北極海に850億円をかけて港を建設する米国:温暖化で高まる北極海の重要性

アラスカに大規模港湾施設を建造
約850億円の投資
クルーズ船から軍艦まで
中露に対抗
重要性を増す北極海
誰のものでもない土地
アメリカが北極戦略を公表
戦争が影響
後手に回るアメリカ
ついに関心が向く
ロシアの「ノアの方舟」
中国も参入
One-fifth of Russia's revenue
地理的な理由
利用には困難も
制裁対策だけではない
どんな利点が?
時間が短縮
低コスト
豊富な天然資源
貿易量は増える見込み
温暖化の影響
急速に気温が上昇
氷が溶ける
バレンツ海に進出
全世界に影響が
短期的には便利かもしれないが
アラスカに大規模港湾施設を建造

アラスカ州のノームは人口3,500人ほどの小さな町だ。だが、この町がアメリカ初の北極海沿岸の大規模港湾施設として、国際政治の争点となるかもしれない。

約850億円の投資

港湾施設の造成工事にはおよそ6億ドル(約850億円)かかる予定で、10年後には稼働している見込みだ。

クルーズ船から軍艦まで

この港では、定員4,000人ほどのクルーズ船程度まで受け入れられる規模になる。また、アラスカの小さな町に物資を運ぶための貨物船や、軍事艦艇も受け入れ予定だ。

中露に対抗

アラスカに港を作るのは、北極海での存在感を強めているロシアや中国に対抗するという目論見からだ。

重要性を増す北極海

北極海は軍事的にも重要な地域であるほか、これからより大規模な商業ルートとしても有望だと考えられている。

誰のものでもない土地

1,400万平方kmほどの面積がある北極海の大部分はどの国にも所属していない。ただし、ロシア、カナダ、ノルウェー、デンマーク、アメリカはその一部を領有している。

写真:Ivana Medic / Unsplash

アメリカが北極戦略を公表

2022年10月、アメリカのバイデン政権が北極戦略を公表。今後10年間の北極をめぐる戦略をアピールした。

戦争が影響

『ポリティコ』の分析では、ウクライナで戦争が起きたことで北極海の重要性が増したのだという。だが、北極海をめぐる戦略行動についてはアメリカの経験も不足しており、効果は限定的で不十分なものになる恐れがある。

後手に回るアメリカ

この問題は決して新しいものではない。米海軍のデビッド・W・ティトリー少将は2019年、当局としてもこの問題への対処が後手に回っていることは認識しているとCNNに語っている。

写真:Annie Spratt / Unsplash

ついに関心が向く

少将はCNNの電話インタビューでこう語っている:「政府としてもようやくこの地域に関心が向くようになりました。ここ数年、ずっと無視されてきたのですが。ライバル国たちは真剣にプランを立てて臨んでいるのにです」

ロシアの「ノアの方舟」

少将の言う通りで、たとえばロシアでは、プーチン大統領に近しいオリガルヒで石油会社CEOのイゴール・セーチンが2022年6月にサンクトペテルブルクでの経済フォーラムで北極海を「ノアの方舟」と呼び、ロシア経済の救世主になり得るという認識を示している。

中国も参入

中国もロシアの北極海ルートでの交易構想に強い関心を示している。自国の貿易戦略にとっても不可欠な地域だと考え、「氷上シルクロード」構想が練られているのだ。

One-fifth of Russia's revenue

現在、北極海地域の覇権を握っているのはロシアだ。ロシアの北極海沿岸地域の開発ポータルである「arctic-russia.ru」によると「ロシア連邦全体の予算の5分の1」を担っているという。

写真:Sergey Pesterev / Unsplash

地理的な理由

ロシアはかねてから、おもに地理的な理由から北極海に強い関心を示してきた。なんといっても、シベリアから北極海を望む沿岸地域はロシアにとっては最も長大な海岸線なのだ。

利用には困難も

とはいえ、特有の困難があることも事実だ。北極海が航行可能なのは一年のうち6月から11月の数ヶ月に過ぎず、冬から春にかけては氷で閉ざされてしまう。

写真:Sergey Pesterev / Unsplash

制裁対策だけではない

石油会社CEOのセーチンは、北極海にいまロシアが直面する経済制裁を克服する道を見出している。それだけでなく、国際貿易における重要性も理解しているようだ。

どんな利点が?

北極海の利点は数え上げればきりがない。天然資源が豊富で、ほとんどの地域がいまだ未開拓だし、短距離・短時間の商業ルートとしての余地もある。

写真:Annie Spratt / Unsplash

時間が短縮

最近の推計によると、北海ルートと呼ばれる北極海経由の経路を通れば、現在使われているものよりも4割ほど所要時間が短縮できるという。

低コスト

所要時間が少ないということはコストも減るということだ。たとえばスエズ運河を通るルートと比べれば、燃料や費用が大きく節約できる。

豊富な天然資源

また、北極海ルートが開発されれば、この地域に眠る天然ガスや石油をアジアや西欧に届けやすくなり、利用可能性が増すことにもなる。

貿易量は増える見込み

「arctic-russia.ru」のデータによると、北極海ルートの貨物運搬量は2019年には3,150万トンだったという。だが、この数字が2035年には1億6,000万トンまで上昇すると見られている。

温暖化の影響

北極海は地球温暖化の影響を如実に受ける地域でもある。地球上の他の地域と比べても速い速度で気温が上昇しており、氷で閉ざされる期間は毎年短くなっている。

急速に気温が上昇

特に気温上昇が激しいのがノルウェーやロシア北部のバレンツ海だ。フィンランド気象研究所の研究によると、地球全体の平均の7倍の速度で上昇しているという。

写真:Marc Marchal / Unsplash

氷が溶ける

これはつまり、北極海の氷が猛烈な速度で溶けているということを意味する。地球環境に恐ろしい影響を及ぼすことになるだろうが、北極海ルートが通年航行可能になる可能性も出てきているのだ。

写真:Adam Excell / Unsplash

バレンツ海に進出

そのため、ロシアはバレンツ海を掌握してこの新しいルートでの交易の実権を握ることを目論んでいるのだ。しかも、その計画は具体的な行動に移りつつある。

写真:Vadim Artyukhin / Unsplash

全世界に影響が

ロシアは軽く見るべき相手ではない。ノルウェー海軍・沿岸警備隊のルーン・アンダーソン少将は『ポリティコ』にこう語っている:「北極で起こることは、世界中に影響を及ぼします」

短期的には便利かもしれないが

このような政治経済的問題ばかりがフォーカスされることに、環境保護活動家は警鐘を鳴らしている。貿易ルートの問題にばかり注目することは、北極海の氷が溶けることやその影響という、より規模の大きい、人類にとってはるかに重大な脅威となり得る問題から目をそらすことにつながるからだ。

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