ロシア軍が恐れをなすウクライナの自走砲「M109A6パラディン」とは
ウクライナの防衛を支援するためにアメリカが供与してきた兵器は多岐にわたるが、そのなかでもとりわけ有効性が顕著だったのが「M109A6パラディン」自走榴弾砲だ。
「M109A6パラディン」は知名度という点でこそ一歩劣るかもしれないが、ウクライナ軍が侵攻してきたロシア軍を撃退するのに大いに貢献している。その優秀性は単純で、非常に攻撃力の高い砲兵システムで命中率も高く、敵からの反撃を受ける前に移動できるのだ。この兵器について、詳しくチェックしてみよう。
軍事情報サイト「Military Today」によると、「M109A6パラディン」ができたのは1991年。初期型の「M109」から大口径・長砲身化し、最大射程は通常モデルで24kmとなっている。
「Technology.org」は「M109A6」の特徴についてこう書いている:「パラディンにおけるもっとも顕著な改良点はデジタル航法装置と火器管制システムを備えている点だ。こういったアップグレードのおかげで、パラディンは位置についてから30秒以内に射撃することができる」
画像:改良前のモデル「M109A1」, SFC Mcbride, Public domain, via Wikimedia Commons
パラディンの一部モデルにはさらに改良キットが取り付けられており、155mm誘導砲弾「M982エクスカリバー」を発射可能なものも存在する。同弾を使った場合最大射程は40kmにも及ぶ。だが、パラディンがロシア軍に恐れられているのはこれだけが理由ではない。
画像:United States Army, Public domain, via Wikimedia Commons
パラディンが戦場でこれほど恐れられているのは、その機動力の高さが理由だ。敵に向けて射撃したあとにすばやく位置を変える、ヒット・アンド・アウェイ戦法が採れるのだ。
「The Drive」のハワード・アルトマンはウクライナ陸軍の第47独立機械化旅団がアメリカから供与された兵器をどのように活用しているかについてのレポートでこう書いている:「パラディンがロシア兵を悩ませているのは、射撃後に素早く位置を変えることが可能だからだ」
「Military Today」の記事によると、パラディンは移動中に停止して射撃するまで60秒かからず、そのまますぐに再び移動できるのだという。しかも、必要とあればさらに高いレートで射撃を継続することもできる。
通常砲弾を使用していた場合パラディンは最大秒間4発のレートで射撃が可能で、3分間に1発のレートなら継続的に撃ち続けられる。とはいえ、ウクライナ軍ではそのように継続的な射撃を行う運用はしていないようだ。
ハワード・アルトマンによると、ウクライナに供与されたパラディンは昨夏の反転攻勢で南部ザポリージャ州でロボティネ-ヴェルボヴェ間のロシア軍が突出した部分を押し返す際に重要な役割を果たしたという。この成功の影には、パラディンとドイツ製戦車「レオパルト2A6」を組み合わせた運用の妙があったとされる。
パラディンは通常の155mm榴弾を発射可能で、アルトマンによれば10km以内の距離にいる敵への攻撃にはそれが利用されているという。だが、第47独立機械化旅団は東部戦線では通常榴弾は使用していないとされる。
同旅団のあるパラディン車長がウクライナ政府運営のプラットフォーム「United 24」に語ったところでは、ロシア兵に対しては「M864」クラスター弾を使用しているという。パラディンから同弾を発射することで、一度の射撃で大量の歩兵を攻撃することが可能になるとされる。
同旅団所属のパラディンは、トクマクへの途上にある集落ロボティネを奪還する際にも役に立ったという。ロボティネに通じる道路を防衛するために利用され、一日に100発程度の射撃を行ったとされる。
「歩兵が助けを必要としているときに、弾を惜しむことはできません」と「United 24」では説明されている。だが、これほどの規模での射撃が継続できたのもパラディンの機動性あってのことだ。実際、ロシアの事情通やアナリストはどうすればパラディンに反撃できるか頭を悩ませている。
ロシア国家院議員のアンドレイ・グルレフは2023年9月、自身のテレグラムチャンネルでパラディンを破壊するのは「非常に困難で、ほとんど不可能」だという認識を述べたという。「The Drive」が伝えている。
グルレフはこう書いていたという:「基本的に、ウクライナの砲はわが軍の砲兵の射程外、ウクライナ軍の奥深くに位置している。激戦地には2個旅団相当の砲兵が集まっていると考えられるうえ、他の各旅団にもそれぞれに所属する砲兵が存在する」
グルレフはさらにこう続けている:「敵軍の牽引式の砲はその多くを破壊したが、最近は自走式のものを使い始めている。わが軍からの報告によると、その自走砲を捕捉するのは非常に困難で、ほとんど不可能だという。二発目の修正射のあとすぐに移動して位置を変えてしまうのだ」
AP通信によると、ウクライナでは昨年2月に最初のパラディン乗員の育成が完了したという。米高官はパラディンがウクライナの反転攻勢の決め手になると考えていたとも伝えられている。
ウクライナは昨夏の反転攻勢でこそ大きな成果を挙げられなかったが、その後の主要な戦果の背景にパラディンが存在したことからもこの兵器の有効性は明らかで、先述の米高官の考えも正しかったということになるだろう。
今後も、ウクライナが南部や東部のロシア軍陣地を突破するようなことがあれば、「M109A6パラディン」が重要な役割を果たすことになるのは間違いないだろう。