最新鋭の二機種を使用しないロシア軍、その理由とは
ウクライナ空軍の広報によれば、ロシア軍は自らが保有する戦闘機のうち最新鋭の二機種は用いず、旧型のものを飛ばしているのだという。
ウクライナの国営報道機関「ウクルインフォルム」でインタビューに応じたユーリ・イフナト大佐によると、ロシア軍はウクライナ領空では自らの保有するSu-57とSu-75を使っていないということだ。
また、イフナト大佐はオンライン新聞「ウクライナ・プラウダ」でこう述べてもいる:「ロシアの報道ではなんども、これらの戦闘機が前線に投入されてどこかに爆弾やロケット弾を投下したと書かれています」
だが、ウクルインフォルムとのインタビューに応えた5月2日の動画ではイフナト大佐はこう述べている:「ウクライナ空軍はロシア軍の航空攻撃においてこれらの航空機の使用を確認していません」
ただし、大佐が「ウクライナ・プラウダ」紙によせたコメントによると、ウクライナの防空網をかいくぐるためなどの理由からロシア軍がこれらの航空機を遠隔地で利用した可能性は完全には否定できないともいう。
イフナト大佐の説明によると、ロシア空軍は最新鋭機よりも旧型の航空機を積極的に用いているという。ただし、旧型といえどもそれらの機体はウクライナ空軍の保有するものよりも技術的にも数的にも勝っているとされる。
ロシア空軍がSu-57やSu-75をウクライナ侵攻で利用したのかどうか、本当のところを知るのは難しいが、イギリス国防省によるといくつかの任務で飛行した形跡があるという。
写真:Mztourist, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, ウィキメディア・コモンズより
1月9日に英国防省が出した諜報日報によると、ロシア軍がウクライナに対してSu-57を用いた作戦を実行したのは「ほぼ確実」だとされている。
英国防省はこう記している:「これらの作戦での活動は限定的なものと見られており、ロシア領空を飛行し、ウクライナに対して長距離空対地及び空対空ミサイルを放っただけのようだ」
英国防省はロシアのアフトゥビンスク空軍基地に5機のSu-57が駐機している「商用ルートで入手可能な画像」を引用し、これらの機体が「ウクライナに対する作戦」で利用された証拠としている。
写真:Twitter @DefenceHQ
英国防省の分析において興味深いのは、これらの機体が長距離作戦のみに用いられているという点だ。これはつまり、おそらくロシアはこういった最新鋭機をリスクにさらしたくないと考えているということを意味するからだ。
英国防省の分析ではこう記されている:「Su-57(NATOコードネーム:フェロン)をウクライナ領空上で失うと、機体の評判が失墜して国外販売に影響したり、機密技術の流出が起こりうる。ロシアはそれらの事態を防ぐことを優先している可能性が非常に高い」
国防省の日報ではこうも言われている:「ロシア空軍は今回の戦争において一貫してリスク回避的なアプローチを採っており、今回のこともそれを象徴するものだと言える」
英国王立防衛安全保障研究所で空軍力の分析を担当するジャスティン・ブロンクが、上述の防衛省の分析が出た数日後にオンラインメディアの『インサイダー』で見解を述べている。
ブロンクによると、ロシアが最新鋭機をウクライナで飛ばさないのは、撃墜された際に敵の手に情報が渡ることを避けるためだという。
ブロンクが『インサイダー』に語ったことによると、ロシアの最新鋭機がウクライナで撃墜されたとなれば「面目が丸つぶれ」になるうえ、その戦闘機が誇りにしているステルス機能が「それほど効果的でない」と明らかになってしまうからだという。
ロシアのスホーイ社が開発したSu-57(フェロン)はステルス機能を持った多用途双発戦闘機だ。『ポピュラー・メカニクス』誌によると、この機体はコストや重量を削減するためにさまざまな新機軸の設計がなされているのだという。
同じくスホーイ社のSu-75(NATOコードネーム:チェックメイト)はロシアの最新のステルス戦闘機で、2021年のMAKS(国際航空宇宙サロン:ロシアで開催される航空ショー)で試作機が初公開されたばかりだ。当時なされたロイター通信の報道によると、この機体はアメリカのF-35への対抗機として鳴り物入りでの登場だったという。
写真:Kremlin.ru, CC BY 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by/4.0>, ウィキメディア・コモンズより
今日に至るまで、今回のウクライナ侵攻においてSu-75が使用されたという客観的で確実な証拠はない。ロシア国営のタス通信によると、Su-75の初のテスト飛行は2024年初頭に予定されているとのことだ。
写真:Mztourist, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, ウィキメディア・コモンズより