人間社会の崩壊はすでに始まっている?:破滅をポジティブに受け入れる思想が登場

目立ちはじめた社会システムのほころび
人間社会の崩壊はすでにはじまっている?
「すでに手遅れ」
大惨事は「可能性大」、人類絶滅も「あり得る」
危機はすでにはじまっていた?
目に見える変化はないが……
人間開発指数(HDI)の低下
地球温暖化の進行
不毛化する大地
生物多様性の減退
緊張が悪化している
継続的な経済成長は不可能
再生可能エネルギーは?
議会に行動を呼びかけるも……
主流派の手法に幻滅
「本質的な適応」が必要
バリ島で農場を開拓
ライフスタイルの断捨離
いにしえの知恵
ポジティブな側面
「ポスト・ドゥーム」の精神
地下壕ではなく花壇を
批判の声
国際エネルギー機関の見解
目立ちはじめた社会システムのほころび

ここ最近、世界各地で社会システムのほころびが目立ち始め、危機への備えが必要だという声も挙がりはじめた。それどころか、人間社会の崩壊プロセスはすでに始まっているという主張まであるのだ。

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人間社会の崩壊はすでにはじまっている?

むろん、人間社会の崩壊に関して、国際機関等による明確な宣言がなされたことはない。しかし、英国のある高名な教授は、人類はすでに危機の真っただ中にいるとして、警鐘を鳴らしている。

「すでに手遅れ」

「気候変動が進む中、この期に及んで人間社会の将来的な崩壊を防ぐのは、もはや不可能です」こう述べるのは、カンブリア大学ビジネス学部のジェム・ベンデル名誉教授(持続可能社会のリーダーシップ専門)だ。

 

大惨事は「可能性大」、人類絶滅も「あり得る」

2017年に発表された論文の中で、ベンデル名誉教授は10年以内に人間社会が崩壊し始める可能性に言及。栄養失調や飢餓、病気、戦争が世界各地に広がるかもしれないとした。大惨事は「可能性大」、人類絶滅も「あり得る」とのこと。

危機はすでにはじまっていた?

しかし、ベンデル名誉教授は2023年にブログ投稿の中で、以前の主張が間違っていたことを認めた。人類社会の崩壊は当時からすでにはじまっていたというのだ。同教授は著書『Breaking Together: a freedom-loving response to collapse』の中でこれについて詳しく解説している。

画像:jembendell/Instagram

目に見える変化はないが……

ベンデル名誉教授によれば、人間社会の崩壊というのは目に見える変化はないが海面下では溶けつつある氷山のようなものだという。社会の衰退は段階的に進行するプロセスであり、すでに世界各地で「通常の生活」に影響を与えつつあるのだ。

人間開発指数(HDI)の低下

寿命や健康、文化的な暮らしといった包括的な生活水準の目安となる人間開発指数(HDI)。先進国では1990年以来上昇を続けてきたが、2019年から低下するようになり、世界全体でも下落の傾向にある。

画像:Human Development Reports UNDP

地球温暖化の進行

ベンデル名誉教授が懸念するのは地球温暖化の進行だ。実際、最新のデータからも事態の深刻さをうかがうことができる。研究者らによれば、2023年は観測史上最も暑い年であり、11月17日には平均気温が産業革命前の水準を2度以上高くなったとのこと。

 

不毛化する大地

ベンデル名誉教授は、諸問題は互いに関連性があるとしつつも、大地の不毛化に言及。森林破壊や大規模農業によって土壌の肥沃度が低下し、地球の水循環が乱されることで取り返しのつかないダメージが残るというのだ。ちなみに、地球温暖化や土壌の不毛化は、すでに作物の収穫量に影響を与えはじめている。

生物多様性の減退

ベンデル名誉教授はまた、生物多様性の減退によって生態系が破壊され、農業や食料安全保障に悪影響を及ぼすと指摘。さらに、気候変動のインパクトが増すことで社会・経済の不安定化につながり、社会崩壊をもたらす引き金の1つになるとしている。

緊張が悪化している

同名誉教授いわく、気候変動や資源不足、社会の不安定化は相互に絡み合っており、対立や紛争がひとたび激化すれば、大規模な戦争に至る可能性もあるとのこと。国連の統計によれば、戦争による死者数は1946年以来減少傾向にあったが、現在では再び増加している。

継続的な経済成長は不可能

ベンデル名誉教授の見解では、現代社会が継続的な経済成長を前提として成り立っていることこそ根本的な問題だ:「ある年の経済成長2%というのは、前年のそれに比べて大きなものです。スタート地点が以前より大きいのですから」

 

再生可能エネルギーは?

