プーチン大統領、ワグネルのトップすげ替えに失敗したことを告白
最近行われたインタビューのなかで、プーチン大統領は民間軍事会社ワグネルを率いるエフゲニー・プリゴジンが反乱を引き起こしたことを受け、トップをすげ替えようと試みたことを明かした。しかし、この人事はワグネル側に拒否されたという。
結局中止されたワグネルのモスクワ進軍だが、一体あの反乱は何だったのか依然として謎は残る。とりわけ、なぜプリゴジンは方針を転換したのか、その後ロシアでは何が起きているのか、政治アナリストたちは固唾を呑んで見守っている。
事件の真相が明らかになる日が来るとは限らない。しかし、ワグネルが進軍を中止した直後に、ロシア紙『コメルサント』のアンドレイ・コレスニコフ記者がプーチン大統領に対するインタビューを行っており、何らかのヒントをもたらしてくれるかもしれない。
6月29日に行われたプリゴジンとの会談についてコレスニコフ記者に訪ねられた際、プーチン大統領はその顛末を説明。やましいことは何もないとした。
プーチン大統領いわく、プリゴジンおよびワグネルの上級指揮官数人と会談を行ったのは、前線で戦う罪のない兵士たちがプリゴジンの陰謀に荷担させられてしまったことを遺憾に感じたためだという。
プーチン大統領はプリゴジンおよびワグネル指揮官35人と会談を行い、同グループをウクライナの戦場に今後も派遣する方法を模索したとされる。しかし、3時間におよぶ会談にもかかわらず、思わしい成果は得られなかったようだ。
コレスニコフ記者によれば、プーチン大統領はプリゴジンに対し、コードネームで「セドイ」と呼ばれる人物をトップに据えることを条件に、ワグネルのウクライナにおける存続を提案。同調する指揮官もいたとされるが、プリゴジンはこの申し出を拒絶したという。
ロイター通信は、欧州連合(EU)の制裁リストによれば、コードネーム「セドイ」とはワグネルの上級指揮官、アンドレイ・トロシェフのことだと指摘。この人物はアフガニスタン侵攻およびチェチェン紛争に従軍し、数々の勲章を受けたとされている。
『ガーディアン』紙の報道によれば、プーチン大統領は「全員が同じ場所で、これまでどおり戦うことができる。ワグネル戦闘員にとっては何も変わらないはずだ。これまで戦場で指揮官を務めていた人物が、今後も彼らを率いるのだから」と述べたようだ。
ワグネル指揮官のなかにはこの提案に同意する者もいたようだが、プリゴジンはプーチン大統領の発言を聞き終えるや否や、「私の部下たちがそのような提案に同意するとは思えない」と一蹴。ワグネル存続の道は絶たれたとされる。
ただし、ロイター通信によれば、プリゴジンのこの発言はクレムリンの公式会談記録に掲載されていないようだ。また、プリゴジンは同社の問い合わせに回答しておらず、プーチン大統領の説明には疑問の余地が残るとした。
ロシア政界の裏側で何が行われているのか知ることは難しい。しかし、『ガーディアン』紙によれば、インタビューにおけるプーチン大統領の発言は、プリゴジンの名誉を貶め、ワグネルメンバーの説得を試みる当局の策なのではないかと見られている。
米国のシンクタンク、ランド研究所で上級政策アナリストを務めるダラ・マシコット氏は、プーチン大統領の発言について、当局にとってワグネルはまだ必要だがプリゴジンはすでに用済みであることを示している可能性があると指摘。
同氏いわく「プーチン大統領は暗にこう言いたいのではないでしょうか:ワグネルとその戦闘員はまだ必要だが、プリゴジンとは切り離さなくてはならない」しかし、この姿勢はプーチン大統領が権威を維持する上で「本人が考えているほどには」有効ではないと付け加えた。
このように謎の多いインタビューだが、プーチン大統領にとってワグネルがもはや存在しないも同然なのは確かだと見られている。というのも、コレスニコフ記者にワグネルは戦闘部隊としてまだ存在するのかと訪ねられたプーチン大統領は、「そんなものは存在しない」と即答したのだ。
ロイター通信の報道によれば、プーチン大統領は「ワグネルは存在しない。民間軍事組織に関する法律がないのだから、存在するわけがない」と発言。この発言が意味するところが明らかになるのはまだ先のことだろう。しかし、ロシアがウクライナの戦場でもっとも強力な部隊を失ったのは間違いなさそうだ。