「孤独感」の在り方は「幸福感」と比して千差万別:南カリフォルニア大学による研究結果とは
米国で発表された研究により、孤独な人が周囲の人とどう違うのか、神経生理学的なしかたで具体的に説明がなされた。それによると、孤独でない人は(神経生理学的な側面において)みな似ているが、孤独な人同士は似ていないのだという。
さかのぼること2018年、医学誌『ランセット』に掲載された論文によってすでに、われわれの社会の諸問題の根本には社会的孤立、あるいは孤独といった問題があると指摘されていた。これはコロナ禍以前のデータだが、先進国の人口のじつに12人に1人が孤独な状態にあったという。
孤独な状態は、その人の性別や収入の多寡、出自や民族、学歴などにかかわらず誰にでもやってくる。そして孤独な状態にあることは、危険な結果をもたらしうる。研究によると、孤独でいると早死しやすく、健康上の重大なリスクを抱えやすくなるという。
孤立・孤独の問題に取り組むことは、したがって政策を立案する立場の人々にとっても、ひとつ重大な課題になることは間違いない。
孤独をめぐる以上のような現状のもと、南カリフォルニア大学の心理学部助教授エリーサ・ベック(Elisa Beck)を中心とする研究グループは、孤独な人々の脳の中で何が起きているかを解明すべく研究を始め、その成果を論文の形にまとめた。論文は2023年4月、『Psychological Science』誌に掲載された。
研究グループはまず、孤独な状態にある人々が、多くの場合、自分のことを他人が判ってくれないと感じている(と自己報告している)ことに着目した。そして問いが立てられた:「孤独な人々のそのような感じ方は、何に起因するものなのか?」
研究グループは、この問いをふまえて仮説を立てた。孤独な人はそれぞれ、現実的な刺激・自然な刺激(つまり、ふつうに生きていて目にするような映像など)について、他の実験参加者と比べて特異な神経反応を示すのではないか。つまり、孤独な人の世界の受け止め方は、ほかの人とは大きく異なっているのではないか、という仮説である。
この仮説を検証すべく、研究グループは66人の実験協力者(南カリフォルニア大学の一年生)の脳活動をスキャンしたところ、孤独な人の神経反応は、とくに脳内ネットワークのひとつである「デフォルトモードネットワーク」という活動において、その他の人々の神経反応とは大きく異なっていたという。
「デフォルトモードネットワーク」において類似の神経反応が認められる場合、ものの見方が一致していたり、主観的な考えが共有されていたりする状態にあると考えられるという。
研究グループは次のように考察する:「今回の研究の結果から、孤独な人々は周囲の世界を特異なしかたで処理している、ということが示唆されます。このことは、孤独な状態にしばしば付随する感覚、つまり、自分があまり理解されていないと感じることの一因になっているのかもしれません」
彼らはさらに続ける。「つまり私たちの研究では、孤独でない個々人はお互いにとても似通った神経反応を示したのに対し、孤独な個々人はお互いに、そして孤独でない個々人に比べて、いちじるしく異なる神経反応を示したのです」
ところで、その研究は具体的にどのようになされたのか。研究に参加した学生たちは、まずアンケートに記入するよう求められる。その質問用紙は、大学の寮のコミュニティにおける社会生活についてどんなふうに感じているかを詳細にたずねる内容になっている。このアンケートの回答をもとに、それぞれの学生の社会的断絶のレベルが算出される。
この社会的断絶レベルにもとづいて、研究者たちは参加者を二つのグループに分けた。一方が孤独な人々、もう一方が孤独でない人々である。
参加した学生たちは次に、合わせて14本のビデオクリップ(音声付き)を見せられる。その間の脳の活動を、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)によって視覚化する。研究者たちは、その実験の結果を先だってのグループ分けと照らし合わせて分析したのである。
その結果、孤独な人々はそうでない人々と比べて、より特異とみなされる脳活動のパターンを示したという。つまり、孤独な人々はめいめいに独特なしかたで世界を見ている、と言えそうなのだ。
「驚くべきことに、孤独な人と孤独な人とは、似ている点はごくわずかだったのです」と、エリーサ・バック助教授は南カリフォルニア大学ウェブサイト(「News and Events」のページ)で語っている。
エリーサ・べック助教授はトルストイの『アンナ・カレーニナ』の有名な書き出し(「幸福な家庭はどれも似たようなものだが、不幸な家庭はそれぞれ独自に不幸である」)をふまえて、孤独な人々はそれぞれに特有な孤独を生きており、万人にあてはまるような孤独を経験しているのではないのです、とコメントしている。
また、孤独の度合いが高い人ほど、脳の反応の特異さもいちじるしく、それは友だちが何人いるかとは無関係だったという。
まわりの友人とは別なふうに世界を眺めているということは、たとえそれが人付き合いのいい人であっても、孤独な状態を発達させる要因になりうる。脳の特異な神経反応と孤独の連関についてさらに研究を深めたいと、エリーサ・ベック助教授は語っている。