イラク北部に位置する古代アッシリアの首都で考古学的発見:アッシリアの神ラマッス像が発見される
数世紀前から存在が知られていたある彫像の、最後の一片が最近発掘された。この発見自体も興味深いが、ここに至るまでのその彫像のたどった歩みもまた驚くべきものだった。
『スミソニアン・マガジン』誌によると、その彫像とはアッシリアの神ラマッスを象ったもので、高さ数メートル、重さは18トン以上にもなるという。この彫像は、数世紀もの間イラクで砂に覆われて隠されていた。
イラク北部にあった古代アッシリアの首都ドゥル・シャルキンで発見されたこの巨大な彫像は、それが象る神格だけでなく、その来歴そのものも興味深いものとなっている。まずは造られた当時のことから振り返ってみよう。
AFP通信によると、この像が造られたのは2700年前で、アッシリアの首都ドゥル・シャルキン(現在のイラン北部、モースルの北15kmホルサバード村)の入口にあったのだという。
彫像は雄牛の胴体に鳥の翼、そして人間の顔が象られたもの。製作が指示されたのは、紀元前722年から705年にアッシリア帝国を支配したサルゴン2世の時代だという。
この像を発見した発掘調査を指揮した、ソルボンヌ大学のパスカル・ビュテルラン教授は「これほどのものを発見したのは人生で初めてです」と語っている。
画像:@ LinkedIn / pascal-butterlin
ビュテルラン教授はこう語っている:「これほどの規模のものはふつう、エジプトやカンボジアでしか見つかりません」さらに、細部まで細かく彫りこまれた造形は「信じがたいほど」だとも語っている。だが、なぜこれほどの作品が近年まで発掘されなかったのだろうか?
一見単純な疑問だが、その答えは意外と複雑だ。この彫像は実は19世紀の文献ですでに言及されているのだが、1990年代初頭に再発見されるまで忘れられ、失われていたのだ。
だが、オンライン紙「アート・ニュースペーパー」によると、再発見後の1995年に盗掘者が像の頭部を複数に切断、イラクから持ち出そうとしたのだという。頭部の近くに残されていたプレートから、全部で11個の破片に分割されたと考えられている。
同紙の取材に応えたイラク国立博物館のガイド、リオ・イブラヒム氏はこう語っている:「盗掘者は破片をトルコのブラックマーケットに流そうとしていましたが、その前に逮捕されました」また、同氏によると、盗掘の罪には死刑が課されることになるという。
ウェブマガジン「Hyperallergic」によると、回収された頭部はバグダッドのイラク国立博物館で展示されていたのだが、2003年にアメリカがイラクに侵攻した際に博物館が略奪にあったという。
画像:@ Wiki Commons / Osama Shukir Muhammed Amin FRCP(Glasg) - Own work
像の頭部自体は略奪を免れたものの、1995年に切り離されてしまった胴体とともに、さらなる脅威に直面することとなった。
戦後のイラク政府はラマッス像を発掘することができなかった。地域の安定性が下がっていくにつれ、像とその頭部はイスラム国に脅かされるようになっていったからだ。
『スミソニアン・マガジン』誌によると、当局が像を埋めたのは攻撃や略奪から守るためだったという。さらに、2014年には地元住民が像の埋まった場所を隠したまま逃亡し、この古代の至宝を破壊から守った。
その後、像はパスカル・ビュテルラン教授が率いるフランスとイラクの共同考古学研究チームが発掘するまで隠されていた。研究チームは、近いうちに頭部を像の胴体の元へと戻すことも計画しているという。
ビュテルラン教授は「Hyperallergic」にこう語っている:「今回の発掘においては紛争考古学や都市考古学など、さまざまな領域での活動が行われました。ラマッス像は考古学におけるふたつの領域の交差点に位置しており、さまざまな苦難を潜り抜けてきているのです」
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