世界で1日に20億杯消費されるコーヒー:健康にいい、それともわるい?
世界で1日に消費されるコーヒーの量はなんと20億杯。そしてカフェインはもっとも一般的な薬物といってよく、全人類の80%がコーヒーやお茶の形で摂取している。このように大量に消費されるコーヒーは、それが健康に及ぼす影響も長らく研究の対象となってきた。最新の研究結果をチェックしてみよう。
1980年代、コーヒーは一般的に健康に良くないとみなされていた。しかし、当時の言説を科学者が振り返ってみた結果、それは主にコーヒーがタバコやアルコールと結びつけられていたからだということになっている。現在では多くの研究が積み重なり、コーヒーはほとんどの人にとって無害であり、健康を大きく増進させる効果すらあることが示唆されている。
2017年に研究誌『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』に掲載されたレビュー論文は200もの研究を検討、通常のレベルでのコーヒー消費は無害であると結論づけた(ただし妊婦は除く)。その論文によると一日3〜4杯の摂取が理想的で、ある種の疾患リスクを抑える効果も期待できるとされている。
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特に強い証拠が確認されたのは、コーヒーが肝臓に良いということだった。論文の中で、肝硬変や肝臓がんを含む慢性肝疾患に対する低リスク療法としてコーヒーの摂取が持つ効果を検証する治験の実施が提唱されているほどだ。
『アメリカ臨床栄養学会誌』に掲載された論文では、スペインで20,000人のボランティアを10年間観察、その結果とくに54歳以上の人においてコーヒー消費が平均寿命の長さと相関があるとされた。
飲み過ぎも良くないが、同じ研究ではコーヒーを飲む量が多いほど致死的疾患リスクが減少するともされており、コーヒーを1日あたり2杯多く飲むとリスクが22%低下したという。また、同じ論文ではこうも言われている:「この研究結果は今までに得られた生化学的知見にも合致している。多くの慢性疾患が炎症性であり、コーヒーに含まれるポリフェノールは抗炎症作用を持つからだ」
2022年に『アナルズ・オブ・インターナル・メディシン』誌に掲載された中国の研究を見てみよう。多くの専門家は砂糖の取りすぎを戒めているが、この研究によると適切な量であればブラックでも砂糖入りでも死亡リスク低下の効果が見られたという。ただし、人工甘味料を使っているグループにはこの効果が見られなかったとされる。
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2019年に『ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ニュートリション』誌に掲載された論文によると、日常的にコーヒーを摂取していると2型糖尿病や心血管疾患のリスクが低下するという。こういった疾患は運動機能に悪影響を及ぼすことがあるが、コーヒーを一日二杯以上飲む糖尿病患者・女性・肥満の人といったグループではそういった障害に至る率が低かった。
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同じ研究が血圧の問題にも触れている。コーヒーの摂取は短期的に血圧を上昇させるので高血圧患者には勧めない医者もいるが、長期的にみると日常的な摂取が高血圧患者にも有効である可能性があるというのだ。また、2021年に出版された別の研究では、一日1〜3杯程度の摂取では多くの場合血圧に対して大きな影響はないともされている。
トロント大学のクレンビル脳科学研究所の研究では、コーヒーはアルツハイマー病やパーキンソン病などの防止効果もあるとされている。
トロント大学の研究は「フロンティアズ・イン・ニューロサイエンス」で発表されている。それによると、コーヒー豆を焙煎した時に生じる物質に神経疾患を防ぐ作用があるかもしれないのだという。それが事実なら、アルツハイマー病やパーキンソン病の予防効果を期待するなら深煎りコーヒーを飲むべき、ということになるのかもしれない。
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ただし、深煎りすればいいというわけでもなさそうだ。『ジャーナル・オブ・メディシナル・フード』誌に掲載された2017年の韓国の研究によると、焙煎が進めば進むほど、コーヒーのもつ抗酸化作用や抗炎症作用は減少するというのだ。
焙煎されたコーヒー豆には千を超える種類の有効成分が含まれており、その効用も抗酸化作用や抗炎症作用、抗繊維化作用、抗癌作用など多岐にわたる。有効成分の代表はカフェインだが、他にもクロロゲン酸やジテルペン(カフェストールやカーウェオール)などもある。
写真:コーヒー豆の収穫の様子
カフェインが体質に合わなかったり、夜寝られなくなったりするような人にも嬉しいニュースがある。いくつかの研究によると、脱カフェイン処理されたデカフェコーヒーも普通のコーヒーと同等の効果を持つというのだ。ただし、オーストラリアでのある研究では、デカフェコーヒーも総合的な死亡リスクは低減させるものの、不整脈への効果は認められなかった。
かつて、WHOはコーヒーの摂取と膀胱癌との間に相関がある可能性があるとしてコーヒーを「発癌性の疑い」のある食品に分類していた。だが、2016年に『ザ・ランセット・オンコロジー』に掲載された研究では、コーヒーの摂取と癌発症とを結びつけるエビデンスは見つけられなかったと結論されている。
『cancer.org』によるとそれ以上の効果すらある。120万人の男女のデータを分析したある研究によると、非喫煙者同士での比較ではコーヒーを飲む人の方が飲まない人よりも大腸がんリスクが低かったのだ。
また、2021年のある研究では365,000人の中高年を調査。1日に2〜3杯コーヒーかお茶を飲む人の方がどちらも飲まない人より卒中リスクが32%低かったという。ハーヴァード・ヘルス・パブリッシングが伝えるように、この結果は必ずしも直接の因果関係を証明するものではない。だが、コーヒーもお茶も植物性のポリフェノールを含んでおり、ポリフェノールには血管を健康に保つ作用や抗炎症作用があることが知られている。
写真:Mohamed Hassan / Pixabay
頭をスッキリさせるためにコーヒーを飲む人も多いだろう。その感覚は科学的にも証明されている。青少年を対象にした2016年の研究で、コーヒーを飲むと認知能力が向上することが判明しているが、その効果は一日のうち頭の働かない時間帯、特に朝に限られるとされた。ただし、カフェインが長期的に思考力を向上させるという別の研究もある。
写真:European Space Agency ESA/Twitter: イタリアの宇宙飛行士、サマンサ・クリストフォレッティが国際宇宙ステーションで最初のコーヒーを味わう様子(2015年)
多くの研究がコーヒー消費と鬱リスクの低下に有意な関係を見出している。しかし、カフェインを摂取しすぎると不安が増大することや、パニック障害を抱える人の発作を誘発することも知られている。
米国小児科学会は12歳以下の児童はカフェイン入りのコーヒーを飲むべきではないとしている。また、アメリカ保健福祉省は、妊婦はコーヒーを飲む量を一日に二杯までに制限するべきだとしている。しかも、妊婦のコーヒー摂取はたとえ少量でも生まれてくるこどもの体重減少につながることがわかっている。
健康のためには良い睡眠が不可欠なことも多くの研究から明らかとなっている。夜寝る人の場合、午後遅くにカフェインを摂取すると睡眠に悪影響を及ぼしてしまう。なお、2021年に『ネイチャー』誌に発表されたレビュー論文では、朝や昼に飲んだ場合は特に影響はないとされている。