オランダのアマリア王女を脅かす犯罪組織の影:「モクロ・マフィア」とは?
現在、警察の厳重な警備の下で暮らしているというオランダの次期女王、アマリア王女。王室メンバーの一員として以前からセキュリティ対策は受けていたが、目下「モクロ・マフィア」と呼ばれる犯罪組織に狙われているようだ。
オランダの諜報機関が突き止めた情報によれば、まだ10代のアマリア王女をつけ狙う犯罪組織は2004年のテオ・ファン・ゴッホ監督殺害をはじめ、これまでにも数件の殺人事件に関与しているとされる。
しかし、この犯罪組織のターゲットはアマリア王女だけではない。同国のマルク・ルッテ首相を襲撃する計画もあるらしいのだ。ただし、この組織がターゲットを誘拐するつもりなのか、はたまた殺害するつもりなのかは不明だという。
アマリア王女は2021年に高校を卒業してギャップ・イヤーを取ったのち、2022年9月にアムステルダム大学に入学したばかりだった。専攻は「政治学・心理学・法学・経済学」だという。
写真:Frank Ruiter, RVD(オランダ王室)
写真は2022年9月はじめ、大学に初登校したアマリア王女。このように毎日、徒歩で通学するはずだったのだが……
写真:Mischa Schoemaker, RVD(オランダ王室)
アマリア王女の両親は娘のため、アムステルダム中心部にセキュリティ万全の学生寮を確保していた。オランダ誌『Beau Monde』によれば、この学生寮は運河沿いに建つ歴史ある建物だが、360°監視カメラや顔認識システム、カードキーなどを備えているという。
セキュリティ対策の行き届いた豪華な学生寮を別にすれば、アマリア王女も一般市民と同じようなキャンパスライフを送ることができるはずだった。ところが事態は急変。数週間は「普通」の大学生だったが、直ちに厳重な警備の対象になってしまい、公の場に出られなくなってしまったのだ。
写真:Mischa Schoemaker, RVD(オランダ王室)
現在、アマリア王女はデン・ハーグにある実家のハウステンボス宮殿に戻って暮らしているという。両親は『Het Parool』紙をはじめとする報道各社に対し、娘が自宅で厳重な警備のもとに置かれていることを認めている。
国王夫妻は、アマリア王女が大学に行くのはどうしても必要な場合のみだと報道陣に明かしている。さらに、彼女が移動する際には常にセキュリティサービスによる厳戒態勢が敷かれるという。スウェーデンを訪問中だったマキシマ王妃は記者団に対し「自分の子供がこんな目に遭うなんて……」と吐露している。
この事態の原因は、メンバーの多くがモロッコ出身であることから「モクロ・マフィア」と呼ばれる犯罪組織だ。違法薬物関連の犯罪や仲間内での殺し合い、移民やイスラム教に批判的な公人に対するテロ攻撃などに関与しているとされている。
「モクロ・マフィア」のリーダー格には、2004年の事件でテオ・ファン・ゴッホ監督を殺害したとして終身服役中のモハメド・ブイェリがいる。2022年9月には『テレグラーフ』紙が、オランダの諜報機関はブイェリ服役囚のコネクションを察知したと報道。その相手とは、同組織のメンバーでやはり拘留中のリドゥアン・タギだという。
リドゥアン・タギは、少なくとも10件の殺人に関与した罪で16人のメンバーとともに判決を待っている。ところが、数年前から行われている裁判の過程で、証人や弁護士、そして事件の詳細を追っていたペーター・R・デ・フリース記者(写真)などが残酷に殺害される事件が発生したのだ。『Het Parool』紙はじめとするメディアは、タギ容疑者の仲間で現在も塀の外で活動中の人物が犯人ではないかとしている。
『テレグラーフ』紙が取材した警察関係者の話では、アマリア王女およびルッテ首相はモクロ・マフィアの誘拐・殺害対象者リストに載っているとされる。
写真:RVD(オランダ王室)
このニュースが報じられてから、アマリア王女が公の場に姿を見せたのは1度だけ。オランダ政府は毎年9月の第3火曜日に翌年度の政策や予算案を発表することになっており、国王はこの会議に出席して国民向けの演説を行うのだ。この会議の場で、アマリア王女は聴衆席に座っていたのだ。
この習慣は「王子の日」と呼ばれており、アマリア王女が出席したのは今回が初めてだ。アマリア王女は国王の演説を聞いた後、ノールデインデ宮殿のバルコニーで国王とともに観衆に挨拶したという。
オランダ紙『AD』の報道によれば、セキュリティ対策は例年通りだというが、公開された写真からは今回が初出席となったアマリア王女の緊張ぶりが見て取れるだろう。
オランダの暗部について気がかりな報道が流れる中、アマリア王女と両親がデン・ハーグの街をサイクリングしたり散歩したりするのに不安を感じていたのは間違いないだろう。
写真:Martijn Beekman(オランダ財務省)
娘が置かれた状況について尋ねられた国王は記者団に対し「言葉では言い表しがたく、とても辛い」と説明。マキシマ王妃も「お察しの通り、少し動揺しております」と述べた。
写真:Patrick van Katwijk, RVD(オランダ王室)
オランダ王室は各地を巡って国民と触れ合い、人々の悩みに共感を見せることで知られてきた。写真は国王誕生日のお祝いで人々と写真に納まるアマリア王女。
王室イベントではすでに何度も事件が発生している。2010年の祝日には、王室メンバーが乗った馬車に抗議者がシャンデリアを投げつける事件が発生。その一年前にも、王妃の誕生日にアペルドールンで王室の車列を追いかける群衆に自動車が突っ込み、8人が死亡している。
これらの事件は個別の犯人によるものであり、犯罪組織によるものではないとされている。しかし、今回は事情がまったく違っている。しかし、オランダ警察は捜査中だということ以外は、多くを明かしていないようだ。一方、同国のディラン・イェシルギョズ法相はTwitterで「我が国の治安部隊は(アマリア王女の)安全を確保するため、昼夜を問わず尽力している」と述べた。