ウクライナ軍、クルスク州の激戦で敵のT-90M戦車を鹵獲
ウクライナの軍事ニュースサイト「Militarnyi」によれば、ウクライナの空挺部隊はクルスクへの逆侵攻を開始して以来、敵の戦車を少なくとも7両鹵獲したが、そのうちのいくつかはロシア軍が誇る最新鋭の戦車だったようだ。
画像:Telegram @ua_dshv
この戦果を挙げたのはウクライナの第80独立空中強襲旅団だ。「Militarnyi」いわく、同旅団はT-90M戦車1台、T-80BVM戦車4台、T-72戦車2台を鹵獲。これらの戦車は今後、同旅団がロシア軍との戦闘に利用するとのこと。
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旅団は「T-72は状態が悪く、明らかに長期間使用された形跡があります。しかし、我々は修理を試みています」とコメント。一部の戦車は通信システムに故障があるほか、大規模な修理が必要となる車両もあるそうだ。
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「Militarnyi」によれば、今年8月下旬に、第80独立空中強襲旅団がクルスク州で鹵獲したT-90M戦車の動画や写真がSNS上に投稿されたとのこと。
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今回鹵獲されたT-90Mは砲塔に軽微な損傷があるのみでほぼ無傷だが、鹵獲に至った経緯については明かされていない。また、クルスク州でウクライナ軍がT-90M戦車を鹵獲したのは今回が初めてではない。
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同旅団は逆侵攻の開始直後に、敵陣地後方における作戦の中で、別のT-90Mを鹵獲していたのだ。その様子は同旅団がSNS上に公開した動画を通じて知ることができる。
第80空中強襲旅団がFacebook上で公開した動画はT-90Mを鹵獲した兵士に対するインタビュー形式のもので、この兵士の所属する部隊はクルスク州で敵陣地の掃討を行っていたという。
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「Militarnyi」によれば、このウクライナ兵は鹵獲時の状況について、ロシア軍の戦車兵がT-90Mのエンジンを掛けて逃走しようとしたが、うまくいかなかったと語っているそうだ。ウクライナ軍がこれを鹵獲したときも、戦車のバッテリーは上がったままで、始動しなかったという。
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ウクライナ軍はT-90Mのバッテリーを交換し、何度も始動を試みた結果、最終的にはエンジンが掛かり、戦利品を味方の陣地まで持ち帰ることができたという。この戦車には「ピロシキ」という愛称が付けられたそうだが、これに乗り込むこととなったウクライナ兵はあまり満足していないようだ。
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あるウクライナ軍司令官はこの戦車について、「まったく、このガラクタは運転しにくいし、砲塔もちゃんと回転しないんだ。レバーなんかGAZ-66シシガ(ソ連時代の軍用トラック)みたいだし、座りづらい。ウチの乗員は不満を漏らしているよ」とコメント。
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プーチン大統領はT-90Mについて世界最高の戦車だと自画自賛したことがあるが、ロシア軍はウクライナ侵攻を続ける中で、すでに多数のT-90Mを失ってきた。
画像:Facebook @80brigade
実際、今年7月には、オープンソースインテリジェンス大手「Oryx」がロシア軍の失ったT-90Mの数は100両を突破したと発表。それ以降もロシア軍はこのタイプの戦車を相次いで失っている。
ちなみに、このニュースが伝えられた当時、ウクライナ軍参謀本部はロシア軍が失った戦車の数について、計8,227両だと推定していた。
一方、「Oryx」が9月1日に発表したデータによれば、ロシア軍が失った戦車の数は合計で3,345両。その内訳は撃破2,292両、損傷156両、放棄368両、鹵獲529両となっている。
「Oryx」はウクライナ侵攻が勃発して以来、ロシア軍およびウクライナ軍が失った装備の数量を分析し続けており、その発表には一定の信頼性があると見られている。
「Oryx」は画像や映像から立証された損失のみをデータに反映させ、その状況に応じて撃破・損傷・放棄・鹵獲に分類しているとのこと。
「Oryx」はロシア軍が失ったT-90M戦車について107両と発表したが、画像や映像から確認できないものも含めれば、実際の損失がこの数字を上回っているのは間違いないとした。
さて、ロシア軍が少なくとも3,345両もの戦車を失ったことを考えれば、T-90Mの損失107両というのは些細なことのように思えるかもしれない。しかし、T-90Mはロシア軍が現在、運用している戦車の中で最新鋭のモデルなのだ。
ロシア国営タス通信によれば、プーチン大統領はT-90Mを「世界最高の戦車」と呼んで自画自賛したという。
画像:Wiki Commons By Vitaly V. Kuzmin, CC BY-SA 4.0
プーチン大統領はさらに、「この戦車が陣地に接近すれば、どのような敵にも一切チャンスは残されていない。遠方から精度の高い砲撃ができるためだ」と述べ、T-90Mの性能の高さを賞賛。
同大統領はまた、T-90Mの防御力の高さを強調したが、これについては話半分に聞いておくのがよさそうだ。確かにロシア戦車としては頑丈なのかもしれないが、戦場ではいとも簡単に撃破されてしまっているのだ。
実際、戦闘から届けられた映像によって、T-90Mは地雷や対戦車ミサイル、ドローン、さらにはM2「ブラッドレー」歩兵戦闘車などを用いれば、たやすく破壊できることが判明している。
画像:X @DefenceU
ニュースメディア「ビジネスインサイダー」によれば、T-90M戦車の損失が初めて確認されたのは開戦直後のことで、ウクライナ人ジャーナリストが撃破されたT-90Mの写真をオンライン上に投稿したことで発覚したという。
ただし、ロシア軍はT-90Mよりも新型で高性能の戦車、T-14「アルマータ」を保有していることを忘れてはいけない。とはいえ、T-14はごく少数が戦闘に投入されたのみで、それらもすぐに撤退してしまった。
『ニューズウィーク』誌はロシア情報筋の話として、T-14は性能を確認するために短期間戦場に投入されたが、目的を達するとすぐに引き上げられたと伝えている。
一方、T-90Mは開戦以来、実際に戦闘に使用され続けている戦車としては最新鋭だ。ただし、この戦車が完全無欠でないことはウクライナ軍との戦闘の中で明らかになりつつある。
画像:Wiki Commons By Mike1979 Russia, Own Work, CC BY-SA 4.0
『ナショナル・インタレスト』誌によれば、ロシア軍は2017年にT-90Mの配備をスタート。同戦車は「ロシアの防衛産業が生み出した装甲技術としては最高峰」だったという。
画像:Wiki Commons By Mike1979 Russia, Own Work, CC BY-SA 4.0