世界保健機関、今後25年間でがん患者数が77%増加と予想:その理由と問題とは
世界保健機関(WHO)が今後25年間で世界のがん患者数が激増することを予測。現状では患者の負担を減らすための主要サービスが不足しているという。
WHOのがん専門機関である国際がん研究機関(IARC)が2022年に世界各国から入手したデータに基づいて推計したところ、世界のがん患者数は2050年までに77%増加すると見られている。
また、このデータによれば、がん診断後5年以内の生存者数は約5,350万人と推定され、がんによる死者は約970万人に上った。
さらに、生涯において約5人に1人ががんを発症し、男性の約9人に1人、女性は約12人の1人ががんで死亡するとした。また、先進国と発展途上国の間でがんケアの格差が生じており、問題を深刻化しているという。
「すべての人が適切な予防、治療、機能回復に関する保健医療サービスを支払い可能な費用で受けられる状態」をユニバーサル・ヘルス・カバレッジと呼ぶ。WHOのプレスリリースによれば、115カ国を対象とした調査の結果ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの一環として基本的ながん医療をカバーしている国はわずか39%であったという。
さらに、がんに伴う痛みや一般的なレベルの痛みに必要な緩和ケアの費用をカバーしている国は、調査対象国の28%に過ぎなかった。
IARCは2022年に約2,000万人だった新規がん患者数が、2050年は大幅に数を増やし3,500万人以上に達すると予測した。しかし、全世界で均等に増加するわけではなく、特に死者数に関しては発展途上国でより大きな影響が出ることになるとみられる。
人間開発指数(HDI)を参照すると、がんの与えるインパクトが地域ごとに異なっていることがわかる。これは健康、教育、所得の側面から各国の発展レベルや豊かさを測るための指標だ。
アメリカ、ドイツ、日本のような国は人間開発指数(HDI)が高く、スーダン、インド、タンザニアのような国は低い。国際がん研究機関(IARC)によると、がんはHDIの高い国ほど罹患率が高いが、低い国ではより多くの人が死亡しているという。
IARCのがん調査部門副部長イサベル・ソエルジョマタラム博士によれば、誰に影響を与え誰を死に至らしめるかという点で、乳がんは世界の不平等問題を内包しているという。
ソエルジョマタラム博士はこうコメントした:「HDIが低い国では高い国と比較して、乳がんと診断される女性の割合が50%低いにもかかわらず、診断が遅れたり質の高い治療が十分に受けられないため乳がんで死亡するリスクがより高くなっています」
世界保健機関(WHO)はプレスリリースの中で、この新たな調査により「世界におけるがん医療の不平等に対処する」必要性が明らかになったとした。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ達成にむけた第一歩は、緩和ケアの著しい欠如に対処することだろう。
「平均して、人間開発指数(HDI)が高い高所得国のほうが低所得国より放射線治療を受けられる患者の割合が4倍高い」とWHOは指摘する。
またHDIの高い国ではがん患者数が激増することが予測されている。2050年にはがんと診断される人が2020年よりも480万人増え、死亡率もほぼ倍になるという。
IARCのがん調査部門を統括するフレディー・ブレイ博士はこうコメントした:「がん患者数の増加の影響がHDIレベルの異なる国々に均等に及ぶことはないでしょう。がんによる負担に対処するリソースが最も乏しい国々が、もっとも深刻な影響を受けることになるでしょう」
がん患者の急増が予測される背景には高齢化と人口増加があげられる。さらに、社会的・経済的状況に応じてがんの要因にさらされる可能性が増減することになる。
世界保健機関のプレスリリースによれば、「がん発症率増加の主な原因はタバコ、アルコール、肥満で、大気汚染は依然として環境リスクの重要な要因のひとつであるという。