旧ソ連のアルメニア、ロシア離れを加速させる:ウクライナと外相会談も

西側諸国に接近するアルメニア
ナゴルノ・カラバフ
根深い領土問題
ソ連時代にアゼルバイジャンへの帰属決定
ソ連の崩壊で戦争勃発
第一次ナゴルノ・カラバフ戦争
第二次ナゴルノ・カラバフ戦争
CSTOの役割
ウクライナ侵攻で状況が一変
ロシアの影響力低下
アゼルバイジャンがナゴルノ・カラバフを制圧
軍事的優位に立つアゼルバイジャン
アゼルバイジャンの行動を黙認したロシア
「アルメニアの懸念は当然」
ロシアとの同盟は「無益」
パシニャン首相の演説
ブリュッセルでウクライナの外相と会談
クレバ外相のコメント
ウクライナの立場
強く反発するロシア
アルメニアの「重大な過ち」
プーチン政権の影響力低下
西側諸国に接近するアルメニア

ロシアによるウクライナ侵攻は、近隣諸国の情勢にも大きな影響を与えている。最近では、旧ソ連の一部だったアルメニアがウクライナ高官の訪問を受け入れたことに、ロシア政府が激しく反発。一方、アルメニアは急速に西側諸国への接近を図っており、両国が長年保ってきた同盟関係には亀裂が入りつつあるようだ。しかし、一体なぜこのような事態が起きているのだろうか?

The Daily Digest をフォローして関連記事をチェックしよう

 

ナゴルノ・カラバフ

ロシアとアルメニアは旧ソ連崩壊以降も数十年にわたって緊密な同盟関係を維持してきた。ところが、2023年9月にアゼルバイジャンが係争地のナゴルノ・カラバフをアルメニア人勢力から武力で奪還したことで、両国の関係には暗雲が垂れ込めることとなる。

 

根深い領土問題

米国のシンクタンク、外交問題評議会(CFR)によれば、アルメニアとアゼルバイジャンは旧ソ連時代からナゴルノ・カラバフの領有権を巡って争ってきたという。

 

 

ソ連時代にアゼルバイジャンへの帰属決定

そもそも、ナゴルノ・カラバフではアルメニア人が多く暮らしていたが、旧ソ連は1920年代に同地をアゼルバイジャン内の自治州とする決定を下した。しかし、それによって領有権の主張や民族対立がやむことはなく、火種がくすぶり続けることとなる。

写真:Wiki Commons - Aivazovsky

ソ連の崩壊で戦争勃発

ともあれ、ソ連時代にはモスクワの中央政府が睨みを利かせることで、一帯の紛争を抑え込むことができていた。ところが、1990年代にソ連が崩壊すると、ナゴルノ・カラバフはアルメニアとの合併を求めて独立を宣言、アルメニアとアゼルバイジャンの間で戦争が勃発する。

写真:Wiki Commons - Armdesant

第一次ナゴルノ・カラバフ戦争

この戦争ではおよそ3万人が犠牲となったほか多数の難民が発生し、ロシアの仲介で1994年にようやく停戦が成立した。その結果、ナゴルノ・カラバフはアルメニア人勢力が支配するアルツァフ共和国として事実上の独立を果たしたが、以降も領有権をめぐる衝突は繰り返されることとなる。

写真:Wiki Commons - Ilgar Jafarov, CC BY 3.0,

第二次ナゴルノ・カラバフ戦争

アゼルバイジャンとアルメニアは2020年9月にふたたび本格的な戦闘に陥った。このときは開戦から2ヵ月でアゼルバイジャンがナゴルノ・カラバフの周辺地域を奪還したが、これによりロシアとの同盟がアルメニアにとってどれほど重要であるかが浮き彫りとなった。

写真:Wiki Commons

CSTOの役割

アルメニアはロシアが主導する集団安全保障条約機構(CSTO)の加盟国であり、常にロシアの軍事的支援を受けることができる立場だった。つまり、ロシアの存在感を背景として、国際社会で自国の主張を発信していたのだ。

 

