人間がゾンビになるときとは?:感染パニックで現実になるゾンビの存在

人気ジャンル、「ゾンビ」
ゾンビなんていない……よね?
人類初のゾンビ伝説
おもりが付けられた人骨
現代的なゾンビの故郷、ハイチ
奴隷にとって死は解放だった
ブードゥー教とゾンビの語源
ゾンビを世界に広めた『恐怖城』
ゾンビ騒動は実際に起こり得る?
ゾンビのような症状をもたらす病
クリューヴァー・ビューシー症候群(KBS)
奇妙な症状
嗜眠性脳炎
緊張病に陥ると狂暴に
ゾンビのように徘徊
寄生虫やウイルス
「危険分子」はウイルス
狂犬病という例
毒素が引き起こすゾンビ現象
神経毒の作用で「死んでいるように見える」
伝染性の病原体がカギ
プリオンならば……
ニューギニアのクールー病
脳を食べることで感染
あり得そうにないゾンビ感染パニック
ゾンビなどいなくても……
人気ジャンル、「ゾンビ」

どういうわけか、人々を惹きつけてやまない「生ける死体」の伝説。実際、この数十年間だけでも『ウォーキング・デッド』のようなTVドラマや、『28日後…』や『ゾンビランド』をはじめとするゾンビ映画が数多く制作されるなど、ゾンビ人気は留まるところを知らない。

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ゾンビなんていない……よね?

しかし、ゾンビ伝説がここまで娯楽としてもてはやされるのは、そんなものは実在しないと誰もが心の底では思っているからなのかもしれない。けれども、本当にゾンビは存在し得ないのだろうか?

 

人類初のゾンビ伝説

ゾンビが実在するかどうかを考える前に、まずはゾンビ伝説の歴史を振り返ってみよう。ウェブサイト「History.com」によれば、生ける死体に恐怖心を抱いた最初の文明は古代ギリシャだったらしい。

おもりが付けられた人骨

古代ギリシャの墓地からは岩やおもりが括り付けられた人骨が出土しているが、これは死者を地下に繋ぎとめておくためだったと考える考古学者もいる。

 

現代的なゾンビの故郷、ハイチ

前出の「History.com」によれば、その後17世紀から18世紀にかけて、ハイチで現代的なゾンビの概念が形成されていったという。

 

奴隷にとって死は解放だった

サン=ドマング(現ハイチ)では、フランス人の手によって何百人もの人々がアフリカから奴隷として連れてこられたが、彼らの死亡率は極端に高かった。そして、劣悪な環境での生活を余儀なくされた奴隷たちの間には、死によって生まれ変わり、もう一度アフリカの大地で自由に生活できるという信仰が生まれることとなったのだ。

 

 

ブードゥー教とゾンビの語源

しかし、時が経つにつれてこの概念は変容、次第にブードゥー教の呪術へと発展していった。「ボコール」と呼ばれる呪術師は死者を蘇らせることができ、彼らに呪文をかけては悪事を働かせていると信じる人も多い。実際、「ゾンビ」という単語は、死者の霊を意味するコンゴ語「nzambi」に由来するものだ。

ゾンビを世界に広めた『恐怖城』

このように、生ける死体としてのゾンビの概念が生まれたのは主にハイチだ。しかし、史上初のゾンビ映画『恐怖城』(1932年)やホラー映画の古典『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』が公開されたことで、ゾンビはポップカルチャーの中で大きな位置を占めてゆくこととなる。

 

ゾンビ騒動は実際に起こり得る?

ゾンビ作品のファンなら誰もが一度ならずゾンビ騒動の妄想をしたり、実際にそんなことが起こり得るのか考えたりしたことだろう。

 

ゾンビのような症状をもたらす病

では、硬直状態の人間が食べ物を求めてうろつくなどという事はあるのだろうか?信じられないことに、答えはYESだ。ただし、もちろん死者ではなく、ゾンビのような症状をもたらす病気がいくつかあるということだ。

 

クリューヴァー・ビューシー症候群(KBS)

「ゾンビ研究協会」でアドバイザーも務めるボストン大学の神経病理学者ピーター・カミングス氏いわく、一般人が「クリューヴァー・ビューシー症候群(KBS)」の患者を目の当たりにしたらゾンビパニックが始まったと勘違いするかもしれないという。

 

奇妙な症状

カナダ局Global Newsのインタビューでカミングス氏は次のように述べている:「口唇傾向(何でも口に入れてしまう傾向)が出たり物体を認識できなくなったりするほか、注意散漫になったり物忘れが激しくなったりと、この病気には奇妙な症状がたくさんあります…… そして緊張状態になるとかなり暴力的になることもあるのです」

 

