もっとも一般的なバナナの品種が絶滅寸前?
世界中で人気の果物バナナだが、現在もっとも一般的なキャベンディッシュ種に残された時間はそう長くないかもしれない。というのも、菌類による病害が広がりを見せており、有効な対策が見つかっていないのだ。
ニュースサイト「ビジネスインサイダー」によると、世界では毎年およそ1,000億本のバナナが消費されており、その大部分はキャベンディッシュ種で占められているという。この品種は人々が口にするバナナ全体の47%を占めているため、由々しき事態だ。
世界中で生産されるバナナはほとんどがキャベンディッシュ種に偏っており、様々な品種が併存するその他の果物と比べるとバナナ産業は病害に弱いのだ。
実際、『バナナの世界史:歴史を変えた果物の数奇な運命』の著者ダン・コッペル氏はビジネスインサイダーに対し、バナナとは対照的にリンゴは多様な品種が生産されているため病害の影響を受けにくいと説明。
同氏いわく、「米国の一般的なスーパーマーケットはリンゴを5~30種類も扱っています。リンゴ生産者たちは自然に生まれた品種に加え、交配や遺伝子組み換えも駆使して新たな品種を生み出そうと熱心に取り組んでいるのです」
しかし、リンゴとは異なりキャベンディッシュ種が生産量の大半を占めるバナナ産業は、新パナマ病(TR4)という菌類の拡大で深刻な危機に直面している。
新パナマ病の病原菌はバナナの根から侵入して全体に広がり、水分の吸収や光合成を阻害することでバナナを枯死させてしまうという。
しかし、問題はバナナが枯れてしまうだけに留まらない。前出のダン・コッペル氏いわく本当に憂慮すべきなのは、1990年代以降この病害が世界各地の農園に広がりつつあることだという。
コッペル氏は2016年にCNN放送の取材に応じ、新パナマ病の脅威についてこう述べている:「フザリウム属とよばれるとても一般的な真菌によって引き起こされます(中略)この菌に汚染された土がひと掴みもあれば、病害は山火事のように拡大してしまいます」
コッペル氏によれば、この菌は風や自動車、水などを通じて各地に運ばれ、辿り着いた場所で新たな被害を引き起こすおそれがあるという。しかし、実はバナナ産業がこのような危機に見舞われるのはこれが初めてではない。
『ニュー・サイエンティスト』誌によれば、キャベンディッシュ種が世界でもっとも一般的なバナナとなる遥か以前、西欧諸国に広く輸出されていたのは主にグロス・ミチェルという品種だったという。
写真:Wiki Commons by Zwifree
ところが、グロス・ミチェル種はパナマ病(TR1)と呼ばれる近縁のフザリウムによって大打撃を受ける。1920年代に感染が広がり始め、1950年代にはほぼ絶滅してしまったのだ。
キャベンディッシュ種はグロス・ミチェル種よりも甘味が少なかったが、TR1に対する耐性が高いために、バナナ農家は一斉に品種を切り替えたという経緯がある。したがって、効果的な対策が発見されなければ、キャベンディッシュ種もまた同じ運命をたどってしまうかもしれない。
新パナマ病(TR4)は1997年にオーストラリアの都市ダーウィンで発生し、2015年ごろまでには同国全体に拡大。クイーンズランド工科大学のデール・ジョンソン教授はビジネスインサイダーの取材に対し、事態は悪化の一途をたどっているとした。
ジョンソン教授いわく:「以来、この菌は世界最大のバナナ生産国であるインドや中国へと広がりました。さらに、中東やアフリカへ拡大したほか、最近では南米でも感染が確認されるようになっています」しかし、この事態を前に研究者たちもただ手をこまねいているわけではない。
写真:George Kantartzis / Unsplash
ジョンソン教授の研究チームは、キャベンディッシュ種に遺伝子組み換えを施し、新パナマ病(TR4)に高い耐性を示す「QCAV-4」という品種を生み出している。
一方、ビジネスインサイダーによれば、台湾バナナ研究所はTR4に耐性のある個体を選別することで、より病害に強い品種を生み出そうとしているとのこと。しかし、コッペル氏によれば、こういった努力だけでは対策が不十分だという。
写真:Monika Guzikowska / Unsplash
「こういった品種は確かに比較的耐性があります。とはいえ、今のところ誰も根本的な解決に近づくことはできていません。モノカルチャーを終わらせ、品種の多様性を確保するしかないのではないでしょうか」
写真:Eric Prouzet on Unsplash