッシュウォーター・ウェストと呼ばれるビーチである。しかし、このビーチでは近年観光客が激増し、見過ごすことのできない問題が発生している。
フレッシュウォーター・ウェストは以前から、地元サーファーにとってはよく知られたスポットだった。シーズンになると、良質な波を求めて多くのサーファーがその広いビーチに集う。ただし、地元観光案内情報サイトが注意を促しているように、潮流が強いためけっして初心者向きではなく、経験豊富で泳ぎの得意なサーファー向けである。
とはいっても、かつての同ビーチはそれほど多くの観光客が詰めかけるような場所ではなかった。しかし、15年ほど前に事情が大きく変わる出来事があったのだ。
その出来事とは、2010年に2本の映画、ラッセル・クロウ主演の『ロビン・フッド』と『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』が公開されたことである。フレッシュウォーター・ウェストはそのロケ地として一躍有名になったのだ。ただし、今回の話題でより重要なのは、『ハリー・ポッター』のほうである。
『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』には「貝殻の家」という特徴的なコテージが出てくるが、そのシーンは同地で撮影された。そして、同作をすでに鑑賞した人ならご存知のとおり、同シリーズの主要登場人物である屋敷しもべ妖精「ドビー」は、このコテージを見下ろす砂丘で永遠の眠りについているのだ。
写真:『ハリー・ポッターと秘密の部屋』
ハリー・ポッターを窮地から救ったドビーは、その時に負った傷がもとで、ポッターに看取られながらこの海岸で息をひきとる。ポッターは手ずから穴を掘って亡骸を葬り、手ごろな石に「自由な妖精ドビー、ここに眠る」と銘を記してその墓標とするのだった。熱心な『ハリー・ポッター』ファンが当地まで足を運ぶのは、その余韻を味わいたいがためである。かくして、奇しくも「ドビー終焉の地」になった結果、地元の経済は活況を呈し、新たな雇用を生み出すまでに至った。
さて、フレッシュウォーター・ウェストには『ハリー・ポッター』ファンが思い思いに作り上げた「ドビーの墓」が無数にあり、この写真もそのひとつだ。十字架に靴下がかぶせられたり結ばれたりしているのは、靴下というアイテムがドビーの人生に一大転機をもたらしたからである。
しかし、ドビーの墓へのこのような供え物が、自然環境にとって看過できない問題を引き起こしているという。BBCによると、同ビーチを管理しているナショナル・トラスト・ウェールズは声明で、「靴下や装身具、ペイントされた小石からはがれた塗料片は、海洋環境や食物連鎖の中に入り込み、野生生物の暮らしを脅かす可能性がある」としている。
この状況を前にして、2022年にナショナル・トラストはドビーの墓を別の場所に移すことを提案したと、BBCは報じている。
『ニューヨーク・タイムズ』紙によると、その提案を受けてアンケート調査が実施され、オンライン投票と地元住民の投票をあわせて5,000人から回答が得られたという。気になる結果は、墓の移転に反対する回答が大多数を占めるというものだった。
このビーチと似たような問題に直面しているのが、スコットランドのグレンフィナン村である。スコットランド紙『デイリー・レコード』によると、150人あまりが暮らす同村落は、やはり『ハリー・ポッター』の聖地になったことから、多すぎる観光客という悩みを抱えるに至ったのだ。
同紙によると、2023年には50万人以上の観光客がこの小さな村を訪れ、村にかかるグレンフィナン高架橋を通過する蒸気機関車に熱い視線をそそいだという。ホグワーツ魔法魔術学校行きの汽車(ホグワーツ特急)に乗ったハリー・ポッターの一行は、映画の中でまさにこの高架橋を通過しているのだ。
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