ニュージーランドの「今年の鳥」を巡る奇妙なエピソード

生きものの楽園、ニュージーランド
鳥類の宝庫
ニュージーランドの「今年の鳥」とは?
2020年は波乱の展開に
カカポ出場禁止
カカポってどんな鳥?
手厚い保護
候補者選びで、また騒動
絶滅種も候補に!
ホオダレムクドリとは?
畜産や農業の悪影響
すでに50種あまりが絶滅
2021年はどうだった?
「今年の鳥」はコウモリ?
在来種の哺乳類はコウモリだけ
人々の意識向上を
繰り返される「不正疑惑」
2022年の「今年の鳥」は?
「ピワウワウ」ってどんな鳥?
ライバルはペンギン
自然を愛する人々の熱意
生きものの楽園、ニュージーランド

太平洋に浮かぶ自然豊かな島国、ニュージーランド。独特の生態系を育むこの島には、他の地域では見ることのできない珍しい動植物が数多く暮らしている。

鳥類の宝庫

なかでもユニークなのが鳥たちだ。島の周囲を取り囲む海が天敵の肉食獣などの侵入を長いこと阻んでいたため、ニュージーランドの鳥類は独自の進化を遂げるようになったのだ。

ニュージーランドの「今年の鳥」とは?

そんなニュージーランドならではの毎年恒例イベントが「今年の鳥」だ。これは同国のNGO「Forest & Bird」が主催するもので、人々の投票によって今年一年を代表する鳥を選ぶという趣旨だ。

写真:ニュージーランドの固有種「コカコ(Callaeas cinereus)」

2020年は波乱の展開に

ところが、2022年度の「今年の鳥」投票は波乱の展開となった。こんな平和なイベントのどこにもめごとの余地があるのかとお考えかもしれないが、愛鳥家の多いニュージーランドのこと、一年の顔となる鳥を選ぶともなれば一筋縄ではいかないようだ。

画像:Edmond Dantès / Pexels

カカポ出場禁止

まず、2022年の「今年の鳥」投票でニュースになったのが、ニュージーランド固有種の鳥「カカポ」の出場禁止だった。『ガーディアン』紙の報道によれば、その理由は2008年と2020年の2度にわたって「今年の鳥」に選ばれており、人気がありすぎるからだという。

写真:カカポを肩に乗せるヘレン・クラーク元首相(2002年)

カカポってどんな鳥?

人気の理由は一目瞭然。ずんぐりむっくりしたキュートな体形で、オウムの仲間なのに空を飛ぶことができないのだ。飛べない鳥という点では、同じくニュージーランド固有の鳥、キーウィと似ている。

写真:カカポが描かれたタバコの紙箱(1889)

手厚い保護

けれども、飛べないと言うことは逃げ足が遅いということを意味する。そのため、人間が持ち込んだネコやオコジョなどに捕食され個体数を大幅に減らすことになってしまった。しかし、『ナショナル ジオグラフィック』誌が2019年に掲載した記事によれば、現在では研究者たちが最先端の手法を駆使して保護・繁殖に取り組んでおり、徐々に成果も挙がってきているようだ。

写真:Kakapo Strigops habroptila "Sirocco" amongst renga renga lillies. Maud Island, New Zealand. Photo: Chris Birmingham, 2012. Source: Kakapo Sirocco, Authour: Department of Conservation, via Wikimedia Commons (CC BY 2.0), https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Kakapo_Sirocco_1.jpg

候補者選びで、また騒動

さて、「今年の鳥」に話を戻そう。カカポが出場禁止になったとしても、ニュージーランドには他にも多種多様な鳥たちが暮らしているのだから候補者には困らないはずだ。ところが、ここでまた別の騒動が持ち上がることとなったのだ。

写真:ニュージーランド固有種の「ケア(ミヤマオウム)」

絶滅種も候補に!

なんと、イベント主催者のもとに熱心な愛鳥家から連絡があり、100年ほど前に絶滅してしまった「ホオダレムクドリ」を候補者リストに入れなければ法的措置に訴えると伝えてきたというのだ。

写真:ニュージーランドの固有種で、絶滅してしまった巨鳥モア

ホオダレムクドリとは?

