国内外で板挟み:在外ロシア人コミュニティの苦悩
国外在住のロシア人コミュニティは以前から世界各地に存在している。ところが、2022年にロシアによるウクライナ侵攻が始まると、こういった在外ロシア人たちは様々な悩みに直面するようになっている。
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ロシアによるウクライナ侵攻は数百万人に上るウクライナ難民の波を引き起すこととなった。一方、ロシアでも動員から逃れようとする人々や自国の方針に反発する人々など、数十万人が国外に脱出する事態となっている。
居住国におけるロシア人に対する不信感とロシアにおける在外ロシア人に対する不信感の間で、在外ロシア人コミュニティはかつてない板挟みに直面している。今回は写真を交えつつ彼らの証言を聞くことにしよう。
プーチン大統領の方針に賛成であろうとなかろうと、在外ロシア人たちは居住国の住民たちから白い目で見られることも少なくない。たとえば、人口の大部分がロシア語を流暢に話すジョージアだが、首都のトビリシでは以前からくすぶっていた反露感情が今回の戦争によってますます高まりを見せているのだ。
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匿名のロシア人証言者いわく、国境でロシアのパスポートを提示するのは居たたまれない気分だという。開戦以来、複数の国に出入りしたというこの人物は、「ロシアのパスポートは白い目で見られる」ことに気づいたのだ。けれども、その程度ならばまだ実質的なトラブルにつながるわけでない。
あるロシアのファッションジャーナリストは『マリ・クレール』誌の同僚に、以前から知り合いだったスタイリストから「もう話しかけないで、汚らわしいロシア人」というSMSを受け取ったことを明かしている。
『マリ・クレール』ロシア語版で編集者を務めるマーシャは、「国際社会が結束してウクライナを支持しているのはわかります。しかし、同時にロシア人に対する嫌悪感が広がっているのは不安です、ロシア人であるというだけで在外ロシア人が迫害されてしまうかもしれないからです」とコメント。
『マリ・クレール』誌はまた、人々の間で深まる溝が孤立を深める原因になっているという、営業部長イリーナ・エヴドキアの証言を取り上げている:「私の友人たちはよく両親との口論を話題にしますが、そういう人たちとは話さないことにしました。急に疎遠になり、少し見捨てられたような気分になることもありますが、自分を生んでくれた人たちの敵にはなりたくないんです」
一方、帰国を決意したロシア人たちにとっても状況は好ましいものとは言い難い。当局による執拗な監視が母国での生活を気まずいものにしてしまっているのだ。
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写真家のアリオナ(仮名)いわく、空港の入国審査では「なぜ長期間海外で暮らしていたのか、滞在先で何をしていたのか、誰と働いていたのか、滞在先以外ではどこに行ったのか」といった質問の嵐だったという。
そして、監視の目はプライベートの隅々まで行き届く。アリオナの場合、写真家であることを証明するため、入国審査の担当者にInstagramのアカウントを提示しなくてはならなかったほどだ。
さらに、二重国籍を持つロシア人に対しては特別な扱いがなされる。オレーグ(仮名)は帰国の際に、入国管理局が「もう1つの国籍について内務省に連絡した」ことを知らされたという。
また、モスクワでは街角や公共交通機関でもピリピリした空気が漂っているという。前出のオレーグいわく:「とくに地下鉄は警察官だらけです。私も彼らにタブレット(動員可能な男性を特定するツール)を向けられたことがあります。一言でいえばピリピリした空気が漂っているんです」
しかし、問題は母国における監視や、あちこちから向けられる冷ややかな視線だけではない。国外で暮らすうちにホームシックになってしまうロシア人も多いのだ。ある若いロシア人女性は、実家が恋しいので「すべてが終わったら」帰国したいと漏らした。
とはいえ、ロシアによるウクライナ侵攻によって世界情勢は一変してしまった。前出の女性は「すべてが非現実的に感じられる」と述べているが、これは在外ロシア人多くが抱いている実感だろう。
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アリオナをはじめとする在外ロシア人たちの間に広がっているのはあきらめの空気だ:「一般人にはどうしようもありません。権力のトップが決断を下してしまえば、あとは実行に移されるのみですから」
このように様々な困難に直面する在外ロシア人コミュニティだが、現状を前に悲観しきってしまったわけではない。ふたたび平和が訪れる日が来れば、母国がもっと好ましい役割を果たすことができるかもしれないと期待しているのだ。