テニス界に新星誕生:世界ランク1位に輝いたカルロス・アルカラス19歳とは
ラケット1本で記録を塗り替え、テニスの歴史に名を刻んだカルロス・アルカラス。対戦相手の意表を突く巧妙なプレーと揺るぎない安定感で世界ランキング最年少1位に輝いた。
これまでの男子世界1位の最年少記録は2001年にレイトン・ヒューイット(オーストラリア)が打ち立てた20歳9ヶ月。アルカラスは19歳4か月で世界ランキング1位となり、ヒューイットの記録を17か月も更新した。
スペイン・ムルシア州出身のカルロス・アルカラスは19歳にして全米オープンの男子シングルスで優勝、初の四大大会優勝を果たして世界ランク4位から1位に浮上した。
アルカラスは全米オープンで決勝に進み、キャスパー・ルード(ノルウェー)と対戦。序盤はルードがリードしていると思われたが、6-4、2-6、7-6(1)、6-3とアルカラスが第3セットのタイブレークを制し、みごとタイトルを手に入れた。
全米オープンを制したカルロス・アルカラスは優勝賞金260万ドルを手に入れた。写真は、2003年にやはり世界ランク1位となったコーチのフアン・カルロス・フェレーロと喜び合う様子。
スペインのテニス史を変えつつあるカルロス・アルカラスとラファエル・ナダルを比較するのは、それほど突飛な話ではないだろう。ただし、ナダルに比肩するには21回のグランドスラム優勝を果たさなければならないが......
全米オープン前の2022年5月には、ATPマスターズ1000「ムチュア・マドリード・オープン」で優勝。これによりラファエル・ナダルやノバク・ジョコビッチといった偉大なテニスプレーヤーを超え、世界ランク6位まで上り詰めている。テニス界の若きスターの半生を振り返ってみよう。
カルロス・アルカラスは2003年5月5日にスペイン・ムルシア州エル・パルマル市生まれ。父親はカルロス・アルカラス、母親はビルヒニア・ガルフィアで、3人の兄弟(アルバロ、セルヒオ、ハイメ)がいてカルロスは4人兄弟の2人目だ。
アルカラスは生まれながらにテニスの世界にいた。父親はATPツアーでプレー経験もある元テニス選手で、現在は地元エル・パルマールのテニスクラブのディレクターとして、テニスとパドルテニスの指導にあたっている。もちろん4人の息子たちもそのクラブでテニスを始めた。
アルカラスはつねに家族を誇りに思っており、スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティボ』にもこう語っている:「家族がいなければコート外で楽しい時間を過ごすことも、コート上でレベルの高いプレーをすることもできないだろう。とても恵まれた環境にいる」
趣味で始めたテニスだったが、その才能に導かれるように本格的に取り組んでいくようになった。地方紙『La Verdad』のインタビューに答え、父親は次のように語っている:「小さい頃の成長ぶりは明らかで、試合でも結果を出していました。年齢が上がるにつれ各ステージで強さを発揮し、気づけば15、16歳できわめて高いレベルに達していました」
テニス選手としての飛躍のきっかけは彼が14歳の時に訪れた。ムルシア州エル・パルマールからアリカンテ州ビレナ市に移り、元世界1位のテニス選手フアン・カルロス・フェレーロが運営するテニスアカデミーに入校したのだ。
アカデミーへの参加により、フェレーロがアルカラスのメンター、あるいは年上の友人、そしてトップレベルで戦うためのコーチとなった。
ジュニア時代、カルロス・アルカラスはITFワールド・テニス・ツアーのジュニア大会で2勝、世界ランキング22位を記録した。
2019年、カルロス・アルカラスは国内のみならず国際レベルでも注目を集め始めた。その主な例がアリカンテ・チャレンジャーだ。初戦でヤニック・シナーを下し、2003年生まれの選手として初めてチャレンジャー大会で勝利を挙げたのだ。
前年の2018年、プロに転向していたアルカラスはITFワールドテニスツアー3勝、ATPチャレンジツアー4勝を挙げた。2021年5月に世界ランキングトップ100入りを果たし、7月には「クロアチア・オープン」でリシャール・ガスケ(フランス)を下してATPツアー初優勝を決めた。
プロとしての最初のタイトルは、故郷ムルシアにほど近いアリカンテのデニア市で行われたフューチャーズ初優勝だ。ここで決勝を6-4、6-3で勝ってからというもの、目を瞠る快進撃を続けている。
2022年は、リオ・オープンとバルセロナ・オープンという2つのATPツアー500で優勝。続くマイアミ・オープンでもキャスパー・ルード(ノルウェー)を下して優勝、マドリッド・オープンではファエル・ナダル、ノバク・ジョコビッチといったレジェンドを倒して大会史上最年少で決勝進出。アレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)を破り、ATPマスターズ1000で初めて2大会優勝を挙げた。
マドリード・オープンでアルカラスに敗れたラファエル・ナダルは次のように語った:「アルカラスのレベルの高さは誰もが知るところだ。彼を祝福したい。母国での試合は特別であり、彼にとっても格別な一週間だったに違いない。スペインに素晴らしい選手がまた一人現れたことを嬉しく思うし、長期にわたり活躍してくれることを期待している」
2022年3月にはデビスカップ最終予選でスペイン代表としてもデビューを果たし、ルーマニア代表と戦った。
カルロス・アルカラスの身長は、ラファエル・ナダルやロジャー・フェデラーといった名選手とほぼ変わらない185センチ。彼より身長が低い選手といえば、テニスアカデミーのパートナー、パブロ・カレーニョと、ノルウェーのカスパー・ルードが共に183センチ、アルゼンチン出身のディエゴ・シュワルツマンが170センチなどだ。
アルカラスは右利きで、「ドライブ」と呼ばれるフォアハンドが特徴的だ。また、両手打ちのバックハンドも得意とし、ストロークの幅も広く、世界で最も完成度の高い将来有望なテニスプレーヤーである。
女子テニス界のレジェンドの一人であるジュスティーヌ・エナンはアルカラスについて、「19歳だが信じられないほど成熟しており、学習するスピードも速い。ゲーム運びでは、ナダル、フェデラー、ジョコビッチよりも完成度が高いように思います。3人をバランスよく合わせたような選手」と手放しで称賛した。
アルカラスはテニス選手として体調管理の重要性をつねに意識している:「チームも僕も、体調管理には細心の注意を払っています(中略)。良いコンディションを維持できるとわかっていれば、長いツアーにも落ち着いて取り組むことができます」
ラファエル・ナダルと同じく、カルロス・アルカラスもレアル・マドリードのファンであることを告白している。親交の深いナダルと比較されることが多いが、彼自身はロジャー・フェデラーを崇拝しているとしている。
ムルシア出身の女子テニスプレーヤー、マリア・ゴンサレス・ヒメネス選手とはアルカラスにとりテニスの原点であるムルシアのテニスクラブ仲間であり、プライベートでも親交を深めている。
選手の成功はタイトル数だけでなく収入でも測られる。カルロス・アルカラスはその若さとプロとしてのキャリアの浅さにもかかわらず、ATPが提供するデータによれば、すでにさまざまなトーナメントを通じて400万ユーロを超える賞金を獲得しているという。
ナダル、フェデラー、ジョコビッチというビッグ3の後継者はまだ現れないと思われていたが、一夜にして超新星が登場した。カルロス・アルカラスによりテニス界での世代交代が進み、新たな歴史がつくられようとしている。