『ニュージーランド ジオグラフィック』誌によると、ホオダレムクドリは雌雄でくちばしの形状が大きく異なる唯一の鳥類であり、誤って別々の鳥に分類されていたこともあるという。マオリの伝説にも登場するほどニュージーランドでは馴染み深い鳥だったが、生息地の環境破壊で個体数を減らし、生きた個体の確実な目撃情報は1907年を最後に途絶えてしまったそうだ。

写真:ホオダレムクドリ(Huia, "Heteralocha acutirostris"), Source: Johannes G. Keulemans watercolour, from watercolour held at Te Papa, Author: J. G. Keulemans, via Wikimedia Commons (Public Domain),  https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Keulemans_Huias.jpg

畜産や農業の悪影響

『ガーディアン』紙によれば、この男性はイベント主催者の「Forest & Bird」に対し「人間の過剰な畜産や農業によって多くの鳥類が存続の危機に追いやられていることを、ニュージーランド人たちに思い出させる良い機会だ」と主張したようだ。

すでに50種あまりが絶滅

確かに、ニュージーランドでは巨鳥モアをはじめ多くの鳥類がすでに絶滅しており、前出の『ガーディアン』紙の記事によればその数は50あまりに上るという。

写真:ニュージーランド、オタゴ地方の洞窟で発見されたミイラ化したモアの頭部。

2021年はどうだった?

さて、そろそろ2022年の「今年の鳥」が知りたいところだが、その前に2021年の「今年の鳥」を見てみよう。というのも、このイベントは前回からすでに奇妙な事態が巻き起こされていたのだ。

写真:ニュージーランドを代表する鳥、キーウィ

「今年の鳥」はコウモリ?

2021年の「今年の鳥」に選ばれたのはマオリ語で「ペカペカ・トゥ・ロア」と呼ばれるコウモリの一種。なんと、鳥類ですらない。

写真:ペカペカ・トゥ・ロア(Scotophilus tuberculatus), Source: Proceeding of the Zoological Society of London 1857, Author: GH Ford, via Wikimedia Commons (Public Domain), https://commons.wikimedia.org/wiki/File:ScotophilusTuberculatusFord.jpg

 

在来種の哺乳類はコウモリだけ

ニュージーランド自然保護局(Department of Conservation)のウェブサイトにもある通り、実はニュージーランド在来種の哺乳類は、島内に数種が生息するコウモリだけなのだ。

写真:HitchHike / Pexels

人々の意識向上を

さらに、多くの鳥たちと同様に絶滅の危機に瀕していることから、人々の意識を高めるためにもコウモリが候補者リスト入りすることになった、と『ガーディアン』紙は報じている。

写真:固有種の鳥「ティエケ」を放鳥するため保護区を訪れるネルソン市のレイチェル・リース市長(右)とボランティア

繰り返される「不正疑惑」

同紙によると、ニュージーランドの「今年の鳥」を選ぶ投票では、これまでに何度も「不正疑惑」が持ち上がっているようだ。2019年にはロシアから多数の投票があり「選挙干渉」が疑われたが、結局、投票の正当性が認められたほか、2020年には鵜を不正に選出しようと、オーストラリアから300票あまりの偽装投票がなされたという。

写真:ニュージーランドで撮影された鵜の1種。

 

2022年の「今年の鳥」は?

さて、気になる2022年の「今年の鳥」がこちら。マオリ語で「ピワウワウ」と呼ばれるイワサザイの1種だ。ありふれた小鳥に見えるかもしれないが、れっきとしたニュージーランドの固有種だ。

写真:New Zealand Rock Wren (Xenicus gilviventris), Source: Department of Conservation Te Papa Atawhai, Author: Wynston Cooper, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0), https://commons.wikimedia.org/wiki/File:NZ_rock_wren_on_rock.jpg

 

「ピワウワウ」ってどんな鳥?

ピワウワウは20グラムに満たない小鳥で、ニュージーランド南島の山岳地帯にのみ生息しているという。この鳥を推薦する選挙運動を行ったスティーヴン・デイ氏は『ガーディアン』紙に対し、「山で時間を過ごしたことがない限り、2週間前まではピワウワウについて耳にしたことがなくても不思議ではない」と述べており、この鳥の知名度はニュージーランド国内でも高くないようだ。

写真:A NZ rock wren (Xenicus gilviventris) in rock fall, its preferred habitat, Source: Department of Conservation Te Papa Atawhai, Author: Graeme Loh, via Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0),    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:NZ_Rock_Wren_among_Rocks.jpg

ライバルはペンギン

一方、ピワウワウと激戦を繰り広げたのが、マオリ語で「コロラ」とよばれるコガタペンギンだ。『ガーディアン』紙によれば、ペンギン陣営は緑の党に所属するクロエ・スウォーブリック議員が選挙キャンペーンを先導し、多数の票を集めたが移譲式投票で惜しくもピワウワウに敗れたという。

自然を愛する人々の熱意

まるで本物の選挙のように白熱し、不正疑惑まで巻き起こるニュージーランドの「今年の鳥」選び。このイベントがここまで盛り上がるのはニュージーランドの豊かな自然と、それを愛する人々の熱意によるものだろう。

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