プーチン政権が抱える深刻な燃料不足問題とは
世界有数の産油国として知られるロシアだが、市場関係者の情報によれば、国内では燃料が大幅に不足しているという。一体どういうことだろうか。
ロイター通信が市場関係者の話として伝えたところによると、ロシアでは南部に広がる穀倉地帯の作物の収穫に不可欠な燃料が足りていないという。
その原因としては、製油所の整備の問題、鉄道による輸送の遅れ、ロシアの通貨ルーブルの記録的な安値を受けて燃料の輸出が進んでいることが挙げられるという。
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たとえば証券会社「Freedam Finance Global」のアナリストであるウラジーミル・チェルノフは、ロシア紙『イズベスチヤ』にて、ルーブル安によって、燃料を国内市場に流通させるよりも輸出に回すほうが有利になってしまったと述べている。
石油会社は輸出供給量の増加に努めており、それがもとで国内のガソリンやディーゼル燃料の流通量が大きく不足しているのだと、チェルノフ氏は付け加える。
ところで、ロシアの石油はどこに輸出されているのだろう? 国際エネルギー機関(IEA)の石油市場レポート「Oil Market Report - September 2023」によると、8月の時点で中国とインド向けの輸出が総輸出量の半分以上を占めている。
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来年3月に大統領選挙を控えていることもあって、ロシア政府は国内で深刻さを増しつつある燃料不足に対して動きを見せているとロイター通信は報じている。しかし同通信によると、ロシア政府の対応はおそらく事態を悪化させるだけだという。
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「製油所への補助金を減らすという政府の決断は、世界有数の穀物輸出国であるロシアにおいて、燃料の入手困難をさらに悪化させるものと見られる」と、ロイター通信は指摘している。
そして、ロシア南部の石油会社は石油の生産量自体を減らしたり、燃料の販売を全体的にカットせざるを得なくなってしまった。また、ガソリンスタンドでは販売量に制限がかけられているようだ。
ある市場関係者は、等級「AI-92」のガソリン(日本のレギュラーガソリンに相当する)が、北コーカサスのアディゲ共和国、南部の都市アストラハン、クラスノダールでは手に入らないと語っている。また、「AI-95」(レギュラーとハイオクの中間)のガソリンとディーゼル燃料(軽油)はまず残っていないと漏らしている。
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また別の市場関係者によると、サマラ州ではここ二週間あまり、油槽所でディーゼル燃料が一滴も売られていないという。小売市場でも事態は同じだ。
ロシア南部でAI-92ガソリンとAI-95ガソリンが姿を消したことは、サラトフ州に展開する大手ガソリンスタンドチェーン「GP Vympel」の業務執行社員、エカテリーナ・サフキーナによっても確認されている。彼女が『イズベスチヤ』紙に語ったところによると、サラトフ州のガソリンスタンドでは基本的な燃料のストックが不足しているという。
「今は少ないストックでなんとか回しています。納入されてはすぐまた売り切れを繰り返している格好です。サラトフ州のいくつかのガソリンスタンドではAI-92とAI-95、そしてディーゼル燃料が切れています」と、エカテリーナ・サフキーナは語っている。
燃料の夏季需要が落ち着き、製油所の整備がひと段落するまでこの状況は改善しないだろうと市場関係者たちは見ている。
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「先月はAI-95ガソリンが不足しました。今月(8月)はいくつかのガソリンスタンドでAI-92ガソリンとディーゼル燃料が足りていません」と、クリミア半島を含むロシア南部の石油供給ネットワーク「Mosregiongaz」のCEO、ゲルマン・コロトフは『イズベスチヤ』紙に語っている。
ロシア国内の石油不足が、全世界の食糧価格やウクライナで継続中の戦争にどう影響してくるのかはまだ不明である。だが、繰り返しになるが、ロシアは世界有数の穀物輸出国なので、食糧価格は多かれ少なかれ上がることが予想される。