「今後数年間でロシア経済は大荒れ」 :労働人口の低下が追い打ちをかける経済の行方

打撃を受けるロシア経済
労働力や生産力を戦争につぎ込むロシア
数十年前から続く課題とは?
ロシア経済は「大荒れ」に?
具体的な現状と将来の展望
480万人規模の労働力不足
人口危機の主な原因
ウクライナ侵攻の影響
戦場に駆り出される男性たち
帰還兵が直面する問題
ロシアからの人口流出
65万人が国外に移住
沈黙するクレムリン
ロシアへの移民も減少
ロシア経済は好調?
失業率の低さを誇るプーチン大統領
確かに失業率は低いが……
軍事産業が成長しても経済は発展しない
投資しても「結局、破壊されてしまう」
「バブル経済に過ぎない」
ロシアにおける労働市場は2030まで低迷
打撃を受けるロシア経済

ロシアのウクライナ侵攻に始まる戦争はいまだ終息の兆しを見せていない。戦いの長期化にともない、ロシアでは通貨価値の激しい下落やインフレ率の上昇が起こり、国防費は増大を続けるなど経済は深刻な打撃を受けている。

労働力や生産力を戦争につぎ込むロシア

ロシア経済低迷の原因としてまず挙げられるのは、ロシアが国内の労働力や国営企業の生産力を戦争につぎ込んでしまっていることだろう。しかし、根本的な原因は他にもある。

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数十年前から続く課題とは?

ロシアの独立系メディア「メドゥーザ」によれば、ロシアは第二次世界大戦が残したいびつな人口構成に加え、20世紀末から今世紀初頭にかけて出生率が大幅に低下したため、数十年前から労働人口の低下に悩まされてきたという。

 

 

 

 

ロシア経済は「大荒れ」に?

「メドゥーザ」の取材を受けた社会学者のサラヴァト・アビルカリコフ博士いわく:「こういった要因に加え、各国が科した制裁措置や国際社会における孤立も相まって、(ロシア経済は)今後、数年間にわたって『大荒れ』になる恐れがある」

 

具体的な現状と将来の展望

では、ロシア経済は現在、具体的にどのような状況にあり、将来的にどう変質してゆくのだろう? また、そのことはロシア社会にどのような影響をもたらすのだろう?

 

480万人規模の労働力不足

まず、専門家たちが指摘するのは、人口減少がロシアの労働市場に直接的な打撃を与える可能性だ。ロシア科学アカデミー世界経済研究所によれば、同国は2023年末の時点で480万人規模の労働力不足に陥っているのだ。

 

人口危機の主な原因

「メドゥーザ」の指摘によれば、ロシアにおける人口危機には複数の要因がある。ひとつ目は1987年から1999 年にかけて発生した出生率の低下だ。さらに、すでに退職した、あるいは退職を目前に控える労働者の数も「2030年中ごろまでには1,300万人に達する」と見られている。

ウクライナ侵攻の影響

そして、ロシアがその国家機能や社会・経済活動をあらゆる面で戦争につぎ込んでいるというのは紛れもない事実だ。しかし、ロシア政府はウクライナ侵攻によって同国が危機的な社会状況にあることを、なんとか誤魔化そうとしている。

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戦場に駆り出される男性たち

ロシア国防省によれば、2023年には50万人のロシア兵がウクライナの前線に派遣されたという。さらに、死傷者の数も増え続けており、将来的に労働力不足を引き起すのは間違いないだろう。

 

帰還兵が直面する問題

さらに、前出のアビルカリコフ博士によれば、仮にウクライナ侵攻が終戦を迎え、前線の兵士たちが帰還したとしても、労働力不足が完全に解消するとは限らないようだ。というのも、帰還兵たちは飲酒や暴力、犯罪といった社会問題を抱えやすいためだ。

 

 

ロシアからの人口流出

しかし、ウクライナ侵攻がロシアの労働市場に与えた影響は徴兵による男性人口の減少に留まらない。この戦争を良しとせず、ロシアを離れた人々も少なくないのだ。

 

65万人が国外に移住

ロシアの独立系オンライン紙『The Bell』によれば、ウクライナ侵攻を受けて国外に移住し、いまだに帰国していないロシア人は2024年7月の時点でおよそ65万人に上るという。

沈黙するクレムリン

また、人口統計学者のアレクセイ・ラクシャ氏も40~50万人が国外流失したと見ており、『The Bell』紙の報道とほぼ一致する。また、ラクシャ氏はロシア当局が公表する国外移住者の統計について、「わざわざ不透明かつアクセスしにくいようになっており、(公表の機会も)ますます少なくなっている」と指摘。「メドゥーザ」が報じた。

 

ロシアへの移民も減少

一方、仕事を求めてロシアにやってくる移民の数も減少している。ロシア連邦国家統計庁(Rosstat)によれば、昨年ロシアに入国した移民は56万400人で、前年に比べて23%減少。2013年以来、最低の数字となった。

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ロシア経済は好調?

しかし、プーチン政権はこのような懸念すべき状況には目をつぶり、表面的な数字だけを取り上げてロシア経済は好調であるとアピールしている。

 

失業率の低さを誇るプーチン大統領

たとえば、ロシアのVTB銀行が最近、主催したフォーラムの場では、プーチン大統領が「ロシアの失業率は2.4%に留まっている」と誇らしげに語った。

確かに失業率は低いが……

確かに、ロシアの失業率は今のところ低いレベルに留まっている。しかし、これは肥大化した軍事産業が労働力の受け皿になっているからに他ならない。実際、「メドゥーザ」はデニス・マントゥロフ第一副首相の発言に言及し、2023年から2024年上半期にかけてロシアの防衛関連企業で働き始めた労働者はおよそ60万人にのぼり、トータルでは380万人分の雇用が創出されていると伝えた。

軍事産業が成長しても経済は発展しない

しかし、モスクワ大学経済学部の学部長を務めるアレクサンドル・アウザン氏いわく、軍事産業の成長は消費財の生産に寄与しないため、本質的な経済発展にはつながらないとのこと。

投資しても「結局、破壊されてしまう」

アウザン氏はさらに、「防衛産業は一体、何をもたらすでしょうか? たとえば、戦車を近代化できます。けれども、戦車を購入する一般人などいません。戦車はどこかに派遣され、結局、破壊されてしまうわけです」と指摘した。

 

「バブル経済に過ぎない」

そのため、プーチン大統領が主張する「好景気」は実体をともわないものである可能性が高い。実際、モスクワ大学で経済学の教鞭を執るナターリャ・ズバレヴィッチ教授は「生産性の向上をともわない賃金上昇と、製造業や防衛・軍事産業に対する国家資本の注入で支えられた経済を長期にわたって維持することはできません。バブル経済に過ぎないわけです」と述べている。

ロシアにおける労働市場は2030まで低迷

ロシア経済のバブルがどのような形で崩壊するのか予測するのは難しい。しかし、ズバレヴィッチ教授の見立てによれば、「ロシアにおける労働市場の低迷は2030年半ばまで続くでしょう」とのこと。

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