トルクメニスタンの新型コロナ感染者数はゼロ…… 本当?
瞬く間に世界中に広がり、多くの人々を死に至らしめた新型コロナウイルス感染症。2022年初頭までは、南太平洋の島国をはじめとする8カ国が症例ゼロを維持していた。そして現在もまだ、とある国だけがコロナ感染を免れていると言うが……
2022年5月、北朝鮮が国内の新型コロナ感染者を初めて報告したとき、なおも症例ゼロを維持していた唯一の国、そして今も維持している国がトルクメニスタンである。だが、そんなことがあり得るだろうか?
トルクメニスタン当局の公式記録において、新型コロナウイルス感染者は国内に一人も存在しない。そのゆえんを理解するには、同国の政治の実情を理解する必要がある。この国は、世界でも有数の圧政を敷いているのだ。
トルクメニスタンは中央アジアに位置し、国境をカザフスタン、ウズベキスタン、アフガニスタン、イランと接している。国の西端はカスピ海に面している。
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その領土はかつて、イスラーム世界における最大都市の一つとして栄えていた。シルクロードの要衝でもあり、15世紀の半ばまで中国との交易が行われていた。
1924年、トルクメニスタンはソビエト連邦構成共和国の一つ、トルクメン・ソビエト社会主義共和国になった。独立はようやく1991年になってから、USSR(ソ連)の解体の後に達成された。
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2022年3月、第2代大統領グルバングル・ベルティムハメドフが職を退き、現在は彼の長男である第3代大統領セルダル・ベルディムハメドフが国を治めている。人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」と「国境なき記者団」によると、同国は世界で最も閉鎖的で、権威主義が猛威をふるう国の一つである。
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したがって、同国がWHOに提出しているデータは虚偽かもしれないと考えられている。
ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のマーティン・マッキー教授は、トルクメニスタン当局による健康に関する統計データは「信頼ならない」と述べている。
事実、トルクメニスタン政府は「コロナウイルス」という言葉を使用することを2020年から禁じ、その存在を否定している。
トルクメニスタン当局の発表によると、感染症が国内に入りこむのを防ぐための厳しい措置が立案されたという。
だが、人口約600万人の同国がコロナのパンデミックを回避できたとはどうしても考えにくい。たとえば隣国のイランでは、公式発表で700万人の感染者が出ているのだ。
当局によると、トルクメニスタンに入国するさい、新型コロナウイルスへの感染が疑われる場合は必ず検査を受けなければならないという。が、検査の結果が公式に発表されることはない。
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国外に住むジャーナリストらの記事によると、トルクメニスタンの医療に携わる人々は、「新型コロナウイルス感染症」や「コロナウイルス」という用語を避けるという。
そのかわり、「疾患」という語が使われる。診断結果は単に「肺炎」か、あるいは「心疾患」といった言葉で表される。
外交官ケマル・ウチュクは、トルクメニスタンの首都アシガバートで新型コロナウイルス感染症を発症した。彼の妻は故国トルコに夫を連れて帰ろうとした。帰国したらすぐ治療に入れるよう、トルコの医師に胸部X線写真も送りつけた。だが、トルクメニスタン当局がようやく彼の出国を承認したとき、外交官はその数時間前に亡くなっていた。
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CNNの記事は、国外の民間組織、ジャーナリストや活動家たちの声を伝えていた。彼らは口を揃えて、「新型コロナの感染者がトルクメニスタンで大発生している形跡がある」としていた。
「だが、大統領(第2代)はウイルスの脅威を低く見積もっている、それは国民に対する自身のイメージを維持しようとしてのことである」と、彼らは加えて指摘した。
CNNの同記事によると、「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のヨーロッパ・中央アジア部門副ディレクターのレイチェル・デンバー(Rachel Denber)は次のように述べた:「近隣諸国の現状を見るに、トルクメニスタンでも事態はさして変わらないでしょう」
トルクメニスタンが近隣諸国と大きく異なるポイントは、大統領の姿勢だった。ブラジル発のニュースサイト「G1」が伝えるように、「健康的なイメージは彼の個人崇拝の大事な要素である。ジムでウェイトを上げたり、自転車を漕いだりする彼の姿が国営放送のTV番組で毎日のように流されている」
BBCは警鐘を鳴らしていた:「元歯科医のグルバングル・ベルディムハメドフ第2代大統領は、健康な国家というイメージを政治プロパガンダの主要な武器として使っている。パンデミックの波がすでに国内を襲いつつあることを認めてしまうと、彼の政権の正当性はその土台から蝕まれかねない」
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新型コロナが中央アジアの一国にいまだに入り込んでいないとは、やはり考えにくい。自国民の健康に対するトルクメニスタン当局の態度はいささか消極的である、という見方も成り立つだろう。しかし、物事の良し悪しがはっきりするにはそれなりに時間がかかることも事実である。コロナ禍が完全に収束してみないと、本当のところは分からないのかもしれない。