好条件に騙され、知らぬ間にウクライナの戦地に送られたインド市民
インド紙『ザ・ヒンドゥー』によると、昨年11月以来ロシアとウクライナの国境沿いの激戦区に18人のインド人が駐留させられているという。驚くべきことに、騙されてロシア軍に入隊させられてしまったようだ。
インド紙『ザ・ヒンドゥー』はロシア国防省関係者の発言を引用し、2023年には約100人のインド国民がロシア軍に入隊を強制されたと報じた。そのうちの多くは、ロシアとウクライナとの戦争に巻き込まれたことをわかっていなかったという。
こうした人々はすべて男性で、年齢は20代前半から30代前半に渡り、「治安補助員」としてロシアの工作員に雇われたという。家族によれば、彼らは「訓練」という名目で戦場に送られたという。
写真:ロシア軍に入隊させられたシェイク・モハマド・タヒルさんは、基本訓練開始後、ロシア軍からの脱走に成功した。
英『BBC』が被害に遭ったある人物の取材をしたところ、戦地に送られた男性たちは全員貧しい家庭の出身だと語った。被害者の両親や兄弟は、トゥクトゥクの運転手やお茶売り、荷車で商品を売るなどして生計を立てているそうだ。
写真:Belle Maluf / Unsplash
親族によると、被害に遭った男性たちは仕事の話を持ち掛けられ、より高い給料と、数か月間の兵役を終えればロシアのパスポートを取得できるという条件に惹かれたという。その結果、ロシアとウクライナとの戦争に関与することになるとは認識していなかったようだ。
「28歳の息子はドバイの包装会社で働いていました。しかし、友人3人とともに仲介業者による勧誘のビデオを見たようです。それまで月に約6万円から7万円を稼いでいましたが、工作員は16万円から18万円の月収を提示しました。そして借金をして、あっせん業者に約50万円を払ってしまったのです。お願いです、どうか息子を連れ戻してください」とインド人男性の父親が英『BBC』ヒンディー語放送に語った。
インド紙『ザ・ヒンドゥー』の報道によると、契約は最低1年間で、入隊から6か月を過ぎるまでは休暇や退職すらも認められないという。その上、パスポートも没収されたとのことだ。
インド北部ウッタル・プラデーシュ州出身の男性は、軍服を着て出演したビデオの中で、SNSを通じてスカウトされたと主張した。「モスクワでロシア語の契約書に署名し、知らないうちにロシア軍兵士として戦地に送られることになってしまいました。私たちはだまされたのです」と語った。
この男性は、「お願いします、ここから連れ出してください。さもなければ、砲弾の飛び交う最前線に送られてしまうでしょう。もちろん実戦の経験は一度もありません。仲介業者のせいでこのような状況に追い込まれてしまったんです」と証言した。
インド紙『ザ・ヒンドゥー』によると、2月21日、ヘミル・アシュビンバイ・マングキヤという名の同国出身者がミサイルによって殺害されたとのことだ。報道によると、この男性はドネツク地方の塹壕近くで射撃訓練中にウクライナ軍の空爆を受けて死亡したという。
一方インド外務省は、「特定の自国民が支援任務のためにロシア軍に入隊した」ことを認めた。
2月23日、インド政府はロシア当局に対し、ロシア軍に入隊した自国民の「迅速な動員解除」を要請したと発表した。
写真:インドのナレンドラ・モディ首相と露大統領のウラジーミル・プーチン氏(2019年)
「モスクワのインド大使館が把握している案件は、すでにロシア当局によって対応済みだ。外務省に通報があったものについても、ロシア大使館が対処にあたっている。その結果、数名の解放に成功した」とインド外務省は声明で述べた。
写真:スブラマニヤム・ジャイシャンカル・インド外務大臣
さらにインド外務省は「すべての国民は警戒を怠らず、この紛争に関わらないように」と呼び掛けを行った。
気付かぬうちにロシア軍に組み込まれた外国人はインド出身者だけではない。 「一部の報道によるとウクライナで戦うロシア軍には、ロシア出身者に加えてアジア、中東、アフリカ出身の兵士が戦っており、その数は数百人にものぼる可能性がある」と国際政治を専門とするNGOのアナリスト、オレグ・イグナトフ氏は仏『リベラシオン』紙に語った。
ロシアもウクライナも自国軍に所属する外国人の数を明らかにしていないが、米テレビ局『CNN』は、インド出身者だけでなく推定「1万4千から1万5千人のネパールの人々」もロシア軍に加わった可能性があるとしている。
このような中、インドのモディ首相が7月8から9日にかけて訪露。BBC放送によれば、プーチン大統領との会談では、ウクライナにおけるインド人戦闘員についても協議され、ロシア側は彼らの早期解放を約束したという。