トランプ前大統領が副大統領候補に指名:J・D・ヴァンス上院議員はどんな人物?
暗殺未遂というショッキングな事件に見舞われながらも難を逃れたドナルド・トランプ前大統領は7月15日、ミルウォーキーで行われた共和党大会に姿を現し、ついに副大統領候補を発表した。
トランプ前大統領から共和党の副大統領候補に指名されたのはジェームズ・デイヴィッド・ヴァンス氏(39)。退役軍人のビジネスマンで、自伝『Hillbilly Elegy』を出版した作家としての顔も持っている。また、2023年以降はオハイオ州選出の上院議員でもある。
副大統領候補にヴァンス上院議員を指名するというのは異例の選択だ。ミレニアル世代の同氏にとって、本業はあくまでベンチャー投資や小説の執筆、メディアへの露出であり、政界進出は副業のようなものだ。しかし、トランプ前大統領はこの経歴にかつての自分を重ね合わせているのかもしれない。
もし、共和党が大統領選を制した場合、ヴァンス氏はアイゼンハワー政権で副大統領を務めたリチャード・ニクソンと並んで、戦後の米国ではもっとも若手の副大統領となる。同氏はカマラ・ハリス副大統領より20歳、トランプ前大統領より38歳も若いのだ。
ロイター通信によれば、ヴァンス上院議員は2016年にトランプ前大統領を「間抜け」呼ばわりした上、オフレコではヒトラーと比較するなど、反トランプ派の姿勢を鮮明にしていたという。さらに、NPR放送のインタビューでは、「(トランプ氏は)有害で、白人の労働者階級を闇に突き落とそうとしているかのようです」とコメントしたのだ。
あれから8年、めぐりめぐってトランプ前大統領の右腕に選ばれたJ・D・ヴァンス上院議員。数ヵ月後にはおそらく副大統領になっていることだろう。では、ヴァンス氏とは一体、どのような人物なのだろうか?
ニュースサイト「ポリティコ」によれば、ヴァンス上院議員はオハイオ州ミドルタウン生まれ。母方の祖父母はケンタッキー州のアパラチア山脈地方出身だという。そこで、ヴァンス氏は以前から自身の出自について、「由緒正しき田舎者」だとしてきた。
BBC放送いわく、ヴァンス上院議員の父は息子が幼いころに家族を捨てて去ってしまった。一方、母親は長年にわたって薬物依存に陥っていたため、子供時代のヴァンス氏は母方の祖父母のもとで成長したそうだ。
ヴァンス氏の子供時代は、2016年にベストセラーとなった自伝『Hillbilly Elegy』の中で詳しく述べられている。その後、この作品は2020年にロン・ハワード監督が『ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌』(主演はエイミー・アダムスとグレン・クローズ)として映画化し、Netflixで配信されることとなった。
AP通信によれば、ヴァンス上院議員がトランプ一家と親しくなったのは『Hillbilly Elegy』がきっかけだったらしい。トランプ前大統領の長男、ドナルド・トランプ・ジュニア氏がこの作品を気に入り、政界入りしたばかりのヴァンス氏に会いに行ったのだ。以来、2人は交友関係を続けている。
しかし、BBC放送はヴァンス氏の作品について、苦悩する自分の家族や友人を極めて保守的な視点から描いたものだと批判。困窮する身近な人々を、生活保護に頼りっぱなしで自立できない浪費家として描写しているというのだ。
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ニュースサイト「ポリティコ」によれば、高校卒業後のヴァイス氏は米海兵隊に入隊し、イラクに派遣されたという。このときの経験をもとにウクライナ支援に反対しており、上院でウクライナ支援法案が審議された際には、「イラクに赴いたとき、私はだまされていたことに気づきました。外交担当者のお題目はウソ八百だったのです」と述べ、法案成立を阻止しようと試みている。
イラクから帰還したヴァンス上院議員はまず、オハイオ州立大学に入学。その後、イェール大学ロースクールに進学、卒業した。イェール大学ではペイパルの創設者ピーター・ティール氏の講義に出席し、大いに感銘を受けたとのこと。
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その後、サンフランシスコに拠点を移したヴァンス氏はピーター・ティール氏率いるファンド「Mithril Capital」のもとで、IT業界のベンチャーキャピタリストとして2年間働いていた。ティール氏はのちに、上院議員選挙に出馬したヴァンス氏に対し、1,000万ドルという巨額の寄付をすることになる。
ちなみに、イェール大学在学中には、後に妻となるウーシャ・チルクリと出会っている。ウーシャはインド系米国人の弁護士で、最高裁判所長官だったジョン・ロバーツ氏のもとで法務事務官をつとめたこともある人物だ。なお、ヴァンス夫妻には現在、子供が3人いる。
さて、気になるのは、J・D・ヴァンス上院議員がもし副大統領に就任したら、どのような行動に出るのかということだ。トランプ前大統領のイエスマンに成り下がってしまうのか、同氏とは一線を画して独自路線を行くのだろうか?