世界で脳卒中死が急増:2050年には年間1,000万人近くが犠牲に?
『Lancet Neurology』誌に掲載された新たな報告書によれば、世界の脳卒中による死亡率は今後25年間で50%以上増加し、年間970万人もの人々が脳卒中によって死亡する可能性があるという。
脳卒中はすでに世界第2位の死因となっており、『Lancet Neurology』誌の報告書によれば、この傾向が続けば2050年には状況はさらに深刻化しているだろうという。いったい何が起こっているのか、脳卒中の現状をみてみよう。
脳卒中で死亡する確率は、高所得国よりも低・中所得国で急速に上昇しているほか、前述の報告によれば、若年層や中年層で発症率が高まっているという。
つまり、55歳未満の人々の間で脳卒中の罹患率が高くなっているというのだ。悪化をたどる脳卒中の発生率に対して何らかの措置がとられなければ、世界的に大きな問題となるだろう。
報告書の著者らは2017年のデータに基づき、世界全体の脳卒中に対する医療支出はおよそ3,150億ドル(約47兆円)と推定できるとしている。しかし、その数字がすべてを物語っているわけではない。
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前述の医療負担に加え、脳卒中により発生する推定5,760億ドル(約86兆円)の逸失利益を考えると、経済的負担総額は世界で8,910億ドル(約133兆円)という天文学的数字に達するという。しかもこれは2017年のデータに基づく計算であり、現在の状況はそれよりも悪化しているはずだという。
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報告書は、脳卒中による経済的負担は今後2兆3,100億ドル(約344兆円)に達する可能性があると指摘。報告書で提言されたさまざまな、かつシンプルな対策を参考に、脳卒中の予防に努める必要があるだろう。
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報告書を作成した研究者たちは、脳卒中を予防するためには啓発キャンペーンを実施することはもちろん、比較的低料金のスクリーニング検査、質の高い医療サービス、医療技術に関する選択肢の拡大、地域協力の促進といった具体的な取り組みも必要だとしている。
研究者たちは続けて、「限られたリソースを最大限に活用するためには費用対効果が高く、エビデンスに基づいた現実的な解決策を展開する必要があります。もちろん政策立案者や地域社会を含むすべての利害関係者が積極的に関与しなければなりません」としている。
また、現在のデータの先にある深刻な状態を未然に防ぐために、エビデンスに基づいた12の推奨事項をまとめ、それを脳卒中のサーベイランス(継続検査)、予防、急性期治療、リハビリという4つのグループに分類した。
本報告書にあるプレスリリースには主な推奨事項の要約が掲載されたほか、もっとも重要な対策は、脳卒中に関する人々の意識向上、そして低料金のサーベイランスを通じて予防を図ることだとされている。
さらに脳卒中の急性期医療へのさらなる取り組み、研修実施やリソース共有を目的とした地域・地方・全国レベルのネットワークを確立することも重要だという。ただし著者の一人は、残念ながらこうした推奨事項にはいくつかの課題が生じると予測している。
報告書の筆頭著者であり、世界脳卒中機構のランセット神経学委員会の共同委員長であるヴァレリー・フェイギン氏は、「脳卒中の予防と治療に関する推奨事項を実施する上でもっとも一般的な問題のひとつは、資金不足である」と説明。
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「ランセット神経学委員会は各国政府に対し、不健康な食品物(塩分、アルコール、砂糖入り飲料、トランス脂肪酸など)に対する法規制および課税制度の導入を推奨しています」とヴァレリー・フェイギン氏はいう。
フェイギン氏によれば、不健康な食品に課税することで脳卒中のリスクを低減できるだけではなく、税収をもとに予防プログラムや予防医療に資金を提供することで、ほかの非感染性疾患の負担軽減も期待できるという。
フェイギン氏は、「脳卒中は世界人口に深刻な影響を及ぼし、年間数百万人の死亡あるいは後遺症を抱える患者を発生させ、多額の経済負担をもたらすでしょう。それを抑えるためには"効果的な対策"をとらねばなりません」とした。