プーチン大統領に反旗を翻し、ベラルーシへ亡命したプリゴジン:「ワグネル」反乱劇の一部始終
ウクライナ侵攻ではロシア側に立って参戦していた民間軍事会社ワグネルが突如起こした反乱劇。これについて、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、自身の仲介によって事態は収束に向かったとしている。
プーチン政権はルカシェンコ大統領の仲介でワグネルを率いるエフゲニー・プリゴジンと合意に達したとされる。複数のメディアによれば、プーチン大統領はこの調停を歓迎したという。
ルカシェンコ大統領の説得でプリゴジンはモスクワ進軍を思いとどまった。引き換えに、ロシア当局はワグネルに対する刑事訴追を取り下げるとのこと。
合意を受けて、モスクワに進軍し国防省上層部と対峙するというプリゴジンの計画は中止された。
プリゴジンとロシア軍指導部の間には数ヵ月前から確執があり、6月23日の反乱劇につながった模様。
『ニューヨーク・タイムズ』が伝えたところによれば、プリゴジンはまずSNS上でワグネル陣地がロシア軍の砲撃を受けたと主張、反乱を開始したという。これを受けてロシア当局は6月23日、「武装蜂起」を組織した疑いでワグネルに対する捜査に着手。
プリゴジンはワグネルの行動について、味方に陣地を攻撃されたことに対する「報復」であると発言。翌日にはウクライナ国境を越え、ロシア南部のロストフ・ナ・ドヌーを占領、モスクワを目指して進軍を始めた。
一方、激怒したプーチン大統領は反乱の首謀者たちを「裏切り者」と罵り、「厳罰を受けるのは避けられない」とした。
また、モスクワへの経路に当たる各都市のトップは市民に対し不要不急の外出は避けるようアナウンスした。
モスクワ市長は月曜日を休日にすると同時に、警備を強化するよう指示。SNS上に流れた動画からは、当局がモスクワの路上にバリケードを設置する様子が確認できた。
プーチン政権が進めるウクライナ侵攻で中心的な役割を果たしてきたワグネル。しかし、ここ数週間は、ワグネル指導者プリゴジンによるロシア軍指導部への批判が目立っていた。
BBC放送によれば、事の発端はロシア軍が補給キットや武器、弾薬といった物資をワグネルに供給しなかったことだと見られている。また、兵士を使い捨てにするロシア軍の方針や上層部にはびこる汚職に対して、プリゴジンが不満を抱いていたと報じるメディアもある。
報道各社によれば、プリゴジン自身はワグネルの行動についてクーデターではないと主張、「正義の行進」だと述べた。
この予想外の反乱劇に、世界は虚を突かれる形となった。実際、欧州のある安全保障担当者は『ワシントン・ポスト』紙に対し、プリゴジンとロシア軍指導部の対立を注視するアナリストは多いが、武装蜂起に至る可能性は低いと述べていたほどだ。
ところが、事態はめまぐるしい進展を見せ、一時はプーチン政権の存続が危ぶまれる勢いとなった。ワグネル部隊がモスクワに接近するのにともない、反プーチン派の指導者たちは呼応して立ち上がるよう人々によびかけた。
『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、反プーチン派勢力の糾合を目指すロシア人実業家ミハイル・ホドルコフスキーなどは、支持者に対し武器をとるよう呼び掛けたとされる。
同紙によれば、ホドルコフスキーはTelegram上でプリゴジンを「戦争犯罪人」と呼び、味方ではないと断言する一方、ワグネルの反乱はプーチン政権を倒す「一世一代のチャンス」と述べたという。
また『ワシントン・ポスト』紙によれば、ベラルーシの反体制派の間でも同様の動きが見られたという。たとえば、ウクライナ軍を支援するベラルーシ国籍の武装グループも人々に蜂起を呼びかけたようだ。
しかし、ロシア当局側はワグネルに対し何らかの譲歩をしたものと見られ、モスクワを目指していたワグネル部隊は進軍を停止、南部ロストフ・ナ・ドヌーの占領も解いて撤収した。
複数のメディアが、プーチン大統領は1999年に権力を掌握して以来、最大の危機に見舞われることになったと報道。しかも、ウクライナの前線では同国軍が反撃を続けている最中の出来事だった。
今回の反乱の首謀者となったプリゴジンについては、ベラルーシへの亡命で決着。CNN放送をはじめとする報道各社は、同国のルカシェンコ大統領がプリゴジンの到着を発表したと伝えた。
一方。ロシア国内ではプーチン政権による粛清が始まったとの見方も出ている。実際、『モスクワ・タイムズ』紙は、ウクライナ侵攻で司令官を務めていた「ハルマゲドン将軍」ことセルゲイ・スロヴィキン将軍が逮捕されたと報道。同将軍については『ニューヨーク・タイムズ』紙が、ワグネルによる反乱を事前に知らされていたと米高官が明かしたことを伝えている。