ロシアの「戦争犯罪」を国連が認定
ドイチェ・ヴェレ放送によれば、国連の調査委員会はロシアの占領下にあったウクライナ領の少なくとも4地域で、処刑や拷問、性犯罪が行われていた証拠をつかんだと発表した。
調査委員会のエリック・モーセ委員長が国連人権理事会に対し「調査委員会が収集した証拠に基づき、ウクライナで戦争犯罪が行われていたという結論に達した」と報告したのだ。
『ガーディアン』紙によれば、モース委員長は人権理事会の場で「調査団が訪れた地域で多数の処刑が行われていたことが特に衝撃的だった」と述べたという。
さらに「遺体は後ろ手に縛られ頭部を撃ち抜かれていたり、喉を切り裂かれているなど、処刑が行われたことを明らかに示す痕跡が残されていた」と説明している。
公式報告によれば、調査委員会がこれまでに重点的な調査の対象としたのはキーウ州・ハルキウ州・スームィ州・チェルニーヒウ州の4地域だという。
国連の調査団は27の集落や町を訪れ、150人以上の被害者および目撃者に証言を求めたとしている。
さらに、調査委員会は「性暴力」の事例も報告。被害者の年齢は4歳から82歳まで広範囲に及んでいたという。
一方、ドイチェ・ヴェレ放送はウクライナ当局の発表として、最近ウクライナ軍によって奪還されたイジューム付近の集団埋葬地から400体を超える遺体が発掘されたと伝えた。
しかし、ウクライナにおけるロシア軍の残虐行為が明るみにでたのはこれが初めてではない。実際、ウクライナ当局はこの戦争が始まってからというものロシア軍の非道な行いについて何度も告発しているのだ。
ウクライナ政府は2022年6月の段階で、「大規模かつ深刻な人権侵害」を行っているとしてロシアを欧州人権裁判所に提訴。
ただし、ロシア下院は6月初旬に欧州人権裁判所のロシア領内における管轄権を剥奪する決定を下しているため、ウクライナによる提訴は象徴的なものに過ぎないと受け止められることとなった。
とはいえ、ウクライナ侵攻の過程でロシア軍が手を染めているとされる人権侵害は、国際社会にとって大きな懸念事項であるのは確かだ。
写真:ロシア軍との戦闘で死亡したウクライナ兵を追悼するため、キーウの独立広場に掲げられた国旗(2022年6月初旬)。
『ニューヨーク・タイムズ』紙の報道によれば、欧州連合(EU)のジョセップ・ボレル上級代表はロシア軍のウクライナにおける行いについて「戦争犯罪」と断罪し、とりわけロシアによる港湾封鎖を批判した。
6月20日の『ニューヨーク・タイムズ』紙で、ボレル上級代表は「ウクライナでは数百万トンの小麦が出荷できなくなっており、世界各地の人々が飢えに苦しんでいる。これはまさに戦争犯罪であり、こうした状態をこれ以上長引かせるわけにはゆかない」と表明したのだ。
写真:ウクライナの麦畑(2020年)
その後、ウクライナ当局とロシア当局は、オデッサ港を通じたウクライナ産穀物の出荷を保障することで合意。
一方、国境なき記者団は、ウクライナのベテラン戦場カメラマン、マクシム・レヴィン氏の遺体がキーウの北方30キロメートルの場所で発見されたことについて声を挙げた。同NGOの調査によると、被害者は「冷酷に処刑された」とされる。
しかし、国連人権理事会でロシアに資格停止処分が下された今、このような告発がクレムリンにどの程度影響を及ぼすのかは未知数だ。
国連総会は4月7日、ウクライナ侵攻中のロシアが戦争犯罪を犯しているとして、人権理事の資格を停止する決議を賛成多数で採択した。この決議は米国主導で行われたものだ。
衛星放送アルジャジーラによれば、告発された人権侵害のなかでも深刻なのはキーウ近郊の集落、ブチャにおける虐殺だという。ブチャでは300人以上のウクライナ市民がロシア軍によって殺害されたと見られている。
アムネスティ・インターナショナルは5月22日、ロシア軍がブチャで22人の犠牲者を不当に殺害した証拠を突き止めたと発表。
ウクライナのセルギー・キスリツァ国連大使(写真)は、ブチャの悲劇をはじめとする虐殺行為によって「ロシア連邦が当初、主張していた人権擁護の姿勢からいかに逸脱しているか明らかになった」として、各国に投票を促した。
また、キスリツァ国連大使は1994年のルワンダ虐殺を引き合いに出してこう述べた:「ルワンダで悲劇が起きてしまったのは、国連安全保障会議および総会で勧告が行われていたにも関わらず、国際社会が無関心な態度を取り続けたせいだ」
ロシアの人権理事資格停止に賛成票を投じたのは、米国・英国・フランス・ドイツ・カナダ・トルコ・韓国・日本をはじめとする93ヵ国だ。
一方、ロシア、中国、北朝鮮、イラン、シリア、キューバ、ボリビア、ジンバブエをはじめ24ヵ国が反対票を投じた。
また、決議投票を棄権したのは、メキシコ・ブラジル・インド・サウジアラビア・南アフリカ・パキスタン・アラブ首長国連邦をはじめとする58ヵ国。
写真:プーチン露大統領と中国、ブラジル、インド、南アフリカの首脳たち(2019年)。
しかし、ロシアのゲンナジー・クズミン国連大使は、動議が可決される数時間前にロシア当局は自ら離脱を決めたと発言した。
アルジャジーラはクズミン国連大使の言葉として、「我々が今、目の当たりにしているのは米国による一極支配維持の試み、人権における植民地主義継続の企てだ」という主張を伝えた。
写真:ロシアによるウクライナ侵攻開始後、ポーランドに展開する米軍(2022年3月)。
『ニューヨーク・タイムズ』紙の報道によれば、英国のバーバラ・ウッドワード国連大使は「ロシアの行動は、すでに解雇された従業員が辞表を提出するようなものだ」と応酬した。
一方、米国のリンダ・トマス=グリーンフィールド国連大使は、この決議を重要な歴史的瞬間であるとコメント。「悪質な人権侵害を常習的に行う国家には国連人権理事会でリーダーシップを取らせないという、断固とした姿勢を示すことができた」としている。
また、欧州連合(EU)、オロフ・スクーグ国連大使は「今日下された類を見ない決議が説明責任を求めるメッセージとなり、人権侵害の予防・阻止に貢献することを願っている」と述べた。
一方、中国の張軍国連大使は、この決議は「人権分野における対立を激化させかねない」危険な前例になった、と主張した。
国連は第二次世界大戦後の安全保障という考えに基づいて、1945年に創設された。安全保障理事会の常任理事国が、米国・ロシア・フランス・英国・中国の5ヵ国なのはそのためだ。
常任理事国が国連人権理事会の資格停止処分を受けたのは、今回が始めて。冷戦中の緊迫した状況下ですら起きたことがない事態なのだ。
人権理事資格を剥奪された唯一の前例は、反カダフィ派を弾圧したリビアに対して2011年に発動されたケースのみだ。
写真:プーチン大統領とカダフィ大佐、モスクワにて(2008年)。
『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、ロシアは引き続き人権理事会メンバーの地位は保っているという。ただし、自国が直接関係する場合を除き、決議案や修正案の提出、理事会への働きかけ等を行うことができない。
資格停止処分は、総会が解除の決議を行わない限り、ロシアの任期が切れる2023年まで続くことになるという。