哺乳類と恐竜の死闘:中国で発見の珍しい化石
恐竜の時代に哺乳類がどんなふうに暮らしていたかについては、これまでにもさまざまな研究が行われてきた。しかし、中国で発見された白亜紀前期(およそ1億2500万年前)のある化石が、通説に異議を申し立てている。
その化石は、2012年5月16日、中国遼寧省の下部白亜系義県層陸家屯部層から発見された。この化石のすごさは、哺乳類と恐竜の直接的なコンタクトの瞬間を保存している点にある。火山の噴火で発生した火山泥流(ラハール)が、格闘中の二つの個体をあっという間に飲み込み、岩石のタイムカプセルに閉じ込めたのだ。
学術雑誌『Scientific Reports』に掲載された論文(2023年7月)によると、この化石が見つかった遼寧省陸家屯の地層は脊椎動物の化石が豊富に眠っていることで知られ、特にプシッタコサウルス(Psittacosaurus lujiatunensis)の化石がよく見つかるという。オウムのようなくちばしを持つ、二足歩行の草食恐竜だ
今回の化石も部分的にはやはりプシッタコサウルスのものだが、肉食哺乳類のレペノマムス(Repenomamus robustus)がその恐竜に組み付いている姿が見てとれるという。このレペノマムスはプシッタルコサウルスに比べ、二回りほど体が小さい。
「我々の推測では、これは哺乳類が恐竜を襲っているところです」と、研究メンバーの一員であるジョーダン・マロンは「NPR」(米国公共ラジオ放送)の電子記事で語っている。彼はカナダ自然博物館に籍を置く古生物学者だ。
研究者たちがこの化石で注目しているのは次のポイントである。まず、レペノマムスの左前脚の手が、プシッタコサウルスの下顎を掴んでぐっと力をかけている点。そして、レペノマムスがプシッタコサウルスの背中側から頭部近くの肋骨に噛みついている点、プシッタルコサウルスの屈曲した左脚に挟まれたレペノマムスの左後脚が、足指で前者の左脛を後ろから掴んでいる点である。
この狩りの光景は、恐竜の巨大な影に怯えながらこそこそと生きていた哺乳類、というような従来のイメージを一変させるものとなった。
オックスフォード大学自然博物館の古生物学者、エルサ・パンチローリ(Elsa Panciroli)はNPRの記事で、「私たちはつねづね、哺乳類を文字通り負け犬(弱者)として思い描いていました」と語っている。
しかし、哺乳類は決して負け犬などではなく、自分より体の大きな恐竜にも戦いを挑み、首尾よく仕留めて捕食していたのかもしれない。
この化石は、はるか昔この惑星で、哺乳類が食物連鎖においてどのような位置を占めていたか、生態系においてどんな役割を担っていたかについてのヒントを与えるものである。おそらく、思いがけない知見をもたらす化石がまだまだたくさん眠っていることだろう。今後、さらなる発掘と研究が期待される。