プーチン大統領が次の攻撃対象とするエリアとは
ウラジーミル・プーチン大統領が次に攻撃を仕掛けるのはどの国だろうか。ウクライナとロシアの戦争が長期化するなか、こうした問いかけを行うのは時期尚早かもしれない。だが、ロシアが隣国に侵攻をして以来、各国メディアはこの問いを抱きつづけている。
ロシアがウクライナにおける戦争に勝利した場合、プーチン大統領が次に狙う可能性の高い国は複数ある。そのなかでも明らかに標的になるとされる国の一つがモルドバだ。実際、ロシアはウクライナへの侵攻を開始して以来、モルドバに対する干渉をそれまで以上に強めている。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』誌が伝える通り、モルドバはかつて旧ソ連を構成していた15共和国のひとつモルダヴィア・ソビエト社会主義共和国であり、現在も国内に親ロシア派の未承認国家トランスニストリア(沿ドニエストル共和国)が存在する。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』誌の編集委員会は2月の記事を通じて「プーチン大統領は旧ソ連各国(の吸収)を視野に入れている」とし、ロシアがウクライナを制した場合にモルドバが次の標的とされる理由を明らかにしている。
モルドバでは2020年11月に選挙が行われ、EU加盟を目指す親欧米路派の女性リーダー、マイア・サンドゥが勝利して大統領に就任。それ以来、欧州への統合の進展をめざしている。
サンドゥ大統領率いる親欧米派の与党「行動連帯党(PAS)」は2021年に行われた議会選挙で過半数の議席を獲得して勝利。その後モルドバはEU加盟申請手続きを進め、2022年には欧州委員会から加盟候補国のひとつに認定されている。
サンドゥ大統領は今年2月にブリュッセルで開催されていたEU首脳会議に出席した際、ロシアがモルドバの政府転覆を画策していたとしてプーチン政権を非難。この計画の存在をサンドゥ政権に伝えたのはウクライナだとした。
サンドゥ氏は記者会見を通じ、「この計画には民間人のふりをした人々による破壊活動や軍事訓練経験者による暴力行為、さらに政府庁舎への攻撃や人質の奪取などが含まれていました」とコメント。ニュースメディア「ポリティコ」が伝えている。
10月、サンドゥ大統領は『フィナンシャル・タイムズ』紙に対して事件の詳細を明かし、エフゲニー・プリゴジンが創設したワグネル・グループがモルドバの政権交代を狙った作戦の指揮を執っていたとした。
「我々が入手した情報によれば、政府転覆計画はワグネル・グループが準備したものであり、反政府デモにみせかけて暴力行為の拡大を狙っていました。きわめて深刻な事態であり、自己防衛に努める必要があります」とした。
一方、元ロシア軍司令官で国会議員のアンドレイ・グルリョフはロシア国営テレビに出演し、次にロシアの攻撃目標になる可能性が高いのはフィンランドだと発言。
写真提供:Wiki Commons by Андрей Кречетов
BBCモニタリングの上席ジャーナリスト、フランシス・カーが投稿した27秒の動画において、グルリョフ議員は「ペトロザヴォーツク(ロシア北西部にあるカレリア共和国の首都)の領有権を主張するフィンランドは、第二のウクライナになる可能性がある」とコメント。
グルリョフ議員は「我々からみれば、フィンランドが第二のウクライナになるであろうことは火を見るよりも明らかだ」と語る。
「現在、フィンランドでは領有権を主張する動きが高まっています。側近を通じてフィンランドの論調を調べたところ、『ペトロザヴォーツクはフィンランドのものだ!』と高らかに叫んでいました。まったくひどいものです」と続けた。
ロシアの独立系報道サイト「アゲントストヴァ(Agentstvo)」によれば、フィンランドおよびバルト三国(ラトビア、リトアニア、エストニア)との軍事衝突に備えてロシアが動き出したことを示す新たな大統領令がロシアで公布されたという。『ニューズウィーク』誌が伝えている。
バルト三国もモルドバと同じく旧ソビエト連邦の構成国である。プーチン政権は、こうしたバルト三国とフィンランドに接するロシア地域を西部軍管区(元レニングラード軍管区)の下に置くことを決めたのだ。
『ニューズウィーク』誌はロシア軍事アナリストのユーリ・フェドロフの言葉として、「各管区は特定エリアで戦争を行うことを目的としており、旧レニングラード軍管区はバルト三国とフィンランドの2つを戦域として管轄している」と伝えた。
だが、フィンランドとバルト三国はいずれもNATO加盟国であり、一つの加盟国への攻撃に対して全加盟国で防衛するという集団防衛規定によって守られている。プーチン大統領がこのエリアへの攻撃を命令する可能性は今のところ低いと考えられる。