プーチン政権が「ウクライナ軍が原発攻撃を目論んでいる」と主張:クルスク原子力発電所をめぐる両国の攻防
ウクライナ軍は今年8月6日、ロシア領のクルスク州に越境攻撃を仕掛けた。ロシア側はウクライナに対し、州内におかれた原子力発電所の安全が脅かされかねないとして非難の声を挙げた。
ウクライナ軍が現在も一部を占領しているクルスク州には、クルスク原子力発電所という主要な発電所がある。ただし、今のところ、この原発があるクルチャトフの街は占領されていない。
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ウィキペディアによれば、クルスク原発では旧ソ連製のRBMK-1000型原子炉2基が稼働中で、1986年に大事故を起こしたチェルノブイリ原発とよく似た構成になっているという。
プーチン大統領は8月22日、クルスク原発への攻撃を計画していたとしてウクライナ軍を非難。この件について国際原子力機関(IAEA)に報告を行ったと発表した。
しかし、ロシア当局がウクライナ軍の攻撃計画を告発する一方で、クルスク原発は通常どおり運転しているようだ。ロイター通信によれば、クルスク州のアレクセイ・スミルノフ知事はクルスク原発について、「状況は安定している」とコメントしたという。
一方、『キーウ・インディペンデント』紙は、IAEAのラファエル・グロッシ事務局長(写真)が直ちにクルスク原発を視察することになっていると伝えた。
ウクライナ軍はクルスク州を驚異的なスピードで制圧しつつあり、クルスク原発も占領される可能性がでてきた。そこで、プーチン政権としては原発を戦闘に巻き込むことの是非を国際社会に問うことで、ウクライナ軍の進軍を最小限に抑えたいものと見られる。
今のところ、プーチン政権はウクライナ軍による逆侵攻に対して、目立った反応を見せていない。ABC放送いわく、これはロシア国内におけるプーチン派の「忍耐力を試す」ことにつながったそうだ。とはいえ、実際のところ、この姿勢はウクライナの軍事的成功から目を背けているに過ぎない。
ウクライナ軍がロシア領に逆侵攻したことで、2年あまり続くウクライナ侵攻が新たな局面を迎えたことは確かだ。ロシア軍が反撃に出るのか、それとも、ウクライナ軍がクルスク州で占領地を拡大するのか、注目が集まっている。
戦況はここ数ヵ月にわたってロシア軍が優勢であり、ウクライナ軍は苦戦を強いられていたが、ゼレンスキー政権はクルスク州への逆侵攻という奇策によって情勢を一変させてしまったのだ。
このような状況の中、プーチン政権はウクライナ軍による卑劣な攻撃というシナリオを宣伝しようとしている。しかし、実際に国境地帯で原発事故が発生すれば、ウクライナ側も被害を免れないため、ウクライナ軍はそのような事態を慎重に避けるはずだ。