ウクライナ軍の元総司令官、さらなる新技術の開発を呼びかける
今年8月、英国王立防衛安全保障研究所で開催された地上戦カンファレンスにおいて、西側諸国に対し、新技術の開発を進めて世界大戦の回避に努めるよう警告を発した。
背筋が凍るようなこの警告を行ったのは、2021年7月からウクライナ軍で総司令官を務めていたヴァレリー・ザルジニー。今年5月からはクライナの駐英大使を務めている。
ザルジニー駐英大使は次のように語り、スピーチを始めた:「平和を希求する方々にとって、我々の経験は貴重なものとなることでしょう。平和への道は戦争を経由することもあるのです」
ザルジニー大使は2022年2月以来のロシアによる全面侵攻から得られた教訓を共有したいと述べ、西側諸国が世界大戦を避けたいならば相応の準備が必要だということを強調した。
大使の発言はテレグラムチャンネルで文字起こしされている。それによると、大使は古代ローマの伝記作家コルネリウス・ネポスの言葉「Si vis pacem, para bellum(平和を望むなら、戦に備えよ)」を引用したとされている。
大使は「自由と民主主義を標榜する国々は目を覚まし、自国民および自国の防衛について考える必要がある」と述べてから、2022年2月以降に得られた教訓について話し始めた。
大使は第一の教訓として、戦争はなんとしても避けねばならないと語る。だが、もし戦争が起こってしまったのなら、用意しておくに如くはないとも述べている。ただし、大使によると戦争への備えというのはただ大量の武器を積み上げておくことではないという。
大使は、未来への備えとは将来の紛争における避けがたい犠牲について社会に覚悟させておくことだと語る:「生存のために一部の自由を犠牲にすることを社会が認めておく必要があります。現代の戦争は残念ながら総力戦なのです」
「総力戦においては軍隊だけでなく、社会全体の協力が求められます。政治家は社会を動員できますし、せねばなりません」また、大使は経済や金融資源、人的資源などをすぐに動員できるよう体制を整えておく必要があるとも述べている。
大使は次に第2の教訓について語った:「戦争はいかなる意味においても国内政治の延長とは見なされない」とはいえ、この教訓は大使が次に述べたことに比べると重要性は低い。
大使によると、現代の戦争は技術的発展によって大きく様変わりしており、少数の陣営が多数相手に勝利を収めることも可能になっているのだという。これはウクライナの戦場で実証されていることであり、だからこそ西側諸国には備えが必要なのだとされる。
「ウクライナでの戦争はいまだ未来の戦争とは言えません。伝統的な戦争の枠内に留まっています。それでも、この戦争が新たな戦争のルールを定めることになります。我々ウクライナ人が自らの血と、勝利への渇きを原動力にして新たな戦争における定石を形成しているのです。これがやがて未来の戦争となるでしょう」
「軍事作戦における新たな形式や方法ができあがりつつあります。科学的、技術的進歩が歴史の歯車を動かし、戦場に新たなテクノロジーをもたらしたのです」
歴戦の元総司令官として、大使は現代戦においては最先端のテクノロジーが決定的役割を果たしてきたし、将来のグローバルな安全保障を担保する存在にもなるだろうと語っている。だが、大使はそのテクノロジーを支配するのが誰になるのかという点に懸念を示し、将来の世界情勢を左右するのはその技術をものにした側だろうとほのめかした。
「こういった技術を素早くものにするのが民主主義陣営か権威主義陣営か、それはいま我々の手にかかっています。いずれにせよ、その技術を身につけた側が世界の安全保障問題を解決することになるでしょう」
「将来の状況を見通すのは簡単なことではありません。ただ、ひとつだけ確かなことがあります。独裁者は常に、国内問題に対処し権力を維持するための道具として対外戦争を必要としています。他の国々はそれに対してしっかりとした防御を築かなくてはなりません」
大使のコメントを報じた『テレグラフ』紙は、ロシアによる全面侵攻においてはドローンの利用が拡大したことで戦争のあり方が大きく変わったと指摘、「戦場の霧は晴れ、従来のように戦力を集中させることは難しくなった」と述べている。
だが、ザルジニー大使が念頭に置いているのはドローン技術だけではなさそうだ。大使のスピーチでは、西側諸国は迫りくる紛争の時代に備えて社会を整えておくために新技術を用いるべきだとされているのだから。