イギリス政府がある犬種を飼うことを禁止:人命を脅かす「アメリカンブリー」とは

飼育を禁止された犬種とは
最近の襲撃事件
「さらなる方策をとらなければならない」
襲撃発生件数の増加
殺処分は行われない
飼い主の責任
飼育のためのガイドライン
反対の立場も
「無節操なブリーダーと無責任な飼い主」
根拠のない法律?
危険犬種法
法律への批判
現在規制されている品種
アメリカンブリーは英国では定義されていない
比較的新しい品種
4つのカテゴリー
60キログラム以上
英国以外の法規制
ピット・ブルは区別のはっきりとした品種ではない
世界中で規制されている品種
法規制への反対意見
飼育を禁止された犬種とは

BBC放送によると、リシ・スナク英首相は9月15日、アメリカンブリー犬の中でも最大の「アメリカンブリーXL」を2023年末までに飼育禁止にするという政府の方針を発表した。その数日前、男性がアメリカンブリーXLと推定される2頭の犬に襲われ、命を落としたばかりだった。

最近の襲撃事件
複数の地元メディアが伝えたところによれば、その一週間前にも11才の少女と2人の男性がバーミンガムにて、やはりアメリカンブリーXLに襲われて怪我をしたという。
写真:Times Radio
「さらなる方策をとらなければならない」

同国の環境・食糧・農村地域担当大臣であるテレーズ・コフィーは声明を出し、犬の襲撃は「犠牲者やその家族に多大なるダメージを与えており、犬の襲撃を防止し人々を守るために、さらなる方策をとらなければならない」とした。

写真:Times Radio

襲撃発生件数の増加
BBCによると、飼い犬による襲撃事件の発生件数は近年目立って増加しているという。イングランドで飼い犬に噛まれて入院した人は、2007年には4,699人だったが、2022年には8,819人になった。
写真:Good Morning Britain
殺処分は行われない

英国の首席獣医官であるクリスティーン・ミドルミス博士がBBC「ラジオ4」の朝のニュースワイド番組『Today』にて語ったところによると、「飼育禁止令が施行されてもすでに飼われているアメリカンブリーを殺処分にするようなことはない」という。

写真:Times Radio

飼い主の責任

そのかわり、すでに当該の犬を飼っている飼い主は特定のガイドラインに従うことが求められる。

写真:Good Morning Britain

飼育のためのガイドライン

ミドルミス博士によれば、もしペットを飼い続けたいならば、当局に飼育届を出したり保険に加入したりする必要があるほか、外出時には口輪とリードの装着が義務付けられるという。

写真:Good Morning Britain

反対の立場も

この飼育禁止令を多くの人が歓迎しているが、獣医のグループや動物福祉団体をはじめとする一部の専門家たちははっきりと反対の姿勢をとっている。

「無節操なブリーダーと無責任な飼い主」

「バタシー・ドッグズ&キャッツ・ホーム」や「ドッグズ・トラスト」、英国獣医師会などからなる「愛犬管理連合」(Dog Control Coalition)は声明を出し、特定の犬種を飼育禁止にすることは飼い犬による襲撃事件の根本的対策とはいえず、問題の根幹は「無節操なブリーダーと無責任な飼い主」にあると主張している。

根拠のない法律?

さらに、この法律には根拠となるデータが欠けており、犬のかみつき事故や襲撃事件は30年以上前に「危険犬種法」が施行されたときに比べて微増したにすぎないと指摘する。

危険犬種法

危険犬種法(Dangerous Dogs Act)とは1991年に英国で施行された法律で、人々を守ることを目的として、特定の犬種について飼育・繁殖・販売・交換を禁止するものである。

法律への批判

ところで、放送局「ユーロニュース」によると、この法律は制定以降も現在に至るまできびしい批判にさらされてきた。その理由としては、飼い犬による襲撃事件の発生件数が期待されたほど減っていないという問題もあるが、そもそも個々の犬の行動パターンに着目するのではなく、犬種や見た目といったうわべの特徴にのみ重きを置くという方針が専門家の目からすると的外れだからである。

写真:Justin Veenema/Unsplash

現在規制されている品種

そのように論争の絶えない危険犬種法だが、アメリカンブリーXLはその法律が定める既存の危険犬種リストに追加されることになる。現在規制されているのは、アメリカン・ピット・ブル・テリア、土佐闘犬、ドゴ・アルヘンティーノ(写真)、ブラジリアン・ガードドッグだ。

アメリカンブリーは英国では定義されていない

しかし、「アメリカンブリー」という犬種はイギリスのケネルクラブ(犬種を定める団体)によっては認定されておらず、したがって英国ではこの品種のスタンダードがきちんと定義されていないことになる。そこで当局はまず、どんな犬が今回の規制対象に属するのかを決定しなければならない、とスナク英首相は説明している。

比較的新しい品種

ABCニュースによると、アメリカンブリーは比較的新しい犬種で、1980年代末にアメリカで生み出された。アメリカン・ピット・ブル・テリアとアメリカン・スタッフォードシャー・テリアをかけあわせた品種とされている。その後、2014年ごろに英国に持ち込まれた。

4つのカテゴリー

アメリカン・ブリー・ケネルクラブは「アメリカンブリー」をサイズごとに4つのカテゴリーに分類している。「スタンダード」「ポケット」「クラシック」「XL」である。

60キログラム以上

その中で一段と大きく成長するのがアメリカンブリーXLで、大きいものでは60キログラム以上の巨体になる。いかつい体躯に反するようだが、アメリカンケネルクラブはこの品種を「人懐っこい」と記述している。

写真:Good Morning Britain

英国以外の法規制

フランス、トルコ、アラブ首長国連邦ではすでにアメリカンブリーXLの法規制が行われている。「ユーロニュース」の報道によれば、公共の場では口輪の装着が義務付けられており、長さ2メートル以下のリードをつけるという厳しいルールが定められているという。

ピット・ブルは区別のはっきりとした品種ではない

複数のブリーディング組合によると、ピット・ブル系の品種(アメリカンブリーもここに含まれる)はそれ自体、区別のはっきりとした品種というよりも、ゆるやかなまとまりに近い。もっとも、一般の人々はピット・ブルをおしなべて攻撃的な犬であると即断しがちだという。

写真:Timothy Dachraoui/Unsplash

世界中で規制されている品種
そのような印象も手伝ってか、ピット・ブル系の犬には他の犬と比べてはるかに厳しいルールが適用されている場合が多く、飼育の上での制限・規定から全面的な禁止まで、さまざまな法規制が世界中で行われている。
写真:Lucas Ludwig/Unsplash
法規制への反対意見
ピット・ブルのいくつかの品種は、あごの強さが重宝されて、何世紀にもわたり狩猟犬や闘犬として飼われてきたという歴史がある。危険犬種法に反対する専門家は、ピット・ブル系の遺伝子を持つあらゆる犬を、個体差を無視して一緒くたに危険であると法律が決めてしまうのは不適切だと論じている。
写真:Anthony Duran/Unsplash

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