ロシアPMCワグネル反乱の遠因?:ロシア軍に巣食う腐敗
CNN放送をはじめとする報道各社によれば、ロシア民間軍事会社ワグネルを率いるプリゴジンは6月23日、ロシア軍上層部を批判し、公然と反旗を翻した。声明の中でプリゴジンはワグネルの反乱について「正義の行進」であると主張しているというが、その背景にはロシア正規軍にはびこる腐敗があった可能性もある。
先日、ロシア連邦軍の将校が逮捕された。容疑はロシア軍の主力戦車、T-90のエンジンを盗み、ブラックマーケットに横流ししたというものだ。
逮捕されたのはアレクサンダー・デニソフ大佐で、ロシアの戦車T-90用のV-92S2エンジン7つを盗んだという容疑だった。ロシアの新聞「コメルサント」が報じた。
英「テレグラフ」紙のジェームズ・キルナー記者がこの報道を取り上げ、報じている。それによると、デニソフ大佐の転売は2021年11月から2022年4月に行われたという。
キルナー記者によると、V-92S2エンジンはひとつ約20万ドル(約2600万円)。デニソフ大佐が盗んだエンジンはぜんぶで7つと言われているので、すべてその価格で転売したとすれば総計は140万ドル(約1億8000万円)にもなる。
また、同じくキルナー記者によると、デニソフ大佐は南部軍管区で「戦車技術支援」の任務に就いていたとされ、その立場を利用してエンジンにアクセスしたと考えられている。
デニソフ大佐は今年の3月にモスクワ北東の都市ロストフで逮捕され、「戦車に搭載されるはずだった部品の窃盗」という容疑で訴追された。「テレグラフ」紙が翻訳して伝えた。
このニュース以前から、ロシア軍内における腐敗が組織的といえるレベルで浸透しているという報道はしばしばなされていた。
今次のウクライナ侵攻に関係する腐敗事件に限っても、侵攻開始直後から報告があった。侵攻初期にロシア軍の戦闘車両が燃料の不足から停止を余儀なくされ、長蛇の列をなしたことがあったが、その原因に戦闘員による燃料のベラルーシへの横流しがあったと言われている。「キーウ・ポスト」紙が報じている。
また、「ガーディアン」紙の報道によると、10月の大規模動員に際して、基本的な装備が必要な数そろわず、動員兵の間にいきわたらないという問題があった。この原因もまた組織的な腐敗だったと言われている。
当時の報道で、グレブ・イリゾフ元ロシア空軍中尉が「ガーディアン」紙のピョートル・ザウアー記者にこう語っている:「現在のロシア軍の惨状を見ても、まったく驚きではありません」
イリゾフはさらにこう続ける:「ロシア軍の内部には常に腐敗が巣食っていましたし、その問題にしかるべき対策がとられたこともありません。兵卒にぜんぜんお金を払わない一方で、上官たちはどんどん私腹を肥やしていきました」それにしても、ロシア軍の腐敗はいったいどれほど根深いものなのだろうか?
昨年10月、BBCニュースロシア支局がロシア連邦軍における腐敗に関するレポートを発表した。それによると、過去8年の間において、軍事裁判所では軍服の窃盗に関連した判決が558も出されているという。この数字は他の装備と比べても圧倒的に多いものだった。
また、同じレポートによると過去8年間で12,000件の詐欺事件があり、とくに2019年と2018年の件数が多かった。また、契約軍人(一般兵およびその指揮官も含む)による着服事件も700件あった。
腐敗は軍隊の物品の盗難だけにとどまらない。元米国駐欧州陸軍司令官のベン・ホッジスはロシア軍における腐敗は命令系統のなかに深く浸透しており、意思決定にすら影響を及ぼしていると指摘する。
昨年8月に、ホッジスはこう語っている:「虚偽の報告や、ほんとうは基準を満たさないものを書類上でごまかすことの横行、そして言うまでもなく、現在の個々のロシア兵の体たらく。このような事態はまったくの無能か、深い腐敗の結果というべきです」
ロシア連邦軍における腐敗がウクライナ侵攻にどれほどの影響を及ぼすことになるかはまだわからない。だが、少なくとも、軍における腐敗が侵攻から自国を守ろうとしているウクライナ軍の利益となっていることはまちがいない。