では、グリーンエネルギーの可能性についてはどうだろう? ベンデル名誉教授はそのポテンシャルを認めつつも、グリーンエネルギーの生産に化石燃料が必要な現状を指摘。また、安易にテクノロジーに依存すれば、大量消費文化や成長志向の経済モデルといった根本的な問題から目を背けることになりかねないとした。

議会に行動を呼びかけるも……

ベンデル名誉教授はかつて人間社会の崩壊を避けるため、議会に対し行動を呼びかけたが、現在ではもう期待していないという。

 

主流派の手法に幻滅

ベンデル名誉教授いわく、政府をはじめとする公的機関は現状維持にしか関心がなく、世界的な危機に目を向ける気はないようだ。同教授が、持続可能性を掲げて活動する主流派の手法に幻滅を感じたのはこのためだという。

「本質的な適応」が必要

このような状況の中、人間社会の崩壊を防ぐのは現実的でないため、ベンデル名誉教授は「本質的な適応」を主張している。これは、非暴力・思いやり・つながりの認識に基づくものだ。

 

バリ島で農場を開拓

そこで、食糧生産や水の確保、エネルギー供給を可能にするシステムの構築が必要となる。ベンデル名誉教授がバリ島で環境再生型農場や農業学校に取り組もうとしているのは、そのためだ。この農場は環境に優しいだけでなく、短期的な気候変動やサプライチェーンの混乱にも耐えられるように設計されているという。

ライフスタイルの断捨離

さらに、ライフスタイルや生活習慣の断捨離を実行。有給労働を週1.5日まで削減し、残りの時間は社会崩壊への適応術を説くために使っているらしい。

いにしえの知恵

そして、現代社会では失われてしまったいにしえの知恵や習慣をよみがえらせることも大切だ。ベンダル名誉教授によれば、バリ島で行われている農業のありかたは、農薬や機械が発明される前の手法に基づいているという。

画像:jembendell/Instagram

ポジティブな側面

ベンデル名誉教授は自著の中で、人間社会の崩壊を受け入れることのポジティブな側面について語っている。つまり、誤った希望を棄てることで生きる上で本当に大切なことを優先したり、コミュニティの構築を通して自分の役割を再評価したりできるというのだ。

「ポスト・ドゥーム」の精神

ベンデル名誉教授の思想は「ポスト・ドゥーム」に属するものであり、従来の終末論とは一線を画しているとされる。というのも、恐怖や絶望を克服し、新たな目標を積極的に追い求めるという立場をとるためだ。

 

地下壕ではなく花壇を

ベンデル名誉教授いわく、この思想は新たな生活スタイルを開放するものであり、コントロールや委縮ではないとされる:「私たちは地下壕ではなく花壇を作っています」

批判の声

しかし、この思想については批判の声も挙がっている。たとえば、気候心理学者のジェシカ・クレチカは「(この思想は)気候変動の最前線にあって諦めるわけにはゆかない人々を無視しています。死や破滅、社会の崩壊を受け入れるよう自分に言い聞かせることは『適応』とは言えません。これでは現状からもっとも恩恵を受け、変化を望まない人々を後押しすることになってしまいます」と述べ、ポスト・ドゥームの思想を痛烈に批判した。

 

 

国際エネルギー機関の見解

国際エネルギー機関(IEA)は2023年に行った報告の中で、地球温暖化を1.5度に抑えるという目標は達成が難しくなったものの、クリーンエネルギーの開発が進めば不可能ではないという見解を示した。この見通しは理論的な裏付けもなされたものだが、ベンデル名誉教授の立場からすれば楽観的すぎるといことになろう。はたして、人類はさし迫る危機を回避することができるのだろうか?

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