巨匠ベートーヴェンの遺髪から高レベルの鉛が検出される:ただし毒殺説ではない?
ベートーヴェンの音楽は誰でも一度は耳にしたことがあるだろう。ベートーヴェン自身は1827年に亡くなっているが、その作品はいまでも演奏され続け、新たな感動を生んでいる。
CNNによると、ベートーヴェンの遺髪を分析した研究者らが、死因が鉛中毒だったかもしれないと示唆しているという。
ベートーヴェンが亡くなったのは先述のように1827年56歳の時で、その何年も前から肝臓や腎臓の疾患に悩まされていた。現在、その遺体はウィーン中央墓地に埋葬されている。
ベートーヴェンといえば第9の「歓喜の歌」が有名だが、本人の人生は健康上の問題につきまとわれていた。聴覚を失ってしまったことは有名だが、ほかにも胃炎や肝疾患、腎疾患などを抱えていた。
科学誌『Clinical Chemistry』に掲載された論文では研究者らがベートーヴェンの遺髪を分析、ヒ素や水銀、鉛の痕跡を発見したとされている。
とはいえヒ素や水銀はそれほど多くの量が認められたわけではなく、鉛だけが中毒症状を呈しうるレベルの量となっていたという。
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科学メディア「Science Alert」も指摘しているように、ベートーヴェンの遺髪から検出された鉛の量は通常の実に64倍にも達していたのだ。
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ここでひとつの疑問が湧き起こる。ベートーヴェンは毒殺されたのだろうか? ベートーヴェンを亡き者にしようとする陰謀が存在したのだろうか? ダン・ブラウンばりの想像を繰り広げたくなる疑問だが、先に言っておくと答えはノーだ。
ベートーヴェンの遺髪2束を10年近く調査してきたハーバード大学医学大学院の研究者によると、検出された鉛は死に至るほどの量ではないのだという。
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研究チームは『Clinical Chemistry』誌上でこう述べている:「こういったレベルの鉛は一般的に、消化器系の疾患や腎疾患、聴覚障害などにつながり得るとされているが、単独で死をもたらすようなものではない」
「Science Alert」によると、遺髪から多くの鉛が検出された原因はベートーヴェンの食生活、それも特に飲酒癖だと考えられるという。
ベートーヴェンが生きていた時代、中欧ではワインの容器に鉛を使っていた。そして、晩年のベートーヴェンがかなりの深酒をするようになっていたことも知られている。
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さらに、ベートーヴェンは魚が好物だったが、19世紀のドナウ川はオーストリアにおける産業革命の中心となる地域だった。鉛やヒ素、水銀などの物質がベートーヴェンの遺体から検出されたのはこういった理由による可能性がある。
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CNNも、先ほどの研究者らによる、長期間による鉛中毒は「消化器系の疾患や腎疾患、聴覚障害などにつながり得る」という説明を引いている。ベートーヴェンが後半生悩まされ続けた健康上の問題も鉛のせいだったかもしれないわけだ。
また、研究者らは晩年のベートーヴェンが肝炎に感染していたことも明らかにしている。遺伝的に肝疾患にかかりやすい傾向があったことも指摘されており、こういったことが原因で死につながったと考えるのがもっとも自然だ。
ベートーヴェンの死は才能に比して早すぎたかもしれないが、不滅の作品を残せたのは天才のなせる業とも言えるだろう。