ウクライナ侵攻で状況が一変

ところが、2022年2月にプーチン政権がウクライナ侵攻に乗り出すと状況は一変する。ウクライナの戦場で想定外の苦戦を強いられたことで、ロシアの軍事力に疑問符が付くことになったのだ。無論、アゼルバイジャンはこれを好機と捉えた。

ロシアの影響力低下

南コーカサス地域を専門とする政治アナリストのオレシャ・ヴァルタニャン氏いわく:「アゼルバイジャンは、モスクワがもはやこの地域で主導的な役割を果たすことができないことをすぐに悟ったのです」そして、同国のアリエフ政権はナゴルノ・カラバフの完全な奪還を目指し、軍事行動に打って出た。

アゼルバイジャンがナゴルノ・カラバフを制圧

同氏はさらに「2022年には、アゼルバイジャン軍が数ヵ月にわたってナゴルノ・カラバフだけでなく国境地帯のアルメニア側にも侵入しています」と解説。

写真:Wiki Commons

軍事的優位に立つアゼルバイジャン

アゼルバイジャンはアルメニアよりも強大な軍事力を保有しており、ナゴルノ・カラバフのアルメニア人勢力を圧倒することとなった。

写真:Wiki Commons

アゼルバイジャンの行動を黙認したロシア

しかし、アルメニアにとって衝撃的だったのはロシアがアゼルバイジャンの軍事行動を黙認したことだ。この態度を見たアルメニア政府は、今後発生しうる衝突に備えて西側諸国との同盟を模索するようになってゆく。

「アルメニアの懸念は当然」

前出のヴァルタニャン氏は「アルメニアの懸念は当然」としている。というのも、アゼルバイジャンがさらなる軍事行動に出た場合、アルメニアはアゼルバイジャンが提示する条件をのんで降伏するしか道がないためだ。

写真:Wiki Commons - Aziz Karimov

ロシアとの同盟は「無益」

2023年9月24日、アルメニアのニコル・パシニャン首相は、アゼルバイジャンの軍事行動を防ぐことができなかったロシアとの同盟について「無益」だと言い放った。

写真:Wiki Commons - Kremlin.ru, CC BY 4.0

パシニャン首相の演説

『ニューズウィーク』誌によれば、パシニャン首相は演説の中で「アルメニアの安全と国益を守るという意味では、対外的な安全保障システムは無益です」と発言。

写真:Wiki Commons - Kremlin.ru, CC BY 4.0,

ブリュッセルでウクライナの外相と会談

このような情勢の中、アルメニアはこれまでロシアに遠慮して距離を保ってきた国々とも積極的に外交を持つようになる。2023年12月11日には、アルメニアのアララト・ミルゾヤン外相がウクライナのドミトロ・クレバ外相とブリュッセルで会談を行っている。

クレバ外相のコメント

ウクライナのクレバ外相は声明の中で「ウクライナ、アルメニア両国にとって有益な2国間対話を推し進めるため、アララト・ミルゾヤン外相と会談しました」と説明。

ウクライナの立場

ドミトロ・クレバ氏はさらに、「ウクライナは国連憲章および国際法遵守の観点から南コーカサス地域の平和を支持し、黒海からカスピ海に至る地域の貿易・文化プロジェクトに賛同します」と述べた。

 

強く反発するロシア

一方、『ニューズウィーク』誌によれば、ロシア外務省はアルメニアとウクライナによる関係強化の試みに強く反発。アルメニアによる近年の外交政策を失態だと断罪した。

アルメニアの「重大な過ち」

ロシア外務省いわく:「我が国は、アルメニアが指導部の重大な過ちのせいで西側諸国による地政学的ゲームの人質に成り下がり、数世紀にわたるロシアとの多面的な関係を損なっていると確信するものだ」

写真:Wiki Commons - 米外務省

プーチン政権の影響力低下

小国アルメニアが離反する気配を見せたからといって、直ちにロシアが大きな影響を受けることはないだろう。しかし、長年の同盟国がロシアを見限り、あまつさえウクライナとの関係強化を模索するという事態は、プーチン政権の国際的な影響力低下を如実に示すものだ。

 

ほかのおすすめ