世界各地に広がるロシア連邦のスパイ網:一般市民の間に紛れる諜報員たち
ロシア連邦の前身で1991年まで続いたソビエト連邦は、卓越したスパイ網をもつことで知られていた。ソ連国家保安委員会、通称「KGB」のスパイたちが各国に潜入し、諜報活動を行っていたのだ。
では、プーチン政権下にある今のロシアはどうだろう?西側諸国の機密を筒抜けにするスパイ網は健在なのだろうか?
『デイリー・ミラー』紙によれば、英国政府はロシアのスパイおよそ1,000人が同国内で活動していると見ているようだ。
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『デイリー・ミラー』紙は英国諜報機関による情報として、ロシアと内通している情報提供者にはウェイターやタクシー運転手、役人、さらには政府関係者まで含まれると報じた。
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また同情報筋は、ロシアが労働組合をはじめとする英国の団体に工作員を送り込み、自国の利益になるような扇動を行う恐れがあると警告。
ロシア人オリガルヒを多数抱えることから、「ロンドングラード」と揶揄されることもあるロンドン。しかし、英国で暮らすロシア出身者は超富裕層だけではない。イギリス国家統計局の推計によると、同国には7万3,000人あまりのロシア人がいるのだ。
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英国内の複数の組織に多数の工作員を潜り込ませていた旧ソ連のKGB。冷戦時代にソ連のスパイとして暗躍した英国人の共産主義者グループ「ケンブリッジ・ファイヴ」は良く知られている。中でも、MI6(英国秘密情報部)職員でありながら、クレムリンに内通していたキム・フィルビーは驚くべきものがある。
しかし、プーチン大統領は英国以外にもスパイ網を展開しているようだ。実際、2022年10月にはノルウェー領トロムス島(写真)でロシア国籍の男がスパイ容疑で逮捕されている。『ガーディアン』紙によると、この人物の本名はミハイル・ミクーシンだが、ブラジル人教授ジョゼ・アシス・ジャンマリアという偽の身分を利用して同島にあるトロムソ大学で研究していたという。
また、スウェーデンでもペイマン・キア(42)とパイマン・キア(35)の兄弟がロシアと内通したスパイ容疑で逮捕。容疑が立証されれば、20年以上の禁固刑を科される可能性がある。
そして、ウクライナ侵攻を受けてロシアが展開した別のスパイ活動はさらに大胆だ。2022年夏、ロシアのスパイが国際刑事裁判所に潜入しようとして逮捕されたというニュースをBBC放送が報じたのだ。
ロシアのスパイにとって最も難しい任務は、おそらく米国の組織に潜り込むことだろう。しかし、アメリカ北方軍のグレン・D・ヴァンハーク司令官が上院で述べたところによると、メキシコにはロシアによる大規模なスパイ活動基地があるという。
ヴァンハーク司令官は上院議員たちを前に、「現在、世界に展開するGRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)所属の職員は、大部分がメキシコにいます。彼らはロシアの諜報員です」と説明。
しかし、メキシコのアンドレス・ロペス・オブラドール大統領(当時)はヴァンハーク司令官の発言に反発。AP通信によれば、「我々はどの国の植民地でもない。誰かを偵察するためにモスクワに行くこともなければ、ワシントンに行くこともない。メキシコはそういった活動には関与していない」と述べたという。
さて、ロシアの諜報機関が米国の主要な行政機関にスパイを送り込むことができるのかどうかは、実際のところ不明だ。もちろん、一般的な米国人だと思われていた人々が実はスパイだった、というケースは比較的最近も起きている。
米国のドラマ『ジ・アメリカンズ 極秘潜入スパイ』では、1980年代を舞台に、一見いかにも米国人らしい夫婦が実はKGBのスパイだというストーリーが語られる。ところが、2010年代にはこれとそっくりなケースが実際に起きている。リチャード・マーフィーとシンシア・マーフィという夫妻がFBIによってニュージャージー州の自宅で逮捕されたが、2人の本名はウラジーミル・グリエフ、リディア・グリエフであり1990年以来、ロシアのスパイ活動に協力していたというのだ。
しかし現代社会においては、機密情報の取得やステルス化したプロパガンダといった諜報活動を敵国で行う必要はなくなりつつある。大部分の専門家たちは、こういった任務はインターネットを介して行うことが可能であり、ロシアはすでにこのようなスパイ活動に取り組んでいると考えているのだ。
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海外からのサイバー攻撃やインターネットを通じた内政干渉は、映画に出てくるような古典的な諜報活動よりも遥かに効果的なのだ。
とはいえ、今後もスパイが絶滅することはないだろう。そして、各国でスパイ逮捕のニュースがたびたび報じられることからもわかる通り、プーチン大統領の国際スパイ網は身近に存在しているのだ。