北朝鮮を脱出するには:より良い暮らしを求めて彷徨う人びと
金一族が抑圧的な支配体制を敷く北朝鮮。では、母国からの脱出を決意した一般市民にはどのような運命が待ち受けているのだろう?
北朝鮮から脱出した市民について、韓国では「北韓離脱住民」という公式な用語が用いられている。しかし、近年は「脱北者」という言葉が多用されるようになってきた。
一方、北朝鮮政府は脱北者を「亡命者」とみなしているが、この呼び方は一部専門家たちから厳しい批判を浴びている。というのも、脱北者が出国を決意するのは多くの場合、政治的な理由からではなく、貧困と飢餓が動機だからだ。
脱北者には主に2つの選択肢がある:北方の国境を越えて中国に入国するか、反対に38度線を越えて韓国に入国するかだ。まず、韓国に向かった脱北者の運命を見てゆこう。
韓国の場合、脱北者が市民権を取得するのは容易だ。しかし、北朝鮮から韓国に向かうのは、ただ南下すればよいというほど簡単ではない。
38度線をはさんだ両側には「非武装地帯(DMZ)」が設定されている。しかし、「非武装」の名前にもかかわらず地雷が一面に敷設されているほか、塀や見張り塔が往来を阻んでいる。しかも、非武装地帯をはさんで南北両国軍がにらみ合いを続けており、世界で最も軍事化された国境のひとつとなっているのだ。
したがって、現実的な脱北経路は中国ルートということになる。実際、脱北者の大半は中国、とりわけ北東部の吉林省や遼寧省を目指すのだ。
しかし、中国政府が北朝鮮政府と良好な関係を保ち続けているのは周知の事実だ。国際的に孤立する北朝鮮にとって最大の貿易相手国は中国なのだ。
中国政府は脱北者を不法な経済移民と見なし、定期的に送還している。そして、送還された脱北者を待ち受けるのは再教育キャンプへの移送など厳しい処罰だ。
香港紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』によれば、中国経由で韓国を目指す脱北者たちは通常、徒歩あるいはバスや船を利用して4,000キロメートルあまりの道のりを踏破しなくてはならないという。
しかし、BBC放送の報道によると、脱北者の試練は韓国に到着すればそれで終わりというわけではないようだ。
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まず、北朝鮮のスパイでないことを証明するため、韓国当局の審査を受けなくてはならない。
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次に「ハナウォン」とよばれる支援施設で3ヵ月の教育を受けることとなる。何しろ、ATMの使い方から民主主義の仕組みまで、ありとあらゆる事柄を身に付けなくてはならないのだ。
「ハナウォン」での教育を終えた脱北者は、支援団体や教会のサポートのもと公共住宅で暮らし始め、担当の警察官も割り当てられるという。
画像:Daniel Bernard / Unsplash
支援施設では就職の方法も指導されるが、脱北者がチャンスに恵まれることはめったにない。
BBC放送によれば、女性の場合ウェイトレスや店員、調理人といったサービス業が、男性の場合は建築業やオンラインショップの配達員といった仕事が一般的だという。
韓国政府は脱北者に対し、補助金や奨学金をはじめとする支援プログラムを用意しているが、一般的な韓国市民に追いつくのは容易ではない。
写真:餓死したとされる脱北者親子の追悼の様子
『The Conversation』誌の記事によれば、脱北者の80%は女性だという。しかし、興味深いことに韓国社会への適応に苦労するのは、母国で高い地位にあった男性のほうだという。
しかも、韓国で脱北者たちは偏見や疑いの目を向けられることになる。そのため、しがらみのないヨーロッパや米国への移住を決断する脱北者もいる、と『The Conversation』誌は伝えている。
また、韓国における民主主義・資本主義社会に適応できず、北朝鮮に帰国する人もいるようだ。
ただし、『ガーディアン』紙はこのようなケースは非常に稀だとしている。実際、脱北者3万3,800人のうち、帰国を選んだのはわずか30人に過ぎないとされている。
根強い偏見や社会的な適応の難しさといった試練にもかかわらず、脱北者たちは自由と平等のある新たな暮らしを求めて奮闘している。