南極の氷河を赤く染める「血の滝」:究明された原因とは
南極のテイラー氷河にあるマクマードドライバレーと呼ばれる地域では、不気味な光景が広がっている。滝が血のように赤く染まっているのだ。
「血の滝」が発見されたのは今から1世紀以上前のこと。いに科学者たちは赤い色の謎を解明した。
写真提供:the National Science Foundation/Peter Rejcek
ジョンズ・ホプキンズ大学誌に掲載された「血の滝」に関する記事によると、この滝は1911年、イギリスの南極遠征部隊に同行したオーストラリアの地質学者トーマス・グリフィス・テイラーによって発見された。
当然ながら、テイラー氷河からボニー湖に流れ出る血のような赤い水は、実際には血でないことはすぐに突き止められた。しかし、水が赤く染まる原因を解明することができなかったのだ。
写真提供:Michael Studinger, NASA
米『ナショナルジオグラフィック』誌によると、トーマス・グリフィス・テイラーは当初、水の色は水中で成長する紅藻によるものだという仮説を立てた。しかし、科学者たちによる検証の結果、テイラーの仮説は誤っていることが証明され、「血の滝」については謎が残った。
2017年、アメリカの科学者グループによる研究結果が『氷河学ジャーナル』に発表された。同グループは、レーダーを使用して川から流出する氷の層をスキャンし、「血の滝」について多くの謎を解明したのだ。
科学者たちは、テイラー氷河の下に河川が複雑に張り巡らされ、さらには湖があることを発見した。テイラー氷河が200万年前に形成されたとき、氷河の下に塩水湖が閉じ込められたというのだ。
オーストラリアのウェブサイト『サイエンス・アラート』の説明によれば、科学者たちも驚いたことに、氷河の下に隠れた河川が「鉄分を多く含む塩水で満たされていたため、滝が赤みを帯びていた」のだという。
塩水の組成により凍結が防がれ、氷河の下でも水が自由に流れるようになったとのことだ。この研究グループは、「塩分濃度の上昇と氷の融解熱により、氷河の下にある塩水は液体のままになる」としている。
写真提供:Jill Mikucki/University of Tennessee Knoxville
2017年の研究著者の1人であるアラスカ大学フェアバンクス校の氷河学者エリン・ペティット氏は、プレスリリースの中で、「感覚的には理解できないかもしれませんが、水は凍るときに熱を放出し、その熱が周囲の冷たい氷を温めるのです」と解説を加えた。
ペティット氏はさらに、「塩分を含んだ水の熱と氷点下の気候によって、液体が流れるようになっています。テイラー氷河は現在知られている中で、水が流れ続ける最も冷たい氷河だといえるでしょう」と続けた。
写真提供:U.S. Department of State from United States - Blood Falls in the McMurdo Dry Valleys in Antarctica, Public Domain
氷河の下の湖と河川が発見されて以来、科学者たちは「血の滝」を流れる水とその水に含まれる固形物の研究に熱心に取り組んできた。また、氷河の下で微生物と生態系がどのように機能するかについても研究している。
写真提供:Zina Deretsky / US National Science foundation (NSF)
科学者たちは、こうした過酷な条件下で生物が生存可能か調査していた。結論として、氷河の下に何百万年も閉じ込められたまま生存可能な生物は存在しないようだ。
写真提供:US Embassy New Zealand, Public Domain
米『サイエンス』誌に掲載された論文の筆頭著者でもあるジル・ミクッキ氏は、自身のチームが「血の滝」の水から発見した成果や血の滝の研究の面白さについてアメリカ国立科学財団に語っている。「『血の滝』には調査すべき問題が残っています。それは、氷河の下で生態系はどのように機能しているのかということです」
写真提供:Gero Francke/FH Aachen, Wikimedia Commons
ミクッキ氏は続けて、「『血の滝』については、数百メートルに及ぶ氷の下、何百万年にもわたって暗く寒い環境に閉ざされながら、生命が長期間生存し続けられるのかという関心もあります」と続けた。
写真提供:Mike Martoccia, Wikimedia Commons
ジョン・ホプキンズ大学誌によると、科学者たちは「血の滝」の水が宇宙探査に役立つ可能性も見据え、研究に打ち込んでいるという。
写真提供:Jill Mikucki/University of Tennessee Knoxville
ジョン・ホプキンズ大学の科学者たちは、「『血の滝』のような極めて特殊な環境とそこに住む微生物について理解することで、似たような厳しい環境下に置かれた地球外生命体の探索や理解にも役立つかもしれない」と考えている。