ゼレンスキー大統領の見解:ワグネル反乱を経たプーチン政権の行方
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、モスクワまでおよそ200キロメートルのところまで迫ったワグネルによる武装蜂起後にプーチン政権がとった対応について、「弱腰」であり権力が揺らいでいる証拠だとコメント。
ゼレンスキー大統領はオデッサでCNN放送のエリン・バーネット特派による独占インタビューに応じ、民間軍事会社ワグネルを率いるエフゲニー・プリゴジンが引き起こした反乱と、これに対するプーチン政権の反応についてウクライナ側の見方を明らかにした。
同特派員に、ワグネル反乱後プーチン大統領の姿勢には変化が見られるのかと訪ねられたゼレンスキー大統領は、ウクライナ当局の見解を次のように述べている。
CNN放送によれば、ゼレンスキー大統領は「誰もが、ワグネルの進軍に対するプーチン大統領の反応を目撃しました。弱腰でした」と返答。
同大統領いわく:「まず、プーチン大統領がすべてをコントロールできているわけではないとわかりました。ワグネルはロシアの内陸部まで進軍し、いくつかの地域をやすやすと占領してしまったのですから」
さらに、ロシア軍の部隊は大部分が国外に派遣されており、プーチン政権はロシア各地の治安をコントロールできていないとした。
プリゴジン率いるワグネル部隊の進軍を阻止できるようなロシア軍部隊は残っていなかったため、反乱軍はモスクワまであと一歩というところまであっという間に到達。ゼレンスキー大統領は「誰にも彼らを止めることはできませんでした」と述べ、プーチン大統領の統制力がロシア国内で低下していると指摘した。
さらに、「我々の理解によれば、プーチン大統領は地方当局を掌握できておらず、各地の国民すべてをコントロールしているわけではありません。つまり、以前は多用していた強圧的な権力が今や揺らぎはじめているわけです」とした。この指摘はプーチン政権の不透明な先行きを暗示している。
これに対しバーネット特派員は、プーチン大統領が今もロシア軍の指揮権を完全に握っていると考えられるかについて質問。ゼレンスキー大統領は、プーチン大統領がすべてのプロセスをコントロールしているとは思えないが、軍に命令を下しているのは本人だろうとした。
ゼレンスキー大統領はさらに、「プーチン大統領はロシア軍上層部に指令を出しています。そして、彼らは職を失うことを恐れて(命令に従って)います。けれども、中級・下級の将校や現場の兵士などを理解しておらず、統制もできていません」と私見を述べている。
プーチン大統領が中級以下の軍人たちをどの程度コントロールできているのか判断するのは難しい。とはいえ、アナリストや各国の当局者たちも、プリゴジンの反乱でロシア国内の脆弱さが露呈したというゼレンスキー大統領の見方におおむね同意している。
米国のアンソニー・ブリンケン国務長官はワグネルによる反乱の直後、CBS放送の番組に出演。司会を務めるマーガレット・ブレナンに対し、「これはプーチン大統領の権威に対する真っ向からの挑戦」だったと説明。プーチン政権の支配力に「大きな疑問符」がついたとした。
同国務長官はさらに、「亀裂が垣間見えます。それが今後どのような影響を及ぼすのか正確に推測することはできませんが、プーチン政権にとって今後数週間、数ヵ月のうちに答えを出さなければならないことはたくさんあるはずです」とした。とはいえ、ワグネル反乱の余波が目に見える形で現れるまでには、しばらく時間がかかるだろう。
プリゴジンによる反乱はあっという間に収束し、政権打倒には至らなかった上、要求していたロシア軍上層部の刷新もなされない可能性がある。とはいえ、反転攻勢に乗り出したウクライナにとって、この混乱はチャンスとなったはずだ。
プリゴジン率いるワグネルは数万人の死傷者を出しながらも、9ヶ月以上に渡ってウクライナ東部の要衝バフムートを攻撃。3月中旬に同市全域を占領し、ロシアにここ数ヵ月では唯一となる戦果をもたらした。
米国海兵隊のスティーヴ・ガンヤード元大佐はABC放送にコメントを寄せ、今回の反乱で重要なのはワグネルが戦線から離脱させられるということであり、「ウクライナにとっては朗報」とした。
「ワグネルは戦場でもっとも有能かつ戦闘力の高い部隊の1つでした」と述べるガンヤード元大佐。したがって、今回の騒動は、ウクライナにおける戦況の変化につながる可能性もある。