ウクライナの汚職問題に翻弄されるゼレンスキー大統領
9月12日、ウクライナのゼレンスキー大統領が動員に関する軍の医官による決定をすべて再検討する大統領令に署名した。動員逃れにまつわる不正を根絶することを目指していると見られる。
オンライン紙『キーウ・インディペンデント』によると、医官がこれまで発行してきた動員不可・不能を証明する書類を3ヶ月かけてすべて再検討することになるという。
写真:President.gov.ua, CC BY 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by/4.0>, via Wikimedia Commons
ウクライナにおける組織的な徴兵逃れは以前から指摘されており、治安当局は全国の役人らが偽の証明書を発行して徴兵逃れを幇助していたことを確認している。今回の決定もそれに対応する形でなされたものだ。
『キーウ・インディペンデント』紙いわく、こういった偽の証明書は金銭的な対価を得て発行され、本来動員可能な年齢・健康状態にある人物について障害を負っていたり軍役には不適であるなどウソの内容が記されているという。
今回の決定はウクライナにおける汚職を根絶するという、より広範なキャンペーンの一環として行われたものだ。ゼレンスキー大統領は部下らとともに、ウクライナをソビエト的な統治機構から脱却させ、西側の近代的な自由主義・民主主義の行き渡った国に転換させようと努力している。
ゼレンスキー大統領は1月にもウクライナにおける汚職対策を主導しており、軍需品の調達に関する大規模な汚職スキャンダルが発覚したことを受けて多くの政府高官を更迭している。CNNが報じた。
『フィナンシャル・タイムズ』紙によると、ゼレンスキー大統領は演説で次のように述べている:「こういった措置は我が国の防衛のためにも正しく、必要なものであり、欧州的な統治機構の構築に向けた一歩でもあります。我々には強靭な国家が必要であり、ウクライナはそれを目指しているのです」
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辞任した高官にはヴャチェスラフ・シャポヴァロフ国防副大臣、オレクシー・シモネンコ副検事総長、イワン・ルケリヤ地域開発・領土担当副大臣、同じく地域開発・領土担当副大臣のヴャチェスラフ・ネゴダ、そしてヴィタリー・ムジチェンコ社会政策担当副大臣らが含まれている。
国防省のウェブサイトによると、シャポヴァロフ元国防副大臣は在任中、ウクライナ軍の兵站及び調達を担当していたという。解任にあたって元国防副大臣は書簡を発表、自身に向けられた非難は「事実無根で無意味」だと表明している。
元国防副大臣はその書簡でこう述べている:「ウクライナ軍の軍需品調達に関する事実無根な情報操作が行われており、それにより人々の間に反発が広がっている。こういった事態は、軍需品調達のプロセスが不安定化するリスクとなる恐れがある」
元国防副大臣はさらにこう続けている:「ロシアとの戦争中にこのようなことになるのは受け入れがたい。現状に鑑みれば、最も重要なのは軍の職務が安定して全うされることであり、また、治安当局による透明かつ公平な調査のための態勢を整えることであるはずだ」
汚職の疑いはウクライナ大統領府副長官キリロ・ティモシェンコのようなゼレンスキー大統領の側近にまで及んでいる。CNNの報道によると、同氏は人道支援のための車輌を私用に利用していたことが暴露され辞任している。
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1月にゼレンスキー大統領が行った政府の改革の後も多くの措置が行われ、報道されている。中でも注目されたのはウクライナ最大の銀行「プリヴァトバンク」の共同創立者で億万長者のイーホル・コロモイスキーの自宅への家宅捜索や同国全州の徴兵責任者の解任などだ。
後者の措置について、8月11日、ゼレンスキー大統領はX(旧ツイッター)上でこう述べている:「徴兵における汚職は根絶されるでしょう。全州の徴兵責任者は解任され、前線で名誉の負傷をした勇気ある兵士たちが後任に就く予定です」
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前述の談話とともに発表された動画で、ゼレンスキー大統領はこうも述べている:「こういった制度は戦争の本質をよく知る人物によって運営されねばなりません。戦時下において、冷笑と腐敗は重大な裏切りなのです」
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ゼレンスキー大統領は8月末にも、戦時下において汚職は裏切りとみなされるべきだと述べ、汚職で有罪となった人物への刑を重くするよう議会に求めている。放送局「ラジオ・フリー・ヨーロッパ」が伝えた。
8月27日、ゼレンスキー大統領は自身のテレグラムチャンネルでこう説明した:「立法担当者たちに指示しました。戦時下においては汚職を国家に対する重大な背信行為とみなすようにするという私の提案はいずれ立法府に提出されます」
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ゼレンスキー大統領は汚職で有罪が認められた人物は裁判にかけられることを宣言。スターリン政権下のようにただちに銃殺されるようなことはないものの、十分な証拠があれば収監されるとも明言した。
こういった汚職対策の一環として、ゼレンスキー大統領は9月、オレクシー・レズニコウ国防相(当時)を解任、後任としてルステム・ウメロウを起用した。『ワシントン・ポスト』紙によると、理由はやはり長年にわたる汚職問題とされているという。
レズニコウ元国防相は数ヶ月前から、部下の汚職の責任を問われて解任されるのではないかと噂されていた。ゼレンスキー大統領はその解任について、こう述べている:「国防省は新たなアプローチを必要としています。軍と社会、双方に同時に介入するような」
ゼレンスキー大統領やウクライナの責任ある立場の人々は、汚職を根絶しようと奮闘している。そのおかげでウクライナは日々望ましい方向へと転換しており、同国がEUやNATOに迎え入れられる日も遠くないのかもしれない。