ウクライナによるロシア参謀総長暗殺計画に米国が「待った」をかける
ウクライナの治安当局は2022年に前線を訪問したロシア軍の参謀総長を暗殺する計画を立てていたが、その企てを思いとどまらせようとしたのは米当局だったことが判明。一体どのような経緯だったのだろうか?
ロシア軍のヴァレリー・ゲラシモフ参謀総長は2022年4月に、当時ロシア軍占領下にあったハルキウ州イジュームを訪問。ウクライナの情報機関に命を狙われることとなった。
『ニューヨーク・タイムズ』紙が2022年10月に報道したところによれば、ゲラシモフ参謀総長はイジューム付近の前線を秘密裏に訪問することになっていたが、米国の情報機関に察知されてしまったという。ところが、米国はこの情報をウクライナに伝えなかったとされる。
『ニューヨーク・タイムズ』紙の取材に応じた米高官は、ゲラシモフ参謀総長が暗殺されていれば紛争がさらにエスカレートしていた可能性もあると発言。米国はウクライナ支援を行いつつも、紛争の拡大には懸念を抱いていたのだ。
しかし、ウクライナ当局もゲラシモフ参謀総長のイジューム訪問を独自に察知し、暗殺計画がスタートする。そこで、米国は計画阻止に動くこととなった。
前出の米高官いわく:「我々はウクライナ当局を思いとどまらせようとしました。『ちょっとやり過ぎだ』と、そういうことでした」けれども、米側のメッセージは間に合わず、ウクライナはゲラシモフ参謀総長が滞在する陣地に砲撃を開始。
この攻撃によってロシア軍は死傷者を出したが、米当局によればゲラシモフ参謀総長は辛くも難を逃れたという。しかし、この事件を受けてロシア側は、軍高官を前線に派遣する機会を減らすようになった。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、ウクライナの情報機関は驚くべき能力を見せており、その活躍の背後には米国の支援があるとされている。
『ワシントン・ポスト』紙は10月23日、ウクライナがロシアを相手に展開する「見えない戦争」について報道。それによれば、米国はウクライナの情報機関を再建したばかりか、「第5局」と呼ばれる新たな部局を生み出したとされる。
匿名を条件に同紙の取材に応じた米国およびウクライナの当局者によれば、CIAは2015年以来、旧ソ連時代に設立されたウクライナの情報機関を対露戦争に耐えうる組織に再編するため、数百万ドルにおよぶ資金をつぎ込んだという。
写真:Wiki Commons: By President.gov.ua, CC BY 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=64887882
ある米当局者いわく、「第5局」の訓練施設はキーウ郊外にあり、敵陣で隠密に活動できるような部隊を育成すべくCIA職員が隊員を厳選したとのこと。
CIAはこの部隊にセキュリティ対策を施した通信機器や盗聴用の設備、親露派の制服などを提供し、情報提供者の募集やサイバー攻撃・盗聴対策を中心とした任務を実践させた。
同部隊はその後、親露派勢力の指導者を拘束するため攪乱作戦を展開するようになり、敵対する要人の暗殺まで行うように。
「第5局」が創設された当時、ウクライナ治安当局のトップを務めていたヴァレンティン・ナリヴァイチェンコ議員は、「今回のハイブリッド戦争によって、我々は全く新しい現実に直面することになりました」と述べている。
『ワシントン・ポスト』紙によれば、ナリヴァイチェンコ議員は「従来とは異なる方法で隊員を訓練する必要に迫られました」とコメント。米国のメディア各社もウクライナの情報機関再建に協力したと見られている。
元CIA職員は、ウクライナ情報機関の刷新を1970年代にイスラエルのモサドが実施した改革と比較。これによりウクライナの諜報能力が向上したことで、大胆な作戦行動ができるようになったとした。
ゲラシモフ参謀総長を狙った攻撃をはじめ、ウクライナ軍がロシア軍を相手に意表を突くような成果を挙げているのは、この改革のおかげなのだ。