ペット熱の止まらない中国、年内にペットの数が乳幼児数を上回ることに
人口が減少に向かっている中国で、空前のペットブームが起こっている。米金融大手のゴールドマン・サックスの報告によれば、都市部におけるペットの数は今年中に、4歳以下の子供の数を上回ると予測されている。
こうした傾向は今後も続き、2030年までに都市部のペット数が7,000万匹を超える一方、4歳未満の子供の数は全国で4,000万人以下になると見込まれている。つまり、約5年でペットの数が子供の数のほぼ倍に達するというのだ。
ペットブームのおかげで関連市場は目覚ましい成長を続けており、中国メディア「人民網」によれば、その規模は2023年に391億ドル(約5兆9,000億円)に達したという。消費が低迷する現在の中国にあって、数少ない好調なビジネスのひとつとなっているようだ。
ペット関連市場のうち半分以上を占めるのはペットフード分野だ。2017年から2023年にかけてのドッグフードとキャットフードの売り上げは1 年間で平均16%の成長を遂げ、70億ドル規模(約9,800億円)に達したという。こうしたペットブームの背景にはいったい何があるのだろうか。
世界最大の人口を抱えていた中国では1979年から2014年にかけて、基本的に一組の夫婦につき子供は一人までとする「一人っ子政策」がとられていた。しかし、この政策により急激に若者人口が減少し高齢化が進んだことから、2015年からは一組の夫婦が二人まで子供をもてるようになった。
2021年には三人目の子供をもつことも認められたが、政府の意図に反して出生率は低下を続けている。経済成長を遂げた中国では、都市部における生活費の高さや多忙な生活から子育てがむずかしくなっているのだ。CNNによれば、子育て費用は世界の中で突出して高く、オーストラリアやフランスを大幅に上回ると中国の人口調査機関が報じている。
高い失業率も社会問題になっている。ロイター通信が伝えた中国国家統計局のデータによれば、若年層の失業率は2023年6月に過去最高の21.3%に達したという。先行きが見えないことから人々の未婚化や晩婚化が進み、一人暮らしの人口が増えているようだ。
そうした中で、ペットを話し相手に暮らすシングルや、子供を持たずにペットを飼うというカップルが急増している。実際、中国におけるペットの飼い主は都市部に住む若者が多く、「中国寵物消費報告」によればペットの飼い主は20代と30代が半数以上を占めていると、CNNが伝えている。
中国紙『人民日報』は、都市部にすむ若者は就職やローンといったさまざまなストレスにさらされており、子供は持たずともペットを飼うことで「癒し」を感じたり、「必要とされているという感覚」を得られると指摘する。
もちろん、ペットが飼いたくてもさまざまな事情から飼えない人もいるだろう。そんな動物好きの人のために各都市にドッグカフェやキャットカフェが登場し、その人気は高まる一方だ。いまや、自分が仕事に出かけている日中に愛犬や愛猫をアニマルカフェに預けて「アルバイト」させる飼い主も増えている。
しかし、7年前を振り返るとまったく状況は異なっていた。2017年にはペットの数が約4,000万匹だったのに対し4歳未満の子供の数は約9,000万人で、幼児の数はペットの2倍以上だった。しかし、出生率の低下に歯止めがかからず、前述のとおり年内にペットの数と幼児の数は肩を並べ、やがて逆転に向かっている。
かねて各家庭の子供の数を統制しようとする傾向のある中国政府だが、近い将来にふたたび出生率を上げることはできるだろうか。