売却済みの防衛装備を買い戻すロシア:ウクライナ侵攻による兵器不足で
『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙によれば、ロシア政府は同国が販売した防衛装備や部品を買い戻すため、複数の国と接触を図っているという。そこで、今回はウクライナ侵攻の長期化に対応するため、兵器回収にやっきになるロシアの実態にせまろう。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は、ロシア政府がウクライナ戦争前に各国に売却した防衛装備や部品の一部を買い戻すため、ベラルーシ・ブラジル・エジプト・パキスタンと秘密裏に会談を行っていたと報道。
匿名の情報筋によれば、ロシアは自国の防衛産業が輸出した装備品を買い戻す試みにおいて、部分的に成功を収めていると見られる。
写真:Wiki Commons By Radomil talk - Own work
例えば、4月にカイロを訪問したロシア政府の代表団は、エジプトが購入した100基あまりのヘリコプター用エンジンをロシアに返還するようシシ政権に求めたとされる。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙が匿名で取材に応じた関係者3人の話として伝えたところによれば、シシ政権はヘリコプター用エンジン150基の返還に応じ、12月には作業が始まる見込みだという。しかし、防衛装備の買い取りでロシアと合意したのはエジプトだけではない。
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あるロシアの元諜報員は同紙に対し、ロシア当局が攻撃ヘリおよび輸送ヘリ用のエンジンを入手するため、パキスタン・ベラルーシ・ブラジルに目をつけたと証言。
写真:Wiki Commons By SSgt. Angelita Lawrence
『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の報道によれば、ロシアはパキスタンに対しMi-8ヘリコプター用エンジン少なくとも4基の返還を求めたほか、ブラジルに対してはMi-35用エンジン12基、ベラルーシに対しては大型輸送ヘリMi-26用のエンジン6基を求めているようだ。
写真:Wiki Commons By Vitaly V. Kuzmin
ロシアはウクライナ侵攻を開始して以来、かなりの数のヘリコプターを失っている。オランダのオープンソース・インテリジェンス・サイト「Oryx」の検証によれば、11月14日時点でロシア軍が喪失したヘリコプターは132機に上ると見られている。
ロシア軍が失ったヘリコプター132機のうち102機はウクライナ軍の攻撃で破壊されたほか、28機が損傷。2機は鹵獲されたとのこと。
内情に詳しい関係者の1人いわく:「ロシアは軍需品貿易の構築に数十年を費やしました。そして今、秘密裏に販売先の国々と交渉を行い、売却済みの装備を買い戻そうとしているのです」
『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙によれば、ロシアは売却済みの防衛装備の買戻しを図る一方で、本来は輸出用として製造された軍需品をウクライナの戦場に送り込んでいるとされる。
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CNN放送は3月、ロシアとインドの間で緊張が高まっていると報道。それによれば、ロシアがインドに供給するはずだった装備がウクライナ侵攻の影響で予定どおり納入されていないことをインド議会が問題視したためだという。
写真: Wiki Commons By Prime Minister's Office
インド議会の報告書によれば、同国の当局者の1人はウクライナ侵攻の影響でロシアからの軍需品輸入が滞っているため、予算が下方修正されたと説明したという。
ロシアによる軍需品の輸出削減であおりを受けているのはインドだけではない。『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙によれば、アルメニアも2023年には自走式多連装ロケット砲「BM-21 グラート」と「BM-27 ウラガン」の供給をほとんど受けられていないとのこと。
こういったロシア製兵器の不足は地域紛争にも影響を及ぼしている。たとえば、アルメニア系住民による事実上の独立状態にあったナゴルノ・カラバフ自治州をアゼルバイジャンが9月に軍事力で奪還した背景には、アルメニア人勢力の弾薬不足があった。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の記事によれば、「ロシアが売却済みの装備を買い戻そうと躍起になっているのは、ウクライナ東部および南部でウクライナ軍の反転攻勢を食い止めなくてはならないという事情によるもの」だとされる。
同記事いわく「戦線が膠着状態に陥る中、ロシアは戦場で主導権を取り戻そうとしているが、新たな補給によって攻撃の強化に必要なリソースが揃うかどうかは不明」だとのこと。
兵器輸出の削減がロシアの軍需産業全体にどの程度の影響を及ぼすのか、今のところ定かではない。しかし、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙はロシアが2022年に達成した軍需品輸出額について80億ドルに留まると推定しており、2021年の145億ドルを遥かに下回る数字となっている。