一度は訪れたい、世界の巨大な木造建築
木材は建築資材として古くより使われてきた。鉄骨やコンクリートなどの建築資材が一般的になった現代でも、やはり木造建築がなくなることはない。
最近では、一般的な一戸建てや低層アパートだけではなく、美術館などの大型建築や高層建築物も木で作られるケースがある。
実際、多くの優れた建築家たちが好んで木造の建物を設計している。日本の隈研吾もそのひとりだ。今回は、世界各地の木造建築プロジェクトをみていこう。
2022年、米ウィスコンシン州ミルウォーキーに、高さ86.6メートルの25階建てマンション「アセントMKE」が誕生した。低層階には店舗が入り、上層階は住居となっている。木造建築物としては世界で最も高く、ノルウェーの木造高層ビル「ミョーストーネット(Mjøstårnet)」を凌いだ。
ミョーストーネットは2019年、オスロ近郊のブルムンダルに竣工した。高さは「アセントMKE」よりわずかに低く、85.4メートル。こちらは18階建てで、ホテルやアパート、オフィス、屋内プールが入っている。事業者は「AB Invest A/S」、ノルウェーの建築スタジオ「ヴォル・アーキテクター」が設計を手がけ、構造用集成材はモエルフェン・リムトレ社(Moelven LImtre)が製造した。
スイス、チューリヒ州のヴィンタートゥールにも木造高層建築が建てられた。4棟の建造物からなる複合施設で、最も背が高い棟は100メートルに達する。この複合施設は「Rocket@Tigerli」と呼ばれており、当地でかつて製造された機関車の名前に由来するという。設計はデンマークの「シュミット・ハマー・ラッセン・アーキテクツ」。この建築スタジオはウェーデンのコンサートホール「マルメ・ライブ」も設計しており、こちらも木造高層建築の一つである(写真)。
2014年に竣工したアスペン美術館(米コロラド州)の新施設は、日本人建築家の坂茂(ばん・しげる)が設計した。坂茂は建築家にとってのノーベル賞ともいわれる「プリツカー賞」を同年に受賞している。格子状に編まれた木製のスクリーンと、木製の屋根フレームが印象的で、内部の動線も一風変わっている。
この異様な建築は、スペインのセビージャにあるメトロポール・パラソル。きのこを思わせるパーゴラ(格子状の棚)は木とコンクリートでできている。全長150メートル、幅70メートル、高さ26メートルの屋根の下には昔ながらの市場や広場、考古学博物館などがあり、屋根に上ると街を一望できる。
フランス北東部のメス市に、ポンピドゥー・センターの分館がある。設計を手がけたのは坂茂。中国の竹網み帽子をイメージした木造の大屋根が特徴的で、その外側には白い膜がかぶさっている。
カナダのバンクーバーで「TEDトーク」を開催するにあたり、多数の来場者を収容する仮設シアターをダンスホールの内部に作ることになった。ニューヨークを拠点とする建築家、デイビッド・ロックウェルがその設計を担当した。再利用可能な組み立て式の木材を使い、わずか6日間という短い工期で仕上げた。
「アーク・エンカウンター(方舟との遭遇)」と呼ばれるこの建造物はケンタッキー州にあり、「ノアの方舟」の実寸大テーマパークとして2016年にオープンした。設計を担当したのは米国の「トロイヤー・グループ」。方舟の全長は155メートル、幅26メートル、高さ16メートル。
隈研吾は木造建築のエキスパートといえるだろう。たとえば、青山のケーキショップ「サニー・ヒルズ(微熱山丘)」のために設計した「サニーヒルズ南青山」。このファサードには、地獄組みと呼ばれる日本の伝統的な組み木技術が使われている。
新国立競技場も隈研吾のデザインだ。全体には鉄骨と国産木材が使われており、ぐるりに巡らされた軒庇には、47都道府県から集められた木材が使われている。
オーストリアのレンヴェーク・アム・カチュベルク市にあるエーデルワイス・レジデンスは、写真のように二つの塔からなる。設計を手がけたのは、建築スタジオ「マッテオ・トゥン&パートナーズ」。元からあったホテルを増築したもので、床の枠組みと壁、そして骨組みが木造である。
チリのティエラ・パタゴニア・ホテルは、トーレス・デル・パイネ国立公園の北側の入り口付近に建っている。大自然の真っ只中で、強風がたえず吹いている土地だ。チリの建築家カス・セガースが設計を手がけた。曲線を多用した低層建築で、丸ぼったい屋根がひときわ目を引く。全体はブナの板で覆われており、自然の景観に溶け込んでいる。