中国でコロナ禍の実態を伝えた記者、張展氏(40)はどうしている?
コロナ禍の発生直後に震源地となった武漢市に赴き、取材を行った中国人フリージャーナリストの張展(ザン・ザン)氏。ところが、これが当局の逆鱗に触れ、公共秩序騒乱罪で懲役4年の実刑判決を受けることに。今年5月13日になってようやく釈放されたものの、いまだに当局の監視下に置かれているようだ。
上海出身の張展氏(40)はもともと弁護士だったが、フリージャーナリストに転身したという経歴の持ち主だ。中国当局による検閲や弾圧に反対する活動に取り組み、逮捕されたこともあるそうだ。
2020年2月、張展氏は地元上海を離れ、コロナ禍の震源地となった武漢市に向かった。同市で猛威を振るっていた新型コロナウイルスの実態を伝えるためだ。
張戦氏はこのとき、中国当局がコロナ禍の実態を隠蔽するために独立系ジャーナリストを拘束したり、患者の親族に圧力をかけたりしているとして、当局を非難。『ナショナル ジオグラフィック』誌によれば、同氏による現場からの中継映像はSNS上で広く拡散し、当局の圧力にもかかわらず、ネット上から消え去ることはなかったという。
張展氏はYouTubeやWeChat、Twitter(現X)を通じて中継映像を発信し続けており、2020年5月14日に行方不明となるまでに公開された動画は100本を超えていたとのこと。
なかには、録画を中止しないと処罰すると脅迫する当局者の姿が写っている中継映像まであったが、張展氏は撮影を続行。BBC放送がこの動画の配布をおこなった独立系映画スタジオにインタビューしたところ、張展氏はこうコメントしたという:「私には反抗精神があるのかもしれません(中略)私は事実を記録しているだけです。どうして真実を伝えてはいけないのでしょうか?」
しかし、行方不明となった翌日には、上海警察によって逮捕されていたことが判明。202o年11月には公共秩序騒乱罪で起訴されてしまった。この罪状は中国当局が活動家を弾圧する際によく用いるものだ。
写真は張展氏の弁護にあたった任全牛氏(写真左)と張科科氏(同右)
中国では当局に不都合な報道を行うジャーナリストに対して検閲や弾圧が行われており、張展氏の事件はそのことを示すよい例だ。
弁護士によれば、張展氏は刑務所内で数ヵ月間にわたるハンガーストライキを行ったが、当局はチューブを通して強制的に栄養を摂取させるという対応をとったとのこと。
しかし、国際人権NGO「アムネスティ・インターナショナル」が2022年1月に伝えたところによれば、張展氏の母親が獄中の娘とビデオ通話を行い、すでにハンガーストライキや強制的な栄養摂取が行われていないことを確認したという。
しかし、断続的なハンガーストライキは実際には2023年7月まで続いており、張展氏の体重は逮捕前のおよそ半分まで減少してしまっていた。さらに、BBC放送によれば、重度の栄養失調に加えて機能性胃腸障害や白血球数の減少にも悩まされていたそうだ。
これに対し、報道の自由を求める活動家や各国の人権団体は、張展氏に対して不当な裁判が行われた上、健康被害まで引き起こしているとして釈放を呼び掛けた。
写真は中国の活動家たちの姿をかたどった抗議パネル(2022年1月、ハーグの中国大使館前にて)
BBC放送によれば、国際NGO「国境なき記者団」のアレクサンドラ・ビエラコウスカ氏は、釈放後の張展氏について身の安全に「大きな懸念」があるとコメント:「はっきり言えば、いずれ彼女(張展氏)とは連絡がつかなくなるだろうと思います。当局は彼女が人目につかないよう、しばらくどこかに隔離するかもしれません」
張展氏を担当する弁護士の一人はBBC放送に対し、同氏の「個人的な自由は引き続き制限されるだろう」とした上で、今後は両親とともに上海で暮らすことを明かした。
権威主義体制のもとでは、釈放された人権活動家の「自由」は制限付きだ。多くの場合、当局による監視がつき、一定の制約に従って行動・発言することが求められるのだ。
コロナ禍に関していえば、中国共産党は国営メディアを通じて当局の対応がうまくいっていることを国民にアピール。2023年2月にはコロナ禍に対する「勝利」を宣言し、当局の措置は「奇跡」だと自画自賛していた。
家族に対する圧力に加え、遠回しな脅迫も反政府的な立場をとる活動家たちを委縮させるための手段としてよく用いられる。『ナショナル ジオグラフィック』誌によれば、これは渦中の人物を沈黙させるだけでなく、反体制派に転じる可能性がある人々に対する見せしめとしても機能するとのこと。
この方法は投獄よりも目立たないため当局は見かけ上、穏健かつ合法的な姿勢を装うことができ、人権侵害を検証しようとする国際機関や人権団体にとっては厄介な問題となっている。したがって、当局の方針にそぐわない活動家たちは釈放されたからといって、身の安全が保障されるわけではないのだ。
しかし、BBC放送によるインタビューの中で、張展氏は信念を曲げるつもりはないという決意を表明:「私は自分の使命を諦めるつもりなどありません。この国はもう後戻りできないのですから」
中国における法制度の専門家、ジェローム・コーエン氏いわく、張展氏のケースで焦点となるのは釈放後に何が起きるのかということだ。