嗜眠性脳炎

同氏はまた、ゾンビのような症状が出る稀な例として嗜眠性脳炎を挙げた。Global News放送は、この病気がスペイン風邪の世界流行にともない1918年に流行したというカミングス氏の解説を伝えている。この病気の患者は幻覚を起こしたり昏睡状態に陥ったりするほか、緊張病に至ることもあるという。

 

緊張病に陥ると狂暴に

カミングス氏によれば、嗜眠性脳炎の患者は肩を叩かれるなどの刺激を受けることで緊張病の状態から抜け出し、「狂暴化」することもあるらしい。

 

ゾンビのように徘徊

ぎこちない歩行や運動障害なども相まって、こういった病気の患者の振る舞いはまさに私たちが想像するゾンビの行動のように映るのである。カミングス氏はGlobal News に対して、「脳に影響を及ぼして、社会的に受け入れがたい行動を引き起してしまう要因は実在します」と説明している。

 

寄生虫やウイルス

また、一部の専門家たちは人間をゾンビのようにしてしまうのはウイルスだと考えているようだ。レディング大学のウイルス学教授、ベン・ノイマン博士もその一人だ。 博士がYahooに語ったところによると:「人間を徘徊させ、事実上ゾンビのようにしてしまう寄生虫もいます。しかし……」

「危険分子」はウイルス

ノイマン博士はこう続ける:「母なる自然の根底にある、危険分子といえばウイルスです。未知のウイルスはすでに発見されているものより多く存在するはずで、自然界のどこかでゾンビのような現象が起こっているのは間違いありません」

狂犬病という例

さらに、ゾンビのような行動を引き起す病気の身近な例として狂犬病が挙げられるという:「狂犬病は感染した犬の行動を一変させてしまいます。噛まれることで感染し、狂気や痙攣を起こす様子はゾンビといっても過言ではないでしょう」

毒素が引き起こすゾンビ現象

ゾンビのような行動を引き起すもう1つの原因は毒素だ。ハーバード大学が運営する健康情報サイト「ハーバード・ヘルス・パブリッシング」の記事によると、1980年代にハーバード大学の民族植物学者ウェイド・デイヴィス氏によって、ハイチにおける「ゾンビのような生ける死体」について医学的説明がなされたという。

神経毒の作用で「死んでいるように見える」

デイヴィス氏はフグをはじめとする動物に見られる神経毒の作用で、摂取した人が「死んでいるように見える」ことがあるのを発見したのだ。しか、その作用は一時的なものに過ぎなかったという。

写真:ハイチのクレルヴィウス・ナルシスとフランシーナ・"ティ・ファム"2人は死亡宣告を受けて埋葬されたが、数年後に生きて帰って来たときには健康そのものだったという。

伝染性の病原体がカギ

「ハーバード・ヘルス・パブリッシング」の記事では、「どのようものであれゾンビ感染パニックが発生するには、伝染性の病原体と有効な感染経路が不可欠だ」と解説されている。つまり、先ほど取り上げた毒素や病気だけでは、パニックになるような感染拡大は起こり得ないということだ。

プリオンならば……

 しかし、「ハーバード・ヘルス・パブリッシング」の記事は、ゾンビ感染のような事態を引き起こしうる病原体として「プリオン」を挙げている:「プリオンは奇形のタンパク質であり、脳内のタンパク質に異常な折り目を作り出します。要するに、脳内で高次機能を司っている部分をスポンジ状にしてしまうのです」

写真:Tulemo - Wikimedia Commons

ニューギニアのクールー病

プリオンによって引き起こされる病気にはクールー病がある。これは、遺体を食する習慣を持つニューギニアのフォレ族に見られる病気で、人間の脳を口にすることで感染する。

脳を食べることで感染

クールー病の症状には震えや協調運動障害、人格の変化、言語能力の喪失、そして潰瘍などがあり、まるでゾンビのようだ。ただし、ゾンビ映画のような感染パニックが起こるには、人々が感染前から脳を食べる嗜好を持っていなければならないことになる。

あり得そうにないゾンビ感染パニック

結局、未踏の地域で人知れず発生するならともかく、現代社会においてゾンビが出現することはなさそうだ。とはいえ、ゾンビのような症状を示す伝染性の病気が流行する可能性そのものを完全に排除することはできない。

 

ゾンビなどいなくても……

ハーバード・メディカル・スクールの精神医学教授でゾンビファンでもあるスティーヴン・シュロズマン博士は「ハーバード・ヘルス・パブリッシング」に対し、「私たちが懸念すべき事項としてゾンビ感染パニックの優先順位は高くありません。私がいつも申し上げている通り、ゾンビなどいなくても人間にはすべきことがたくさんあるんですから」とコメントしている。

 

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