失墜するロシアの軍事的影響力:周辺国からの侵攻を招く可能性はあるのか?

世界最強の軍隊……だった
相次ぐプーチン大統領の失態
失墜するロシアの権威
もはや不敗の帝国ではない
武力の支配する世界
余力のなくなるロシア
日本が対立姿勢を明確に
「不法占拠」
小さいが大きな変化
ロシアの権威の低下を象徴
中国でロシアの崩壊を予想?
フェイクニュースだったが……
中露間にも領土問題が
ロシア政府はなにを恐れているのか
自ら生み出したレトリックに怯えるロシア
ヨーロッパ側でも気になる動きが
カリーニングラードがクルレビエツに
ロシア政府は怒りのコメント
湧いてくる疑問
世界最強の軍隊……だった

ウラジーミル・プーチン大統領がウクライナへの侵攻を開始したとき、世界の多くはロシアの軍事力が見せつけられることを恐れた。それまで、ロシア軍と言えば世界最強の無敵の軍隊だと考えられていたのだ。だがその認識も2022年2月までだった。

相次ぐプーチン大統領の失態

ウクライナ侵攻がプーチン大統領の望んだようには進んでいないということが明らかになるのにそれほど時間はかからなかった。世界中のメディアがプーチン大統領の目論見が外れたことを報じ、ウクライナが奮戦しロシアの侵攻を押し返したことを称賛した。このことが重大な結果を招く可能性があるかもしれない。

失墜するロシアの権威

ロシアのウクライナ侵攻がうまくいっていないのは朗報ではある。だが、世界第二の軍事大国としてのロシアの権威が失墜すると、世界情勢に大きな影響を及ぼし、より重大な人道的危機を招く恐れがある。周辺国がロシアの軍事力を恐れなくなってしまうのがその主要な理由だ。

もはや不敗の帝国ではない

『デイリー・テレグラフ』紙のスヴィトラーナ・モレネツ記者はこう語る:「ロシア政府は内外に向けて自国を不敗の帝国としてアピールしていますが、それが事実でないことはもはや周知の事実です」さらに、ロシア政府がウクライナに集中しているあいだに、周辺国はロシアの隙を虎視眈々とうかがっているとも述べている。

武力の支配する世界

モレネツによれば、ロシア政府はみずからの行いによって武力による領土奪取が可能な世界を作ってしまったことを恐れるべきだという。なぜなら、そのような世界においてはより強大な武力を持つ国が現れればロシアから領土を奪おうとするのは必然であり、すでに変化は現れ始めているからだ。

余力のなくなるロシア

ロシアがウクライナに戦力を集中させていて余力がないと明らかになるとすぐに、ロシア政府と対立してきた周辺国は旗色を鮮明にしてきて、第二次世界大戦以来のユーラシア大陸におけるロシアの支配に立ち向かいはじめている。

日本が対立姿勢を明確に

ロシアへの対立姿勢を明確にした最初の国は日本だ。日本政府は以前から北方領土を日本固有の領土とみなしており、ロシアとの間に領土問題が存在した。

「不法占拠」

2023年2月7日、「北方領土の日」に東京都内で北方領土返還要求全国大会が開催され岸田文雄首相も出席。「77年前、ソ連によって不法占拠されたまま今日に至っていることは決して許されるものではない」というアピール文が採択された。

小さいが大きな変化

アピールに「不法占拠」という表現が使われたのは2018年以来で、ロシアへの対抗姿勢を強めたと考えられている。産経新聞が報じた。

ロシアの権威の低下を象徴

このような僅かな表現の違いはともすれば瑣末に見えるかもしれないが、国際政治の世界においてこういった強い表現が用いられるのはロシアが周辺国に及ぼす影響力が低下したことを如実に表すものと捉えられる。そして、他の国々は日本ほど辛抱強くはないかもしれない。

中国でロシアの崩壊を予想?

ロシアにとってもっとも懸念すべき変化は、今も残る数少ない同盟国、中国からのものだ。3月、インターネット上に加工された画像が出回り、中国国営テレビ局の中国中央電視台が崩壊後のロシアを予想する地図を放映したとされた。

フェイクニュースだったが……

ロイター通信によればその画像はフェイクだったと後に明らかになったが、これをきっかけに中国ではかくてロシアに奪われた領土をめぐる議論が白熱。一見すると際限のない支援とも見える中国の対ロシア政策の水面下にひそむ緊張感があぶりだされた。

中露間にも領土問題が

『ノエマ・マガジン』によると、かつて中国の一部だった満州地域は第二次世界大戦の結果大部分がロシアに渡り、いまもそのままとなっている。満州地域には貴重な資源が豊富に存在し、中国にとっては戦略的に非常に重要な地域となっている。

ロシア政府はなにを恐れているのか

同誌によると満州には「重要な都市や軍港が置かれ」ているが、ロシア統治下でこの地域の開発はあまり進んでおらず、近年では中国系移民の増加がロシア政府の懸念するところとなっているという。だが、移民の増加がなぜロシア政府にとって問題なのだろうか。

自ら生み出したレトリックに怯えるロシア

考えられる理由の一つは、ロシアがウクライナ侵攻を正当化したのと同じレトリックを中国が持ち出す可能性があるということだ。将来この地域の重要性が増したときに「中国系住民の保護」を理由に中国が進出してくる可能性は、自らの行いを振り返れば否定できない。

ヨーロッパ側でも気になる動きが

いまのところ、極東ロシア地域で具体的な紛争が起こる前兆はない。だが、西側のカリーニングラードで起きたことは、このままロシアの権威が失墜し続けた時に起こることを予測するために有益なケースとなるかもしれない。

カリーニングラードがクルレビエツに

2023年5月、ポーランドで同国に接するロシアの飛び地、カリーニングラードの呼称を歴史的な呼称であるクルレビエツに戻すことが発表された。この一方的な決定はロシア国民の反感を呼んだと『ガーディアン』紙が伝えている。

ロシア政府は怒りのコメント

ロシア政府のディミトリ・ペスコフ報道官は会見でこう述べた:「歴史上、ポーランドがこのようにロシアに対する狂気的な反感に突き動かされることは時折みられている」

湧いてくる疑問

いまのところポーランドはカリーニングラードに対して領土的な主張をしているわけではないが、こういった状況を見ているとある種の疑問が湧いてくる。もしロシアの権威が失墜を続ければ、周辺国が領土の返還を求めて武力を行使するという事態も起こりえるのだろうか?

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