ゼレンスキー大統領を「排除」せよ:ロシア政権中枢で広がる強硬な主張
好戦的な論調が高まりを見せるロシアでは、ウクライナのゼレンスキー大統領を殺害すべきだという声が政権中枢からも公然と挙がっている。
プーチン政権はウクライナがクレムリンを標的とするドローン攻撃を実行したと主張。ゼレンスキー大統領の「公式な排除」は優先事項の1つだとした。
中でももっとも強硬なのは大統領を務めたこともあるメドベージェフ安全保障会議副議長で、Telegramの投稿を通じてゼレンスキー大統領を「物理的に排除」する必要があると述べた。
『ニューヨーク・ポスト』紙や『ニューズウィーク』誌をはじめとする報道各社が伝えたところによると、メドベージェフ安全保障会議副議長は「今日のテロ攻撃を踏まえると、ゼレンスキー大統領一派を物理的に排除する他に選択肢はない」と息巻いているという。
また、ニュースサイト「デイリー・ビースト」によれば、ロシアの著名TV司会者でありプーチン政権の広告塔となっているウラジーミル・ソロヴィヨフも、ゼレンスキー大統領の殺害を呼び掛けたという。
ソロヴィヨフは「(ゼレンスキー大統領が)どの国にいようが構わない」と述べ、どのような形であれゼレンスキー大統領を殺害するようプーチン政権派のロシア人たちを焚きつけたのだ。
さらに、ロシア下院のヴィアチェスラフ・ヴォロージン議長も、ウクライナに対しさらに強硬な手段をとる可能性を示唆。
「我々は、ウクライナのテロ政権を阻止・破壊できる武器の使用許可を求める。ロシアは、ウクライナ当局が我が国の指導者に与えた脅威の度合いに応じて相応の対応をとるだろう」
ただし、実際にはゼレンスキー大統領は開戦直後からロシア軍のターゲットだ。『タイムズ』誌は2022年2月の段階で、ゼレンスキー大統領を殺害するためチェチェン人戦闘員数百人あまりをキーウに潜入させる計画があったことを伝えている。
しかし、『タイムズ』誌の記事によれば、その作戦は失敗に終わり、ゼレンスキー大統領に英雄的なカリスマを与える結果になってしまったという。
こういった強硬な声は、クレムリンにある大統領執務室に対してウクライナがドローン攻撃を行ったというロシア側の主張を受けてなされたものだ。ロシア当局はこの事件について、当初からウクライナと米国による「暗殺未遂」だと断定している。
クレムリンは声明の中で「プーチン大統領に対するテロ攻撃の計画」に対し、相応の報復を行うと主張。
一方、フィンランドを訪れていたゼレンスキー大統領は、クレムリンに対するドローン攻撃についてウクライナの関与を全否定。
ゼレンスキー大統領いわく:「我々はプーチン大統領に対する攻撃などしません。彼を裁くのは法廷に委ね、国土防衛に専念しているのですから。我々は街や建物の防衛に当たっていますが、(そのためのリソースは)十分ではありません。ウクライナは物資不足であり、無駄遣いなどできる状況ではないのです」
ゼレンスキー大統領に対するロシア側の強硬な論調は本当に実行を視野に入れたものなのだろうか?それとも、単なるはったりなのだろうか?
前出のメドベージェフ安全保障会議副議長は「ウクライナの無条件降伏にゼレンスキー大統領は不要だ。ご存じの通り、(ドイツの降伏文書に)ヒトラーは署名できなかったのだ」と述べ、地下壕で自殺したヒトラーにゼレンスキー大統領を重ね合わせた。少なくとも、プーチン政権を支える一部高官たちは本当に殺害を狙っているのだろう。